第269話 ドリアードの事を皆に説明しようとしたら、結構な勢いで怒られた。
デパートの買い物客や普通の観光をしている人達が楽しんでいた雰囲気が、ドリアードの登場によって壊れてしまった。
楽しいという雰囲気から一転神を崇めるような感じに。
悪い雰囲気じゃないからいいんだけど、流石にこの雰囲気がずっと続くと楽しい事も楽しめなくなる。
村に長期滞在してる人は普通なんだけど、今の時期はほとんどその日限りで訪れてる人ばかりだからな。
とりあえずどうにかしないとな。
「少し前からこの村に住んでいるドリアードだ。
その様子なら皆もドリアードがどういう存在か知っているだろう、好意を持って村に住んでいるから仲良くしてやってほしい。」
「大精霊であるドリアード様がこの村に住まわれているのですか……?」
近くに居た魔族から問いかけられる、服装を見るに宗教集団の人だろうか。
ユルゲンが似たような服を着ていた気がする。
「そうだ、色々あって俺とけいや……モゴモガ。」
「この村が気に入って拠点にさせてもらってるのよ、こんな食事が美味しくて神様が選ばれた人間が居る場所なんてそうそうないから!
今まで通り世界の管理はしているから、皆安心して日々を過ごしてちょうだい!」
俺が経緯を説明しようとすると、ドリアードに何かで口を塞がれて喋れなくなった。
何だこれ、植物の葉っぱか?
「そういう事でしたか、確かにそれならこの村は最適と言っていいでしょうな。
しかし神だけでなく大精霊までも認める村とは……ますます祈りを捧げなくてはなりますまい。」
そう言いながら祈り出した魔族、デパートで買った商品が入った袋を腕に下げてなければサマになったんだけど。
でも買い物をしてくれているので何も言えない、今は物理的に喋れないけど。
早くこれ剥がしてくれ、ちょっと苦しい。
「というわけで、皆崇めてくれるのは嬉しいけど自分の時間を楽しんで!
邪魔してごめんね、それと自然を大切に!」
「「「「「分かりました!」」」」」
その場を纏めて俺を引きずりながら食堂とは違う方向へ向かうドリアード。
何処へ行くんだ、それと早く剥がしてくれ。
「馬鹿!
軽々しく私と契約したなんて外部に漏らすんじゃないわよ!」
誰も居ない所へ連れて行かれて自由になったかと思いきや、開口一番ドリアードからものすごい怒号が飛んできた。
「何か悪い事でもあるのか?」
「当たり前でしょ、村でも起きていた私が居なくなった場合の不安を世界中にまき散らすつもり!?
いくら解決策があるとは言え、世界中に渡った不安を完全に払拭するのはほぼ不可能なのは分かるでしょ!」
そうか……確かにそうだな。
解決策も見つかって、ドリアードも何気なく過ごしていたから失念していた。
「すまない、軽率だった。」
「うん、分かればいいのよ。
今度から気を付けてね、守って来た命が不安に満ちた表情をするのは私としても辛いんだから。」
飄々としているが、ドリアードは自身の存在に必要な力と天秤にかけていくつもの命が失われていくのを目の当たりにしているはず。
存在を無くしてでも救いたい命はあったかもしれない、だが自分が居なくなれば更に多くの命が失われることになる。
俺の一言で世界中に住む人やドリアードを悲しませることになってたかもしれない、これは本当に反省しないとな……。
「さて、村長も反省したみたいだし精霊樹も植え終わってるし!
ご飯に行くわよ!」
俺はまだ気持ちが落ち込んでいるから少し休ませてほしい、俺が悪いんだけど。
だが逆らう力も元気も無い俺はドリアードに再び引っ張られて広場へ連れて行かれる、食欲も無いし軽い物だけ食べて退散するとしよう。
ドリアードとの食事を終えた俺は、何かする気力も起きず家に帰ってベッドで丸くなった。
ペトラとハンナは……悪いけど妻達が帰ってきたら迎えに行ってもらおうか。
しかし軽々しく重要そうなことを言わないように気を付けなきゃな、この世界に転移してきた当初はここまで大きな存在になるつもりは無かったんだが。
実際今もそんなつもりもない、周りが俺を持ち上げているだけ。
これがなければ皆に出会えなかったし、早々に野垂れ死んでるはずだ。
だが今日の出来事で少しそういった重圧から逃れたい気持ちが込み上げてきている、俺は
色々ネガティブ考えをしているとうつらうつらと眠気が襲ってきていることに気付く……これ以上考えていると気持ちが落ちていくばっかりだ、このまま寝てしまおう。
「――様、開様!」
眠気に身を任せて眠っていると、メアリーが物凄く慌てた様子で俺を起こしてきた。
窓を見ると陽が落ちている、結構な時間眠っていたみたいだな。
「すまない、大分寝てたみたいだな。
でもそんな慌ててどうしたんだ?」
メアリーの後ろを見るとペトラとハンナを抱えたウーテにカタリナ、それに流澪まで。
全員ホッとした様子だ、ということはそれまで俺を心配していたのだろう。
「どうしたも何も無いですよ、帰ってきたら開様の泣き声とうめき声が混じったような声が聞こえて慌てて寝室まで来たんですから!」
眠っていたはいいが、よっぽど堪えていたのか寝ながらそんなことになっていたとは。
道理で起きた時に枕が濡れていると思った、これは涙だったか。
弱いところを誰かに見せるつもりはなかったが……こればっかりは無意識だし仕方ない。
俺はドリアードに怒られた件を皆に説明。
「それは開様が悪いですが、今後どうすればいいかドリアード様から言われてますし開様も充分反省されてます。
それ以上気に病むことはありません、以後気を付ければ済むことなので。」
「そうそう、それにバレたところでこの村を利用したり楯突いたりするような人は今のところ居ないわよ。
もしそんな人が居たら水圧で圧し潰してあげるから。」
「そうそう、私もそんな人が居たら
「村長を守りたいのは分かるけど、ウーテと流澪ちゃんは物騒すぎない?」
俺もカタリナに同意見だ、メアリーくらいの心配で充分有難いからな。
その後妻達からそのまま明日までゆっくり休めばいいと言われたので、一旦お風呂へ入って食事をすることに。
そのまま寝る時間になったので就寝……と、言いたいのだが。
寝れない。
そりゃそうだよな、昼間にあれだけ寝たら寝れるはずがない。
ベッドで1時間ほどゴロゴロしたが全く眠気が来ないぞ……。
「そうだ、夜の散歩でもしようか。」
眠気を誘うために少し夜風に当たって体を動かしてみようと思いつく、このまま寝れない時間を過ごすよりマシな気がするし。
それにこの世界に来て深夜外を歩いたことがないし、ちょっと楽しみでもある。
早速着替えて皆を起こさないようにそっと家を出る、すると外は月と満天の星空で夜でも充分明るく照らされていた。
それだけでちょっとどころが大分楽しみになってきた、滅多とない機会だし夜の村を満喫するとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます