第288話 パーン族との会合前に疑問に思ったことを尋ねた。

「村長、パーン族が見えたが招き入れてよいか?」


「大丈夫だぞ。」


オスカーが時間通りにパーン族を村へ連れて来てくれたので返事をする。


俺と妻達、それにドリアードと話した情報は既に周知徹底されているらしく、いつものような平和な雰囲気は無い。


どちらかというと重苦しい、というか何かされてもこちらの被害を出さないという真剣さが見て取れるな。


それに参加しない予定だったクルトとラウラも俺の護衛に付いてるし、ラウラに至っては既にハーフドラゴンの姿だ。


こんな状況で平和な会合が出来るとは思わないが……状況が状況だし仕方ない。


パーン族も外部と交流をしていない以上信頼されている人も居ないだろうし。


会ってはないが第一印象としては最悪の状態からの交流開始、こんなことは初めてなので上手く会合を進めれるか不安だ。


まぁ、なるようになるだろう……多分。


少しするとパーン族が到着。


見た目は山羊のような角に獣のような下半身、それでいて人間のように二足歩行をしており上半身は人間とそっくり。


所謂獣人というやつだろう、ウェアウルフ族と似ているけどウェアウルフ族は全身が狼のような姿で二足歩行をしているからな。


どちらかというとケンタウロス族に似てる種族だろうか?


それに一人で来ている、警戒を解くためなのかもしれないな。


「お初にお目にかかる、パーン族の代表で村に来訪させていただいたロルフという。

 キュウビという妖狐族から聞くに、ここには神に選ばれた御方が居られるとか……そしてこの神殿が神を祀るものだと。

 そのような地に赴く機会を得られて恐悦至極である。」


「この村の村長をしている開 拓志だ。

 キュウビから紹介があったように、俺が神に選ばれて異世界からこの世界へ転移してきた人間だ。

 会合の前にこちらの疑問を解消させてほしい、パーン族は外部との交流を控えて来たと聞いたがキュウビとは何故接触する気になったのだろうか。」


一応聞いておかないとな、疑問ではあるし。


「祖先が妖狐一族に助けられたという話が言い伝えられている、今は遠い地に住んでるというのも聞いていたので会う事は無いだろうと思っていたが……キュウビ殿が里を訪ねて来たので交流を図った次第。

 他の種族とは確かに交流を控えている、これは神のみに依存し眷属としての誇りを持てという一族の教えから来ているものだ。」


過去にそんな事があったんだな、しかし妖狐族は魔族領に住んでいたのに未開の地へ何をしに来たのだろう。


そもそも未開の地に足を踏み入れて生きていたというのがすごい、こっちと向こうじゃ魔物の強さが段違いのはずなんだけど。


妖狐族のスペックがそれだけ高いという事なのだろうか、キュウビはもちろんクズノハだってかなり強いだろうからな。


「神はこの世界に顕現されたことはありません、それに神と直接的な繋がりを持つ大精霊と話したことがありますが精霊以外で神と繋がりがある種族は居ないと仰ってました。

 何故パーン族は自分達を神の眷属だと言われているのでしょう、気に入らない場合武力行使も厭わないという噂も聞いているのですが。」


メアリーが直球でパーン族に質問する、いくら何でもやりすぎじゃないだろうか。


こちらの評価を落とすことになってしまう……そう思ったがその疑問は解消しないと今後わだかまりが残ったまま交流することになるのか。


向こうからどう思われようとハッキリさせなければならない、そういう事だろう。


「その事に関してはパーン族としてもハッキリさせておきたい。

 此度の会合で確認しようと思いパーン族で崇めている神の彫像を持ってきたのだ。

村長は神と対峙したことがあると聞いたのだが、この彫像と対峙した神は同一だろうか?」


そう言われて彫像を手渡される、罠かと思ったが向こうが何か悪意を持ってるならラウラから警告があるはずだ。


この状況で索敵魔術を使ってないとは考えにくいし。


彫像を少し見させてもらったが俺が会った神ではない、かなり神々しい見た目になっているから崇拝したくなる気持ちは分かるが。


「これは俺が対峙した神ではない。

 大精霊が繋がりを持ってる神と俺が会った神は話を聞く限り同一だし、パーン族がいう神は祖先が作った偶像崇拝だろう。」


「やはりか、それを聞いて安心した。」


「安心とはどういう事ですか?

 それに私の質問の後半にお答えいただいてませんが。」


メアリーがちょっと怖い。


「私はパーン族が神の眷属だという考えに疑問を持つ、数少ない考えを持っている。

 今までその考えに苦しめられこそすれ、助けられたことなど無いからな。

 そちらのプラインエルフ族の後半の質問にお答えしよう、パーン族の祖先は確かにそのようなことをしてきたし色々な種族とも対峙してきた。

 だが今のパーン族は至って平和主義な者が多い、閉鎖的な事以外は現状益も害も与えない種族だと断言させてもらう。」


なるほど、盲目的に偶像崇拝をしている種族だと思ったが疑問を持つ人も居るんだな。


催眠や洗脳を行っていないだけマシな種族だろう、ロルフの言う通り今のパーン族はある程度平和な考えをしているのかもしれない。


「――と言っていますが。

 近くに住んでいたサキュバス・インキュバス族の意見を聞きたいです。」


「概ねロルフさんの言う通りです。

 向こうから攻撃されたこともありませんし、ただ物々交換に応じてくれなかったのは辛かったですけど。」


情報提供者として呼ばれていたニルスがメアリーの言葉に答える。


長年近くで住んでいて何もされないという事はロルフの言い分が正しいという事だろう、一体どれくらい昔にパーン族の祖先はヤンチャをしていたのだろうか。


ニルスの言葉を聞いたメアリーも一安心と言った表情だ、怖かったから助かる。


だが俺は新しい疑問が生まれた、この際だし聞いておくか。


「しかし何で神を信じてない珍しい思考の持ち主が代表に選ばれたんだ?」


「簡単な事、私が何か問題を起こして命を奪われても問題無いからだ。

 いい評価を得られれば良し、ダメならダメで見限っても良し……捨て駒のようなもの。」


なるほど合理的。


食糧事情としては決して豊かでは無いだろうし、間引きが行われる地域なら珍しい事では無いだろう。


俺個人としてはちょっと許せないが、種族を束ねているならそれくらい厳しい判断をするべきなんだろうな。


「分かった、辛いことを聞いたな。

 俺がパーン族に抱いてた疑問はある程度晴れた、このまま会合に移ってもいいが……他の者はどうだ?」


俺が皆に呼びかけると全員が頷いて答える、特に疑問は無いということだろう。


ロルフも少し安堵した表情になっている、この面々を見て気圧されていたんだろう。


申し訳ない事をしたかもしれないが、それは結果論なので出来るなら祖先を恨んでくれ。


さて、それじゃあ会合に移ろうか。


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