第300話 魔王が目を覚ましたので謁見の続きを行った。

カタリナが救護士を連れてきて魔王を診る、クズノハがひっぱたいた時すごい音がしたし結構心配なんだけど。


「大丈夫です、しばらくすればお気づきになられますよ。

 ところで、どうしてこのような事に?」


俺・カタリナ・クズノハという3人とも事実上外部の人間しかいない状況で魔王の気絶、何かあると考えるのが妥当だ。


「ワ……魔王が村長に対してとんでもない事をお願いしだしたのじゃ。

 村の料理を無料で魔族領に提供しろなどと……誰から見ても外交として最悪じゃろ!」


「それは魔王様が悪いです。

 そりゃ思いっきりひっぱたかれますよ。」


どうとでもなる言い訳をすんなり受け入れる救護士。


「俺が言うのもなんだけど、もっと疑わないのか?」


「魔族領の近代英雄である未開の地の村の村長とその奥様、それと魔王様の伴侶となられるクズノハ様を疑うなんて畏れ多いですよ。

 最初は血迷ったかと思いましたが、外傷と状況を見て本気で謀反を起こそうとしたわけじゃなさそうですし。

 傷害として魔王様が罪を申請したら罪に問われますが……。」


「その心配はいらぬのじゃ……いたた。」


「お気づきになられましたね、魔王様もあまり人をからかうものではございませんよ?

 では私はこれで。」


救護士は一礼して謁見の間を後にする、その後衛兵がこちらを覗いていたがすぐに引っ込んだので大丈夫そうだ。


「まったく、思いっきり叩きすぎじゃぞ。

 まだヒリヒリするのじゃ……。」


「当たり前じゃろう、特に困窮してるわけでもないのに村に無償で料理を提供しろなどと!

 我は魔王に嫁いでも、村に不利しか起こらぬことをするなら怒るぞ?」


耳と尻尾の毛を思いっきり逆立てて怒りの表情を向けるクズノハ。


あんな状態見たことないから本当に怒ってるんだろう、だが俺はそこまで怒りを感じてない。


「魔王、何か考えがあるんじゃないか?」


「当たり前じゃろう。

 まったくクズノハめ、早とちりで騒ぎを起こしおって……。」


やっぱりな。


魔王とは何度も仕事の話をしてきたが、こちらが一方的に不利になるような提案はしてこなかったし――何より魔王には商才があると思う。


領の裕福さでは魔族領は人間領より明らかに勝っているからな、そのあたりは領が上手くやっている部分もあるだろう。


もちろん商人ギルドの手腕あってこそだろうが。


「村長は分かっておったのか……妻となる我が分からなかったのは恥じるべきじゃの。

 しかし内容次第じゃ、下らぬことだったらアレは無しにする。」


「それはダメじゃが、下らぬことではないので大丈夫じゃの。

 村の料理を無償で提供と言っても少しじゃ、試食程度と言えば分かりやすいかの。

 定期便で村に行けばこれ以上の料理があるぞと銘打ってもらえれば、行ったことがない人は興味を持ってくれるはずじゃ。

 行ったことある人は思い出してまた行きたくなるじゃろうしの。」


「村としては嬉しいが、魔族領にメリットはあるのか?」


魔王の話を聞く限り、村への観光を促す提案をしてくれているので将来的には利益に繋がるだろう。


だが魔族領にメリットが見当たらない、いくら魔王の提案でも村だけがいい思いをするのは違う気がするし。


「割符の交付料と生産性向上かの。

 後まだ何かあるかと言えば、魔族領の外にもっと触れてほしいという私の願望じゃな。」


「村の料理の試食と生産性向上は繋がらんじゃろ?」


魔王の答えにクズノハが疑問を呈する、それは俺もちょっと思った事だからちょうどいい。


「村の食事が普段だとそう思うかもしれんが、魔族領の食事が普段じゃと村の食事は美味しいと思うのが普通なんじゃ。

 その食事が割符を交付すれば好きなだけ食べられるとなると、魔族領の住民は頑張ってお金を稼ごうとする。

 割符は少し高いからの、諦める人も居るのじゃが食事を口にすれば頑張って稼いで行きたくなるじゃろ。」


なるほどそういう事か、やっぱり魔王って商才あるよな。


魔族領と村の両方で利益を出しつつ、損も最低限にしながら生産性を向上させて更なる利益を産めている。


この謁見の間にそれが思いついたんだろうし、本当にすごい。


「むぅ、思った以上にまともじゃった……。」


クズノハは地味にひどい事を言ってる。


「魔王様、そのお考えに少々意見させてもらっていいですか?」


「む、其方はカタリナ殿じゃったか。

 良いぞ。」


「魔族領からも村へ食事提供をしてはいかがでしょう。

 村と食料の状況が違うのは分かっているので、もちろん無理のない程度でいいですから。

 魔族領の方々が村の料理を美味しいと思うように、村の住民も魔族領の料理を美味しいと思っています。

 特にお菓子類はドワーフ族の奥さんが修行しに来るほどですから、間違いなく需要はありますよ。」


カタリナが普通にいい案を提示する、確かにそれならお菓子の普及も早そうだ。


「確かにそれは魅力じゃが、村ならいずれ作れるようになるじゃろ。

 魔族領の旨味があまり……。」


「ホーニッヒとチーズを格安でお譲りする権利を付けましょう。」


「何じゃと!?

 村長、奥方がこんなことを言っておるがいいのか!?」


「量に制限をかけていいなら問題無いぞ。」


それを聞いた魔王は本日二度目の気絶、ハチミツってこの世界ではそこまで貴重なんだな……。


「ホーニッヒはやりすぎじゃろ。」


魔王を介抱中クズノハから少し怒られる。


後から聞くとホーニッヒの小瓶1つが金貨数枚で取引されるらしい、知らなかったんだよ……すまない。

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