第299話 久々に魔王と謁見をしにいった。

メアリーが誘拐された日の夜、色々ありすぎてかなり濃密な一日だった。


メアリーは今日のうちにパーン族へ食糧を届けるついでに話をしたらしい。


助かるためなら何でもしたいと言っていたが、長が帰るまでは何も出来ないとのことだ。


それなら仕方ないという事で帰ってきたので、実質情報が得られなかったメアリーはしょぼくれていた。


話をしている時「あの牢はどうやって開けるのですか?」と聞かれたが俺か流澪しか開けれないと伝える。


だってあの牢、扉無いし。


開けれるかどうかというより破壊できるかどうかだな。


オスカーやシモーネが中の人の生死を問わないなら破壊できるかもしれないが、それ以外は俺の想像錬金術イマジンアルケミーか流澪の想像剣術イマジンソードプレイで斬るしかない。


扉なんて付けたら何があるか分からないだろうと言うと「開様は怒ると本当に容赦が無いですね……。」と言われた。


俺からしたら、圧倒的な力でトラブルを制圧してきた村の住民の方が容赦無いと思うんだけど。




次の日。


朝食を済ませた俺とカタリナは、昨日のうちに声をかけておいたドワーフ族とドワーフ族の奥さんを広場で待つ。


カタリナは昨日言っていた通り正式な場で着るための服を着ていた、奇抜な格好じゃなくてよかった。


「どう、似合う?」


「似合ってるぞ。」


ボディラインが結構はっきり出ててドキッとする。


着る人を選ぶはずだが、カタリナはそれを見事に着こなすスタイルを持っているからな。


果実こそ4人の妻の中では一番控えめなものの、一番モデル体型をしているのがカタリナだ。


何を着ても大体似合う、なんで俺の妻は誰も太らないんだろう。


「村長も新しい仕事着を買えばいいのに。

 それ最初に行商から買ってずっと着まわしてるじゃない。」


「まだ着れるしなぁ。

 それに誰かに見られるような容姿をしてないし。」


「この世界の最重要人物が何を言ってるんだか。

 公共の場に出たら村長は間違いなく誰かには見られてるわよ、ちゃんとした服装をしてなきゃ恥ずかしい思いをするかもしれないのに。」


そんな事を言われてもなぁ……今日は服屋に行く予定は無いし今度選んでみるか。


「すまん、待ったかの。」


「お待たせしましたぁ。」


「大丈夫だぞ、そんなに待ってないから。」


カタリナと雑談をしているとドワーフ族と奥さんの2人が広場に到着。


よし、それじゃあ早速出発するとするか。


まずは魔族領だな、前みたいに手早く謁見出来ればいいけど。




「それじゃ私達は商人ギルドへ向かいますので。」


「分かった、気を付けてな。」


ドワーフ族と奥さんは主に商人ギルドへ用事があるので2人で向かってもらう。


自転車は生産した量と流通している量を見れば、ドワーフ族なら今後どれくらいの仕事をすればいいか判断してくれるだろう。


奥さんはお菓子の味をどれだけ覚えれるかだな……レシピが手に入ればそれに越したことはないが、流石に難しいだろうし。


「それじゃ私達はお城へ行きましょうか。」


「そうだな、仕事だから特に面白くもないけど。」


俺とカタリナは魔王が居る城へ向かって歩く、道中結構声をかけられることが多かった。


カタリナの言う通り結構見られてるんだな、服装とかも意識しないとダメなのだろうか……。


今度妻達に見繕って……はやめておくか、着せ替え人形はもうこりごりだし。


「魔王様に謁見するならクズノハさんも連れてきたらよかったわね。」


「公私混同をするのは良くないだろう。

 2人は自分の時間で会っているだろうし気にする事はないさ。」


「そういうものかしらね。

 私なら長い時間離れてるのは嫌だけどなぁ。」


「次の稔の季節には夫婦になる、それまでの辛抱さ。」


だがそう言われると結構長いな、まだ半年くらいあるわけだし。


実際遠距離恋愛みたいなものだろう、転移魔法陣のおかげで距離は近いが会える時間はかなり少ないはず。


そう思うと結構辛い、カタリナの気持ちも分かるな。


そんな話をしていると城に到着、受付で魔王への謁見を申し込むと猛ダッシュで受付の人が謁見の間に向かっていった。


「今度から事前に訪問することを伝えてあげたほうがいいんじゃない?」


「行くって決めたのが昨日だからなぁ。

 時間に余裕がある時はそうするよ。」


魔族領と交流を持ってからほとんどアポを取ったことがないので、するかどうかは分からないけど。


常識的に考えたらしたほうがいいんだろうな。


「村長と奥様、お待たせいたしました。

 魔王様が今から謁見されるとのことですのでお入りください。」


受付の人が戻ると即座に謁見の間に通される、前にもこういうことがあったが俺の前に謁見してた人は大丈夫なのだろうか。


謁見の間から出てきた人と軽く会釈を交わし、俺達も謁見の間に入る。


「急な訪問でびっくりしたのじゃ、今日はどうしたのじゃ?」


「村長が来るなら我は日を改めたほうが良かったかもしれぬの、これでは日常になってしまうのじゃ……。」


「「クズノハ!?」」


謁見の間に入ると、俺とカタリナは魔王への挨拶より先にクズノハの名前を叫んでしまう。


そりゃそうだろ、村に居ると思っていたクズノハが謁見の間で魔王の隣に作られてる玉座に座ってるんだから。


「何をしてるんだ?」


「魔王の妻となる訓練のようなものじゃ。

 夫婦となって仕事を覚えるのも良いが、魔王の妻ともなると仕事量は結構あるんじゃよ……なので空いた時間に謁見にだけでも慣れるため参加してもらっておるのじゃ。」


なるほどな、まさかそんな努力をしているとは。


2人からしたら仕事とはいえ一緒に居れるから一石二鳥なのかもしれないけど。


「さて、クズノハの為にもいつも通り仕事をしよう。

 今日はどういった用事で来たのじゃ?」


魔王が今までの謁見で一番真面目な顔をしている、クズノハの前でいい格好を見せようとしているのだろうか。


茶化す必要も無いので俺もしっかり魔王へ伝えるべきことを伝える。


「――大体分かったのじゃ。

 銀に関しては報告の必要は無いのじゃ、村がそのような真似をするとは思っておらぬからの。

 むしろそういう情報が出て良からぬことを考える輩が向かう事の方が心配じゃし。

 それと村の料理を魔族領でも提供するという件じゃが、それは許可出来ぬ。」


「魔王から否定的な答えを貰うのは初めてだな、理由を聞いていいか?」


「価格崩壊が起きるからじゃ。

 あのクオリティを他の料理店と同じような値段で提供されると可哀想過ぎるじゃろ。」


なるほど納得。


魔族領の料理店も決して美味しくないわけではない、俺だって好きな食べ物もある。


だがそれ以上に村の料理が美味しいのを魔王も分かっているのだろう、だからこその拒否か。


「値段を高めにしてもダメなの?」


カタリナが魔王に質問をする、確かにそれなら問題無いかもしれない。


「それじゃと富裕層しか楽しめなくなるからの、村の料理は色んな人に味わってもらいたい……そうじゃ!」


「どうしたんだ?」


「村長よ、無料で魔族領に料理を提供してくれぬか!?」


魔王がいきなり物凄い事を言い出した、確かにそれなら色んな人に味わってもらえるけど……。


「何を言っておるのじゃバカワルター!」


その言葉を聞いたクズノハが魔王の後頭部を思いっきりひっぱたいた。


人って一撃で気絶するんだな、とりあえず起きるまで謁見は中断で。


カタリナが救護班を呼びに走る、クズノハは「まったく……!」と玉座に座ってプリプリしている。


これ、クズノハの立場結構ヤバいんじゃないか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る