第293話 無事メアリーを救出することに成功した。

メアリー救出部隊がパーン族の里に到着、見張りか斥候か分からないが物凄い速度で里の中央に走っていくのが見えた。


「ロルフ、上位とやらが居るのは里の中央で間違いないか?」


「間違いない、外周に住むのは下位のパーン族だ。」


なら俺達が目指すべきは中央、メアリーもあそこに居るだろう。


「パーン族の上位は里の中央に居る!

 周りに住むパーン族は保護対象だ、一切の攻撃を禁ずる!

 誘導部隊とはここで分かれる、元サキュバス・インキュバス族の里にパーン族を誘導し保護を、メアリー救出本部隊はそのまま中央へ向かえ!

 向こうが手を出して来たら完璧に防ぎ力の差を思い知らせるんだ!」


「「「「「はい!」」」」」


「うむ、正しい判断と指示だ。

 板についてきたではないか。」


俺が指示を出した後オスカーから褒められる、ちょっと嬉しいけど今は素直に受け取れる程気持ちに余裕が無い。


「出来ればやりたくないんだけどな。

 だが今は仕方ない、妻であるメアリーが誘拐されたんだからな……村の住民におんぶにだっこされるわけにはいかないし。

 オスカーもドラゴンの姿で本気を出していいぞ、誰も殺さないのが条件だけど。」


「はっはっは!

 その条件では力の一割も出せんわ――だが、少々痛い目に合わせないとパーン族は自分達の立場が理解出来んだろう。

 本能で恐怖を感じすくみ上るくらいの威嚇はしてやるか……戦う時に本来の姿になるのは人間領の闇討ち以来だ。

 村長も背に乗るがよい、メアリー殿のところまで連れて行ってやろう。」


オスカーはそう言った直後ドラゴンの姿に変身する、背に乗れというジェスチャーをしたので遠慮なく乗らせてもらうことに。


ロルフも乗ろうとするがオスカーが拒否、尻尾で軽く突き飛ばしてしまう。


何故だという表情を浮かべたロルフだが、ロルフにはしてもらう事があるし仕方ない。


「ロルフは避難の手伝いをしてくれ、村の住民達だけじゃ不安を感じさせてしまうからな。

 同じ種族から安全だという声があれば、信用されて避難の効率も上がる――頼むぞ。」


「……分かった、そちらは頼んだぞ。」


言われなくとも、妻の命がかかっているんだし。


よし、それじゃあ急いで向かうとするか――メアリー、無事でいてくれよ。




メアリー救出の本部隊が里の中央、パーン族の上位が居る場所に到着。


俺とオスカーは少し遅れたんだが、先に到着してる他の人達が何かを行動しようとする気配が無い。


それどころか何か悩んでいる様子だった。


「何をしてるんだ、早く動かないとメアリーに何かあっては――」


「村長、あれを見てください……。」


俺達が居る中央でもひときわ大きい建物、その奥でメアリーが苦笑いで頬をかきながらこっちを見ている。


奥ではパーン族の上位と思われる人物が十数人土下座の態勢。


メアリーはここだという勘は当たってたが、こういう状況になっているとは思わなかったぞ。


「えーっと、とりあえず何があったか教えてくれ。」


「分かりました、実はですね――」




メアリーの話を聞いて状況は分かった、ストーンカは村が出来てすぐくらいにメアリーが相当怖がっていたし俺もどんな魔物かはその話で聞いてる。


未開の地でもかなり強い魔物のはずだが、3体を一瞬で討伐するとは……その弓のおかげでもあるんだろうが、メアリー自身相当強くなってるんだな。


それにしても、キュウビの話を信用せず村から食糧だけを取ろうという魂胆だったとはな……ロルフは本当に捨て駒扱いをされていたという事か。


同じ種族で仲間のはずなのに、どうしてそこまで卑下するのかは分からないが、そういう文化だと捉えるしかない。


そこまで傲慢になっていた上位のパーン族は今情けない姿になってるけど。


「私の弓の威力を見せて確かめさせて、村が神の庇護下に居ると言う事実を納得させた直後開様達が来てこのように。

 私が話しても謝ることしかしなくなってしまいました、神に選ばれている開様が話してみてはどうです?」


だから選ばれたのは本当に適当なんだって、スキルはあるけど神の庇護下にあるわけじゃない……あの神様は何もしてないだろうししてこないだろう。


その分ドリアードが守ってくれてるけどな。


とりあえずパーン族の上位と話をしないと、この落とし前やら何やら――色々話すことは多い。


「俺は未開の地の村の村長、開 拓志だ。

 パーン族の代表は誰だ、話がしたい。」


少し怒気を孕んだ口調で聞くと、3人のパーン族が土下座のまま前に進んできた。


ちょっと怖い。


「現在里を任されている御子です、長は里を離れていまして……。」


「帰るまで待たせてもらう、いつ帰ってくるんだ?」


「私達では駄目でしょうか……?

 戻られるのに後3日はかかるのですが……。」


「人の妻を誘拐しておいて長と話さずに済むと思っているのか?

 ここにいるパーン族の上位とやらは拘束させてもらう、最低限の食糧は渡すからここで大人しくしてるんだな。

 皆、武装を一旦解いてくれ。」


俺の言葉を聞いて皆が武具を外す、パーン族はそれを見てチャンスだと思ったのか何かをしようとするがオスカーが殺気を放つと一気に畏縮した。


怖かった、ちびりそうになるくらいには。


想像錬金術イマジンアルケミーで大きな建物すべてと皆の武具を材料にしてパーン族を中心に牢を作る、ほんとにこんなものを作る日が来るとは思わなかった。


「い、一体何が!?」


「普通に交流してくれればこの力も含めて助力や交易をしたものを。

 自分のした事を呪っててくれ、上位じゃないパーン族は俺の村に避難させているから安心するんだな。

 後で3日分の食糧を運んでおく、自分達で勝手に食ってくれ。

 それじゃあ3日後にまた顔を出す――皆、帰ろう。」


「待って――」


何か言いたそうにしていたが、これ以上相手にするのも胸糞悪いので何も聞かずにその場を立ち去る。


その後魔術でどうにかしようとしたみたいだが、シュテフィの魔術でも壊せないオレイカルコスをふんだんに使った牢を壊せるはずも無い。


オレイカルコス製の格子だけが残り、何とも悲惨な状態で3日間過ごす羽目になったな。


雨風が入らないように周りを木で囲ってやってたんだが、自分達で建物の快適さを喪失させるとは。


直してやらないけど。


帰る途中、住民から「村長は怒らせないようにしよう……。」とぽつりぽつりと聞こえてきた。


普段通りしてたら怒らないから安心してくれよ?

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