第292話 別視点幕間:囚われたメアリー
パーン族であるロルフさんとの会合を開始してすぐの事。
まず開様が疑問をロルフさんにぶつける、これはいい流れなんですけど……既に何か胡散臭い雰囲気が感じ取れます。
まずパーン族が村に来たのが一人だという事、しかも自分の役職を言わないということは特に種族でも要人というわけではないんですよね。
もし本当に村と取引・交流をしたいならもっと上の人が来るはず。
魔族領や人間領でも本当に大事な話は魔王様やダンジュウロウ様が来られてますし、それが普通だと思います。
ボロが出ないかキツい口調で私からも質問してみましたが、うまくはぐらかされた……と思ったら自分達が崇めている神が存在しないと分かって安心したと言われた。
ますます意味が分からない……その先の話を聞いても個人の感情で納得しただけですし。
そのうえでパーン族が安全と言われても、むしろ盲目的に偶像崇拝してることが確定したので怖いんですよね。
前のプラインエルフ族より酷そうです、直感ですけど。
サキュバス・インキュバス族に話を聞いてみたけどロルフさんの証言にあまり嘘はないみたいです、物々交換にすら応じないということは本格的に閉鎖した生活を送ってますね。
その後開様が新たな疑問を聞く、ロルフさんのような思考を持った人が代表に選ばれたという点。
理由を聞くと納得、パーン族の長が決定を下しているならかなり冷血ですけど。
その後コーヒーを飲んで休憩、その後ロルフさんの発言でそんな少し平和になっていた空気は消し飛びましたけど。
仲間から餓死した者が出てるのに、村の神様の彫像と祈る権利……それにその眷属と名乗ることの許可ですって?
道理が通ってないにも程がある、そんなもので命は助けられないのよ!
怒りで叫ぼうとしたら、先にオスカー様ががっつりと怒ってらっしゃるのを見て口をつぐむ。
噓偽りなく話せと言われても話さないロルフさん、本当に殺されますよ!?
そう思っていると腕にある契約魔術の印を見せてくる、察してくれと言うのはそういう事でしたか。
これ以上は無理、ロルフさんを見送ってパーン族との交流は終わりにしようと思った矢先にオスカー様が契約魔術の印を破棄。
……破棄!?
そんなこと出来たんですか!?
相当驚いたのですが、これに術者が気づいてる可能性は非常に高いので開様に進言してサキュバス・インキュバス族の里と村を繋ぐ転移魔法陣を破棄してこなくては。
悪用されて村に攻め込まれたら混乱しちゃうし、負けはしないでしょうけど。
とりあえずウーテさんには開様をお任せしましょう……ラウラに我慢してもらってクルトさんに来てもらうとしましょうか。
私とクルトさん、ミハエルさんに警備のウェアウルフ族の方1人と転移魔法陣をくぐりサキュバス・インキュバス族の里へ。
「それじゃあ破棄作業に入るから、周囲の警戒をお願い。」
「分かりました。」
ミハエルさんが破棄作業に入る、簡単に消すだけなら誰でも出来るが魔術の痕跡全てを消すのは術者にしか出来ないらしいのよね。
魔術に関してはさっぱりだから有識者の意見に全乗っかりするわ。
クルトさんがミハエルさんの近く、私とウェアウルフ族の方で偵察を兼ねた魔物討伐に。
しばらく歩いていると赤ちゃんの泣き声が……まさかパーン族の赤ちゃんが外に出てはぐれてるのかも。
「ちょっと泣き声の方向へ行ってきます、何かあれば呼びますので。」
「分かりました。」
ウェアウルフ族の方に断って赤ちゃんの所へ……このあたりで聞こえたと思ったんだけど。
少し離れたところに来たが赤ちゃんの姿が見当たらない、気のせいだったのかとウェアウルフ族の方の所へ戻ろうとした矢先に後ろからすごい速度で距離を詰められ腕を拘束された。
「喋らないでください。
このままパーン族の里へ同行をお願いします、断れば首を刎ねさせていただきますので。」
結構な手練れですね、グレーテさんが使っていた気配遮断を使えるのでしょうか……全く気付かなかったわ。
しかし拘束はされているものの簡単に抜け出せそう、これは里の内情を知るいい機会かもしれない。
私は頷いてパーン族の里へ向かう、開様には……帰りが遅いウェアウルフ族の方が報告してくれるでしょう。
「御子様、村の住民と思われる人物を捕えてきました。」
「うむ、ご苦労。
其方はプラインエルフ族だな、パーン族代表に掛けていた契約魔術が破棄されたことについて知っていることを話せ。」
かなり傲慢ね、この御子とやらが里でも上に位置する人なのは間違いない。
長では無さそうだけど、椅子が3つ並んだ更に後ろに大きな椅子が見えるしそこに誰か座ってるから。
あれが長かしらね?
「私の聞いたことが聞こえなかったか?」
おっといけない、考え事をしてたら怒らせてしまったわ。
「すみません、少々考え事をしてまして。
パーン族代表の契約魔術に関しては、村に住まわれてるドラゴン族の長、リムドブルムのオスカー様がお気に召さなかったのか強制的に破棄されたのを確認してます。
相当御怒りでしたよ?」
ドラゴン族が住んでるというのを匂わせれば何か態度が変わるかと思ったので正直に話してみたけど、効果は薄そうね。
オスカー様と戦っても勝てる自信があるのかしら。
「契約魔術の破棄など聞いたこともない。
噓偽りはその一回にしておけ、其方の村はパーン族が送った代表を殺めたのだろう。」
「そんなことは神に誓ってしていません。
私は村長の妻です、要望があれば直接聞きますしロルフさんを連れてこいというなら連れてきますよ?」
「其方を連れて来た者が書置きをしている、代表を殺してなくても処刑と私達への食料提供が其方の解放の条件だ。
其方の身の安全は保障するが、私達の為利用させてもらうぞ。」
これは自分達が正しいと信じ切ってますね、言っても無駄なら行動で示したいところですが。
「御子様、報告です!
ストーンカが里へ向かってきてます、それも3体!」
おっと、ストーンカとは珍しい魔物が来ましたね……昔の私なら怖がってましたが今なら私一人で勝てるでしょう。
「分かった、討伐に向かおう。
神官、プラインエルフ族が逃げないよう見張りを。」
「御意。」
「待ってください、私も討伐部隊に加えてくれませんか?」
力を示せばパーン族の考えを少しでも改めれるかもしれません、開様や村の住民達は間違いなく私を助けに来るでしょうし村のためにも出来ることをしておきましょう。
「戯言を言うな、魔力が無いのは分かっている。
弓ごときでストーンカがどうにかなるとでも思っているのか、プラインエルフ族はそこまで知識も無い種族だったとは。
早く動かねば里の危機だ、付き合ってる暇もない……。」
うん、これは言ってもダメですね。
さっさと抜け出して討伐して戻ってきましょう、拘束を解いて……っと。
「お、おい……待て!
お前たち、しっかり拘束具をはめてなかったのか!?」
御子とやらの言葉を尻目にストーンカが出たという方向へ……いましたね。
開様謹製の弓でありったけの矢を打ち込めば倒せるでしょう。
そう思い得意の早撃ちでストーンカめがけて矢筒の中にある矢を全てストーンカへ放つ。
よし、3体とも討伐確認。
ではさっきの場所へ戻りましょうか。
「何処へ行っていた!
囚われてるという自覚があるのか……というかどうして戻って来た?」
「ストーンカの討伐が終わりましたから戻って来たんですけど。」
「何を言って――」
「御子様に報告があります、ストーンカ3体全て頭が消えて倒れたのを確認!
矢で打ち抜かれたのを見たという声が……。」
報告を聞いた御子は私と報告してきた人の顔を交互に見ている、ちょっと面白いですね。
「其方、本当に……?」
「だからそう言ってるじゃないですか、この弓は神に選ばれた村長が作られた弓です。
私達の村は世界のどこよりも優れた武具で武装していますし、多種多様な種族が住んでますから。
それこそ神に愛された村だと私は自負しています、パーン族が神の眷属だといって外交をしないのは自由ですが……村に楯突いた行為はそれこそ神への反逆と同等ですよ?」
身体能力は鍛えたものですけどね、旅をしてた頃より相当強くなったと自負してます。
ドラゴン族の鍛錬すごい。
しばらく考えた後、御子は私へ跪く。
大分態度が変わりましたね……パーン族にとってストーンカは脅威だったのでしょうか。
「救ってくれて感謝する……キュウビという妖狐族から聞いた話は眉唾だと思っていたが本当かもしれないな。
一度話し合ってもいいかもしれん。」
そもそも信用してなかったんですね、あわよくば食糧が取れればいいと思ってたんでしょう。
道理でロルフさんの話に違和感があったわけです、本当に捨て駒扱いにしていたなんてちょっと引きますね。
私がストーンカを瞬殺したことで多少信用したのでしょう、村と真面目に対応しようとしてますが……。
「もう遅いと思いますよ。」
「何を――」
「御子様、サキュバス・インキュバス族の里からドラゴン族に乗って村の勢力と思われる者達が里に攻め入ろうとしています!
数は不明、この地で見たことのない大軍勢です!」
早かったですね、さてさて……どう話をまとめてここまで来たんでしょう。
パーン族は全員青ざめてますね、態度を少し変えてますし助け船を出してみるとしますか。
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