第291話 メアリーを救出するため、ロルフから情報を得て準備をした。

「もう一度言ってくれ、良くないことが聞こえた気がする……。」


「はい……。

メアリー様がパーン族に誘拐されました……。」


「何でそんな事になったんだ!」


俺は聞き間違いじゃなかったことを確認して報告してくれたウェアウルフ族の肩を掴んで叫んでしまう。


「村長、落ち着いて!」


叫びながらウェアウルフ族の肩を掴んで揺さぶっている俺を制止するウーテ、それで俺は少し正気を取り戻した。


「すまない、ありがとうウーテ……。

 改めて、どうしてメアリーが誘拐されるようなことになったのか説明してくれるか?」


「分かりました。

 転移魔法陣の廃棄に当たって、メアリー様・クルト様・ミハエルさんと私の4人でサキュバス・インキュバス族の里へ向かったんです。

 ミハエルさんが里の魔法陣を痕跡から全て消去する作業、その間他の人は探索・警備に当たっていました。

 そこでふと子どもの泣き声が聞こえてきたんです、メアリー様は心配されてその方向へ向かったんですが……帰りが遅いので私が探しにいった時にはパーン族の書置きだけがそこにあった次第です……。」


ウェアウルフ族は声を震わせながら報告しつつ、書置きを俺に渡した。


俺はそれを読む、メアリーがどうなってるか……どうしてそんな事をしたのかはこれに書かれているだろうし。


「私にも見せて。」


「ワシもだ。」


「私もお願いします。」


ウーテにオスカー、それに他に集まってくれていた他の住民も書置きの内容が気になるのか集まってきた。


ただロルフだけは、今まで見てきた人の中で一番顔色が悪くなりながらただ俯いている。


ここに何が書かれててもロルフをどうこうするつもりは無いから安心してほしい、皆の目があるから口にはしないけどな。




書置きの内容を見る限り、メアリーは本当に誘拐されているらしい。


理由はロルフの契約魔術を無理矢理解いたことによる神と神の眷属であるパーン族への反逆だそうだ。


メアリーの解放には、ロルフの処刑と稔の季節を10回繰り返すまでパーン族への食糧を無償提供が条件。


「これはまた、向こうも大きく出たものだな。」


オスカーが苦笑いをしている、実力差を見せてなおここまで出来るパーン族に呆れているのだろうか。


契約魔術の強制破棄はあまり知られてないらしいし、向こうも知らないのかもしれないぞ?


「これさ、一度パーン族に痛い目見せないとダメじゃない?」


ウーテから過激な意見が出る、オスカーもそれに頷いているが……。


「少し考えよう。

 まずはメアリーの身の安全を確保することが最優先だ。」


「だけど、それだとロルフさんを村で処刑しなきゃダメなんじゃない?」


それを聞いたロルフは体をビクッと跳ねさせる。


「いや、メアリーの身柄は村の力で救う、一人の命を失って一人の命を救うのは等価ではないと俺は考えているからな。」


「私は命を散らせにきたのだ、村の安全のために使ってくれていい。」


「本気でそう思ってるなら顔色を悪くしたり、言葉に反応して体を跳ねさせたり震えたりしないさ。

 俺は俺のやり方でメアリーを救う、村の住民の力は借りるけど。」


俺の言葉を聞いた住民達は深いため息をついている、そんな反応しなくてもいいだろう。


「平和ボケしすぎでしょ、メアリーさんの命がかかってるのよ!?」


流澪がかなり怒った様子で俺に突っかかってくる、心配なのは分かるけど落ち着かないといい方向に進展しないだろう。


「住民の力にはロルフも入ってる、もう村に住んでもらうのは俺の中で決定してるし。

 パーン族を敵性種族だというなら、その内情を知ってるロルフは一番の味方だろう?

 落ち着いて現状を整理し、最適解を導き出す――メアリーなら、そうするんじゃないか?」


俺がそう言いながらロルフを見ると、他の住民も一斉にロルフを見た……というより睨んでいる。


「……こういう復讐の仕方も有りなのだろう。

 分かった、出来る限り助力させてもらう。」


「そんな悠長に構えててメアリー殿の命は大丈夫か?」


「食糧難を解決出来るかもしれない大切な人質だ、そう簡単に殺されたりしないだろう。

 むしろ村と取引せず殺した時点でパーン族の目論見は失敗だろうし、割と丁重に扱われてると踏んでる。

 今回の件ではらわたが煮えくり返っているから、ある程度の報復は受けてもらうけど。」


とりあえず今は情報収集だ、戦力差としては問題無いが……パーン族の上位がどういった力を持っているかとか人数等、知らなければいけないことはたくさんある。


それとそれに伴った制圧のための戦略と部隊編成もしないとな。


「まずは上位には長とその下に御子が3人、神官も何人かいるが正確な数は分からない。

 後はそれらを守る師団がある、これは武力と魔力に秀でた者が付いているな。

 俊敏性を買われた者もいる、恐らく村長の妻はこの師団に誘拐されたとみて間違いないだろう。

 残りのパーン族で戦える者は狩り部隊くらいのものだ、上位に反感を持っているものがほとんどだしわざわざそんな事をするとは考えにくい。」


「よく里として機能していたな、それだけ師団を恐れているのか?」


「というより、神官と御子の魔術がすごくてな……怒りを買えば簡単に消し炭になる。

 私も帰れば良くて異端牢幽閉、悪ければ消し炭だろう。」


力あるものが宗教と恐怖で統率しているのか、そんな方法で上手く行くはずがないんだけどな。


「魔術が凄いってどれくらいなのかしら?」


今まであまり話さなかったシュテフィが、ロルフの話を聞いて口を開く。


「人一人なら言った通り消し炭だ。

 そのあたりの木や魔物でも簡単に吹き飛ばす威力だぞ。」


「なんだ楽勝じゃない、その程度がどれだけ束になろうが私一人で制してあげるわ。」


「私もそれに参加しよう、まさかパーン族がそんな事をしているとはな。」


神殿の入り口から声がしたのでそちらを見ると、キュウビがこちらに向かって歩いてるのが見えた。


「おぉキュウビ、早かったな!」


「村の近くに居たのだよ、もう少しで測量も終わり地図も完成するという矢先だったのだが。

 交流したいと言ったから紹介した私の責もある、不殺を貫いてメアリー殿を救ってやろう。」


キュウビは俺がどうしたいか既に分かってくれていた、助かるよ。


「それじゃあ村には最低限の戦力を残してパーン族の里へ向かう。

 目標はメアリーの奪還、及びパーン族の上位への孤立化。

 それ以外のパーン族は丁重に扱い避難を手伝ってやってくれ。」


「なるほど、そう立ち回るか。」


「確かにそれが種の存続と制裁の両立が出来るわね。」


「任せておけ。」


やりたいことを口に出しただけだが皆分かってくれたらしい、次々と準備のため走っていった。


何か質問が来るかと思ったがそんな事は無かったのでびっくりしている、優秀な妻と住民達で助かるよ。


「この村は……今から何をするんだ?」


「言った通りだよ、上位以外のパーン族を村で保護する。

 それでいて妻であるメアリーを救出、上位には里に残るか別の場所で暮らしてもらうつもりだ。

 もちろん誰も殺しはしない、パーン族の上位は今後自分達だけで生きていくことになるだろうが……自業自得だな。」


「ここまでしておいてその程度で済ますのか?

 先ほどの女性も言っていたが、平和ボケしすぎているのではないか?」


「似たような事があったけど、その時も不殺を貫いて事を終わらせた。

 管轄が違うから、悪いことをした人はそっちで裁いてもらったけどな。」


「そうなのか……。

仲間が助かるのは有難い、何から何まで恩に着る。」


「気にするな、それにロルフにも付いて来てもらうぞ。

 里の内部の案内とか住民の誘導を任せる。」


「承った。」




パーン族の里へ行くと号令を出して十数分、全員の準備が出来た。


転移魔法陣はもう一度起動しているらしい、向こうではクルトが護っているとのことだ。


「それじゃあ出発だ。

 まずはメアリーの奪還を頼む、行くぞ!」


「「「「「おおぉぉーーーーっっ!!!」」」」」


怒りの混じった鬨を上げ、全員で転移魔法陣をくぐる。


メアリー……無事でいてくれよ。

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