第289話 会合を少し進めただけで、物凄いトラブルが発生した。

村がパーン族に抱いていた疑問や疑いがある程度晴れたので会合に移った。


皆の気持ちを少し落ち着かせようとコーヒーと紅茶を持ってきてもらうことに。


俺が声をかけると、ユリアが行ってくれるとのことなのでお願いした。


出来ればお茶菓子があると嬉しいけど、今は時間があればハチミツを使ったお菓子を作っているだろうし無理だろうな。


どうせなら出来たてを食べてほしいと思うのが普通だろうし――まぁ、今は温かい飲み物で落ち着くことが先決だ。


しばらくするとユリアが紅茶とコーヒーを運んできてくれた。


「お菓子もお渡ししたいそうで、もう少ししたら持ってくるそうです。」


「分かった、ありがとう。」


まさかお菓子が出てくるとは思わなかった、そんな簡単に準備出来るお菓子があるのだろうか。


「これは……?

 匂いは非常にいいが。」


ロルフが手に取ったのはコーヒー、この辺りに自生してないから分からないだろうな。


「飲んでみるといい。

 毒は入ってないから安心してくれ、苦みはあるが美味いのは保障するぞ。」


ロルフは俺の言葉を聞いて恐る恐るコーヒーを啜った。


「……む、美味い。」


「そうだろう?

 この村は食べ物や飲み物に関して物凄い執念を持っているドワーフ族が住んでいるからな。

 それに俺の能力で食糧難にもならない、パーン族が求める物があればある程度融通出来るぞ。

 もちろんそちらからも対価をいただくことになるが。」


「こちらが支払える対価は目録を持ってきているので目を通していただきたい。

 欲しい物はやはり食糧だ、この間の氷の季節も3人が餓死してしまったからな……。

 それとこれは食糧より優先しろと言われている物がある。」


そんな食糧難になっているにも関わらず、食糧より優先するべきものって何だろう。


飲料水や塩だろうか、いくら肉があってもそのあたりが枯渇すれば簡単に命を失う状況になるだろうし。


「恐らく出せるとは思うが話を聞くぞ。

 俺はてっきり食糧をたくさん融通してくれって言われると思ってたからびっくりしてるけど。」


「私個人としてはその気持ちなんだが、一族の上位はそういう考えでは無いらしい。

 食糧より優先する物はこの村で崇めている神の彫像と、その神に祈る権利――そして眷属と名乗ることを承諾してほしいというものだ。」


パーン族の上位とやらは何を言ってるんだ。


仲間の命を失っているのにそんな事を頼みに来させているのか?


「そんなこと――」


「許可出来るはずがなかろう。

 ロルフと言ったか、お主は今のパーン族をどう見ておる。

 ここの誰にも他のパーン族に告げ口などさせぬ、思うまま正直に話せ。

 噓偽りは許さぬぞ。」


俺が断って話を聞こうと思ったら、オスカーが顔に怒りをにじませながらロルフに質問を投げかけていた。


めっちゃ怖い、この会合の間ずっと誰か怖い気がする。


「話せない。」


「ドラゴン族の長であり、リムドブルムであるこのワシの怒りを買う事になっても言えぬと?」


「察してくれ……。」


そう言うとロルフは上着を脱いで肌の一部を露わにする、そこには契約魔術を結んだ印が浮かび上がっていた。


「なるほど、そういう事か。」


オスカーはもちろん、ロルフに対して再び負の感情を抱いていた皆もそれを見て納得した。


もちろん俺も。


恐らく契約の内容で何かしら話すことに制約をかけられているのだろう、それを破ればロルフの命が関わるような事が起きるのも分かる。


そうじゃなければ話しているはずだ、あのオスカーの怒りを買っても話さないというのはそれ以外に考えられない。


すると、オスカーは契約魔術の印に手をかざし何かを念じだした。


「ふんっ!」


オスカーが力んだと同時に、ロルフの印からすごい光が発せられる……何をしたんだ!?


光が消えたので状況を確認すると、ロルフの腕から印が消えていた。


「一体何をしたんだ?」


「見ての通りだ、契約魔術を破棄した。」


「勝手にそんな事をして……というかそんな事出来るのか?」


もう少し相談してからにしてほしい、俺って一応村長だし。


「そんな事をして、オスカー様に何か不都合は無いのですか?」


オスカーの周りに住民が集まって心配しだす、そりゃ契約魔術を破棄なんて力技……目の前で見たら心配するに決まってる。


ロルフは何が起きたのか理解出来てない様子、印があった場所とオスカーの顔を交互に見ることしか出来てない。


「契約魔術は掛けた者より著しく能力が離れていたなら、誰でも強制的に破棄することが可能だ。

あまり知られてないことなのだがな。

 ロルフとやらの前で言うのもなんだが、パーン族など所詮山羊の獣人よ……ワシの敵ではない。」


「しかしロルフの契約魔術を破棄した理由はなんだ?」


「パーン族の上位とやらが、何を隠してロルフとやら一人だけを村に送り込んで来たのか気になってな。

 もし何か村の不利益になるような事を考えているのなら、相応の対応をせねばなるまい?」


オスカーがすっごい悪い顔をしている、久々に戦えるかもしれないのが嬉しいのだろうか。


しかし契約魔術を破棄出来た時点で実力は完全にこっちが上だろう、楽しめるようなことはないと思うぞ。


それにロルフから話をきっちり聞いてからじゃないと……まだ状況が飲み込めてない様子だし。


とりあえず落ち着くまで待つとするか。


俺がまとめた書類、要らなくなったかもしれないな……まさかこんな展開になるなんて思いもしなかったぞ。


「開様、ミハエルさんに頼んでサキュバス・インキュバス族の里と村を繋げている転移魔法陣の廃棄をしてきます。

 契約魔術を破棄した以上、術者は気づいているでしょうから。」


「分かった、頼むぞ。

 必要なら警備の補充及び強化も頼む。」


「分かりました。」


メアリーはクルトを連れて外に出て行った、ウーテは俺を守りたそうだったから気持ちを汲んであげたのだろう。


他の住民も武器を取り出したり能力の確認をしたり、明らかに臨戦態勢に入りつつある。


嫌な雰囲気になって来たな、本当にパーン族と争うなんてことにならなければいいんだが。

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