第279話 流澪の過去を知った。

流澪のダーツを見学していて物凄い腕前に惚れ惚れしていると、突如自身の過去を語り出した流澪。


話を聞くと娘を大成させたいという気持ちは同じだが分野が違う、スポーツか勉学か。


俺としては流澪自身がやりたいことをやればいいと思う、それにここまで上手くなってるということは、教え方自体は間違ってないんだろうし。


だが流澪の両親はそれを許さなかったようだ。


「12時間ダーツや剣道を学んで、その次の日に理系の勉強か……。

 それ以外にも学校や睡眠もあるだろうし、本当に大変な生活を送ってたんだな。」


「何言ってるの?

 母側の教えの後、間髪入れずに父側の教えがあったのよ。」


「待て、どちらも12時間分していたのだろう。

 流澪のプライベートの時間……それどころか睡眠時間だって1分も無いぞ!?」


どんなに頑張っても1日は24時間しか無いからな、ここを捻じ曲げるのは神様でない限り不可能だ。


想像錬金術イマジンアルケミーでだって無理だろうし。


「そうよ、3日目あたりで私が倒れだしてから、1時間の仮眠を1日2回認められたけどね。」


「そんなので足りるはずが……。」


「そう、足りないわよ。

 仮眠時間には食事時間も入ってたからね……幸い栄養失調にならないように完全栄養食が与えられてたけど。

 そんな生活が6年くらいだったかしら、耐えれなくなって逃げだしたのよ……そして誰も私を知らない場所で働いて生きてた。」


むしろよく6年も耐えれたものだ、俺だったら1週間も持たない。


そんな生活をしていてやせ細ってない流澪も凄いけどな……完全栄養食って興味があったから試してみたけど生きる最低限の食事のようなものだし。


この世がディストピアになればあれが普通なのだろうかというような悲しい食事、この世界では考えれないな。


「まあ働きだして半月で捕まったんだけどね……公衆の面前でボロクソになじられてる途中、私の中で何かがプツッと切れて走り出したの。

 もちろん両親は制止してきたけど驚くほど簡単に振りほどけたのを覚えてるわ、きっと無意識にセーブしている力を出してしまうくらい本気だったんでしょうね。

 で、近くの高層ビルに不法侵入してそのまま屋上まで駆けあがって飛び降り……その後この世界に転移してきたのよ。」


途中辛そうな表情を見せたが、最後はあっけらかんとした態度でこの世界に辿り着いたいきさつを話す流澪。


だが辛くないはずがない、簡単に説明された俺でも分かるくらい凄惨な人生だぞ?


そう思った俺は流澪を抱きしめて頭を撫でる。


「ちょっ……どうしたのよ。」


「辛かっただろ、よく頑張ったな。

 俺はただ多彩な子だと簡単に思ってたが、流澪の運動能力と知識が異常な教育から来てたなんて思わなかった。

 無理せず休んでいい、辛かったらどちらも村のために使わなくていいんだぞ?」


「過去の私を知ってくれただけで充分。

 あの環境と親が辛かっただけで、ダーツや剣道、それに勉強が嫌いになったわけじゃないから平気よ。

 私こそごめんね、急に暗い話しちゃって。」


「いや、いずれ知りたいことだったし構わないぞ。」


実際気になっていたからな、ここまで色々出来る流澪なら前の世界ではいくらでも生き方はあったはずだし。


どう考えても自殺をするような子には見えなかったんだよ。


それに朝にパンを食べれることやファストフードで泣いてたのも疑問だった……そういうのはあの過去から来ていたんだな。


俺と違って前の世界では辛い思いをしていた流澪だ、この世界ではしっかり幸せにしてあげないと。


しばらく抱きしめられてた流澪が俺の肩をポンポンと叩きだす、どうしたのかと見てみると顔をしっかり塞いでしまっていた。


息が出来ないのだろう、俺は慌ててから離れる。


「すまん、苦しかったか。」


「ちょっとね、でも大丈夫よ。

 しかし恨んでいた親にも今は感謝しないとね、死ぬような思いで得た知識と技術がこの世界で物凄く役立ってるんだから。

 思えば行き過ぎた愛故なんだろうなぁ……そうじゃなければ私財を投げ打ってあんな事させないだろうし。」


えらく達観した意見だな、ほんとに19歳か?


俺からしたら毒親としか思えないが……視点を変えると確かに娘を愛していたとも取れなくはない。


結構無理矢理な気もするけど。


流澪は何を思ったのか、想像剣術イマジンソードプレイで使うために持ってるナイフを抜いて構え――そのままゆっくりと振り下ろした。


想像剣術イマジンソードプレイを発動したのだろう。


「何をしたんだ?」


思わず問いかける、今の流れで想像剣イマジンソードプレイ術を発動する理由が思い浮かばない。


「私と両親の関係を切ったのよ、もし愛してくれてたならショックで子離れ出来てないんじゃないかと思って。

 異世界だし無理かなって思ったけど空に向かって筋が伸びてたから発動したのよ。」


「優しいんだな。」


「そんなことないわよ。

 それに想像剣術イマジンソードプレイで伸びた筋を見て、ここは異世界というより異星なんだなって考えた可愛くない私の思考に自分自身悲しくなったわ。」


「異星……そうか、その可能性は完全に盲点だった。」


「私もよ、よくよく考えたら物理学的に異世界なんてあるはず無いのよね。

 馴染みやすい文化や食べ物があるなぁ、なんて思ってたけどチキュウから模倣したのかしら。

 それともチキュウを参考に神が知的生命体を……?」


流澪が完全に学者モードになっている、俺もそういう想像はしたがそこまで踏み込んだ考えはしてない。


あくまで前の世界と同じ食べ物の名前で助かってたことを思い出してたくらいだ。


これも想像だけどな、本当に異世界かもしれないし。


色々考えていると「ぐぅぅぅぅ……。」と物凄い音が聞こえた、どうやら発生源は流澪のお腹らしい。


顔を真っ赤にしている流澪、動いて喋ってお腹が空いたんだろう……ダーツってちゃんとすると腕と腹筋がめっちゃ痛くなるし。


「今日はピザよ!

 フライドポテトも食べるんだから!」


「好きなものを好きなだけ食べるといいよ。

 6年も禁欲生活をしてたんだからそれくらいしてもいいだろ。」


流澪が幸せならそれでいい、遊戯施設の事やクリーンエネルギー機構の事も話したかったが明日でもいいだろう。


今日は1日流澪のワガママを聞いてやりたい、流澪の過去を知った俺はそんな気持ちになっていた。


この後も何かあれば付き合ってやろう、1日くらいいいよな?

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