第283話 コロポックル族が村に移住する事が決まった。

「どうしたんだ急に、最初は移住を渋ってただろ?

 そもそも流澪のワガママのようなものだし。」


ウーテに上空へ連れて行ってもらう前は明らかに移住を嫌がっていたコロポックル族が、帰ってくると自ら移住をしたいと言い出すとは。


「うぐ、確かに可愛いから最初はワガママだったけど。

 拓志がウーテさんと一緒に上空へ飛んで行って、リーズィヒエーバーの死体を一瞬で消し去ったのを見たのが決め手だったみたい。

 それとドリアードさんの存在もかな、コロポックル族ってドリアードさんとドラゴン族を崇めてるみたいだから。」


上空へ行ってる数分の間によくそこまでコロポックル族の事に詳しくなれたな!?


有難いからいいんだけど、それより移住か……。


「コロポックル族はどんな仕事が出来るんだ?」


俺は寝そべってこの場を仕切っているコロポックル族に尋ねる、既に移住する雰囲気になっているが里長だって居るだろうし仕事が出来ないなら移住させてやることは出来ない。


「む、畑の作物や樹木についてる害虫を取り除ける。」


「それはさっきイノシシを消した俺のスキルで必要ないよ。」


「それなら、細かいところの掃除……。」


「生活魔術っていう便利な物で村はどこも清潔に保たれている。」


「細かい道具の作成……。」


「ドワーフ族とダークエルフ族が物凄い器用だから、必要じゃない可能性が高い。」


「むぐぐぐぐ……。」


コロポックル族が挙げる仕事を聞いたが、どれも必要が無い事だ……やはりこの体格ではやれることが非常に限られてる。


別に保護しても問題無いんだけど、何もしないままただ村に居座るのもなぁ。


「ちょっと拓志、コロポックル族にイジワルしないの。」


「イジワルじゃないさ、体が小さすぎてやれることが限られてるんだよ。

 何か特殊な能力があって、それを活かせるなら大歓迎なんだけど……。」


「あれ、コロポックル族って虫と意思疎通が出来るんじゃなかったっけ?」


「え、虫……?」


流澪がウーテの言葉を聞いて顔色が悪くなってる、虫は苦手なのだろうか。


いや、よく考えれば虫が得意な女性のほうが少ないか……俺だって得意では無いし。


怖くはないだけ。


「虫!

 虫を手懐ける村に役立たせることが出来る!」


ウーテの言葉を聞いたコロポックル族が嬉しそうにアピールしてきた。


「ごめん、誘っておいてなんだけどそれだけはやめて。」


流澪がコロポックル族の仕事を即座に断る、コロポックル族の顔が物凄いことになってるぞ。


よっぽど虫が苦手なんだな。


「ちゃんと懐けば苦手な人の近くに行かないようにも出来るぞ?」


「やっぱりコロポックル族最っ高!」


手のひらを返す速度が凄すぎる、ドリルか何かか?


しかし虫とそこまで意思疎通出来るのは大きいぞ、やりようによっては近くの自然を意のままに操ることさえ出来るかもしれない。


「なぁ、虫を操って集落の生活に役立ててるところを見せてくれないか?

 俺が思ってることに近いことが出来そうなら、俺からも村への移住をお願いしたい。」


「分かった!

 こっちだ、ついてきてくれ。」


俺はコロポックル族に歩みを合わせながら、見失わないようについていく。


「村長、虫なんか使わなくったって村長のスキルや住民の技術で何とかなるんじゃないの?」


「こればっかりは虫が必須なんだ、同じことをしてなくても似たような事をしてくれてたら応用出来るはずだし。

 ウーテはコロポックル族が移住するのは反対なのか?」


「そうじゃないけど、村が虫に劣ってるような発言でちょっとカチンって来ちゃっただけ。」


「そんな事ないよ、安心してくれ。」


ウーテはよっぽど村が気に入ってるんだろうな、嬉しいことだ。




それから3人で世間話をしながらコロポックル族についていくこと十数分。


「着いたぞ、ここがコロポックル族の里だ!」


元気に紹介される、特段何かから隠れるように住んでるわけでもない……ただ森の中に居住区を作っているだけか。


これだけ小さな種族だから、天敵に見つからないように工夫が見えてると思ったんだけどな。


「凄いわねぇ、空間認知能力を歪める工夫がされててここには簡単に来れないようになってるわ。」


「え、そんな事全然気づかなかったぞ?」


「気づかなくても無理はないわ、そもそもコロポックル族に会えてるのが奇跡なのよ?

 姿を見せるのを極端に嫌うのよね、私だってドラゴン族を崇拝してるなんて今日まで知らなかったもの。」


その能力だけでも村に来てもらっていいかもしれないな、有事の際にはそれを使って村や避難所を守ることだって出来るかもしれないし。


「これがビーナという虫を使ったイムカーをしているところだ!

 ホーニッヒはコロポックル族には無くてはならないものだからな、皆も舐めてみるか?」


してくれたらなとは思っていたが、コロポックル族は養蜂を現在進行形で行っている。


まさかここまで俺にとって都合がいい展開になるとは思わなかった……コロポックル族に心の中で謝る。


「是非頼むよ。」


俺の返事を聞いたコロポックル族は、ホーニッヒを準備しに走っていってくれた。


恐らくハチミツだろう、どんな味がするか楽しみだな。


「なるほど養蜂……これは流石に虫にしか出来ないわね。

 これが拓志の求めてたもの?」


「そうだ、まさか養蜂そのものをしてるとは思わなかったけどな。」


この世界でハチミツを見たことは無かった、ということは魔族領と人間領では養蜂の技術が無いという事になる。


「ホーニッヒって美味しいの?」


ハチミツを知らないウーテが質問してくる、食べたことないなら虫が作ったものだし不安だろう。


「質によるとしか言えないが、コロポックル族のならまず美味しいと思うぞ。

 この世界に来て低品質な物ってあまり出会った事が無いし。」


実際に何を食べても美味しいから助かっている、別に俺が居なくても世界は回るはずなんだけどな……ドリアードと契約してなければだけど。


そういえばドリアードの姿が見えない、また温泉を堪能しに村へ戻ったのだろうか。


声をかけてくれればよかったのに。


「待たせた、これがコロポックル族のホーニッヒだ!」


ズボンのすそを引っ張りながら頑張って大きな声を出しているコロポックル族、かなり可愛い。


小皿に注がれたハチミツ、量は少ないが味見としては充分だろう――いただきます。


「美っっ味!」


「あまーい!おいしー!」


「すっご、これすっごい美味しいわ!」


3人ともそれぞれ違うリアクションだが、全員美味しいという反応だった。


質によると言ったけどここまで違うかっていうくらい甘い、これは村に移住してもらうのを俺がお願いしてでも持ち帰らなきゃいけないな。


「コロポックル族、少しイジワルをされたように感じたと思う。

 このホーニッヒは村に必要だ、是非移住してくれ。」


俺の言葉を聞いたコロポックル族は「やったー!」と叫びながら皆に移住の事を言って回り出した。


皆飛び上がって喜んでるけど、決定でいいのか?


里長とかに相談もしなきゃいけないだろうし、この里を手放すことに不安を感じたりとかは無いのだろうか。


「早速準備する!

 村長は俺達が入る箱を作って!」


「あ、あぁ……それはいいが、もう移住は決定なのか?」


「当たり前、こんな動物の超巨大化が進んだ島もう住めない。

 虫たちも怖がってた、新しい住処探してたんだ。

 それに俺が長、長が決めたから移住は決定事項。」


長だったの!?


名前を聞こうとしたが、特に個体識別を必要としてないらしく名前というものは無いらしい。


長さえ決まればいいという風潮のようだ、そういう所はミツバチに似てるのかもしれないな。


俺はウーテと相談してコロポックル族が入る箱と荷物を入れる箱を作製、今日中に全て移動させないといけないから結構大変だ。


荷物も住民も小さいからそこまで大荷物にはならないけどな。


気付けば日が暮れる少し前、そろそろ出発して村へ帰らないと暗くなってしまう。


「さて、皆でそろそろ帰るぞ。

 流澪もこんなことになってしまって済まないな、埋め合わせはまたするから。」


「何言ってるの、こういう事を求めてここに来たんだから大成功だわ!」


デートがこれでいいのだろうか、一応19歳なんだよな?


まぁいいや、俺は妻2人が非常に満足そうなうえハチミツとコロポックル族というこれ以上ない成果を得れたので満足している。


さぁ、村に帰ってドワーフ族とハチミツの使い方を相談しなくちゃな。

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