第270話 異世界転移して初めての夜の散歩を楽しんだ。

この世界に来て初めての夜の散歩、何かいけない事をしているみたいでドキドキする。


街灯が無くてもここまで明るいと思わなかった、天気が悪ければ真っ暗闇になるんだろうけど。


ただこれは村だから安心出来るのであって、村の外は野生の動物や魔物が蔓延る安全が約束されてない場所。


前の世界とは違う命の危険がある未開発の闇の中だ、警備には充分感謝しないとな。


「おや珍しい、村長じゃないですか。

 こんな時間にどうされました?」


「ちょっと昼間に寝すぎてしまってな。

 いい機会だしこの世界の夜を堪能しようと思って。」


休憩しているウェアウルフ族の警備担当に声をかけられる。


結構な時間寝て気持ちは大分スッキリしているから、今は純粋に夜の散歩を楽しんでるんだよな。


だからそんな心配そうな顔をしないでくれ。


「我々は昼夜関係無く起きてる事に慣れてますが……村長は人間の身ですし夜はしっかり休んでくださいね?」


「眠気が来たら帰るから大丈夫だよ、ありがとう。」


ウェアウルフ族と別れて普段と違う景色の村を見て回ることに、自転車を使ってもよかったが散歩をしたい気分なので歩くことに。


ちらほらと窓から明かりが漏れている家がある、起きてる人は何をしてるんだろうな?


睡眠時間を削って仕事をしてなければいいんだけど。


この世界の住民が言う休めてると、俺の感覚の休めてるは絶対違うからな……比喩表現無く丸一日労働をしてどうして休めてると口に出来るのかが分からない。


次の日は休んでるのかもしれないけど、1日の労働時間を決めてくれないと俺の心労に関わる。


このあたり、今度の話し合いで言ってみよう。


特にドワーフ族、いつ休んでるんだ。


まだ食堂に明かりついてるし、相当心配だぞ……警備部隊は助かっているだろうけど作り置きでどうにかならないだろうか。


試しに覗いてみるか、明かりをつけたまま休んでいるかもしれないし。




食堂に入ると普通に料理をしている音が聞こえてくる、小気味いい包丁の音が静かな食堂に響いていた。


「む……村長か?

 こんな時間に珍しいの、どうしたのだ?」


「ちょっと眠れなくて散歩してたんだよ。

 そしたら明かりがついてたからな、ちょっと寄ってみたんだ。」


「出せる物は簡単な物しかないぞい、奥にある料理は警備の分じゃし今作っているのは明日の仕込みじゃ。

 他の者は休んでおるし……フライドポテトと酒くらいならすぐ出せるんじゃがな。」


なるほど、夜に仕込みをしている人と昼間働く人で分かれているのか。


それなら無理なく休めてる気がする、深夜組も日光を浴びてほしい気持ちはあるけど。


そのあたりも交代しているのかな?


「いや、気にしないでくれ。

 本当に寄っただけだから。」


「む、もう出来るのじゃが……。」


頼んでないのに既に作り始めていた、何か揚げてるなと思ったがそれも仕込みかと思ったぞ!?


だがせっかくだしいただくとするか……ちょっと小腹は空いてるしお酒を飲めば眠気も誘えるだろう。


質のいい睡眠は取れないかもしれないけど、1日くらいこういう日があってもいいよな?


その後はフライドポテトをつまみながら、ドワーフ族と雑談しつつビールをいただいた。


仕込みをしながら途中やってくる警備に料理を出し、俺のフライドポテトを追加するドワーフ族。


追加するつもりは無かったんだけど。


幸い量はそこまでじゃなかったので食べきることが出来た、ビールもなんだかんだ2杯飲んじゃったし。


「ご馳走様、お酒も入ってお腹も膨れた。

 もう少ししたら眠くなりそうだし、散歩に戻るよ。」


「うむわかった。

 じゃがその前に一つ聞いていいかの?」


「どうしたんだ?」


「そのご馳走様というのはなんだ?

 村長と流澪殿だけがしているから、村長達が前に居た世界の文化なのはわかるが。」


確かに、この世界では誰もしていなかったな……というか前の世界でも俺が住んでいた国くらいしかしてなかった気もする。


俺はクセでしていた、流澪もそんな感じだろう。


「作ってくれた人と食材に関する感謝をこの言葉に込めている感じだな。

 俺が住んでた国では、子どもの頃からこれをしろと教わるからクセになってるんだよ。」


「なるほどそうだったか。

 それでその言葉を聞くと嬉しいような気持ちいいような気持ちになるのだな。」


「そう思ってくれてるなら有難いよ。」


感謝が通じているなら前の世界の慣習に感謝しなくてはな、俺は俺だけの力で生きることは出来ないのを自覚しているし。


生きるために必要な事をしている人は尊敬しているし感謝している、前の世界でもそれはしてきたつもりだ。


その後少し言葉を交わした後に食堂から出て散歩を再開する、日が昇るまでに眠くなればいいんだけどな。




結果としては朝まで全く眠くならなかった、皆が起きてくる時間になっても全く眠気は来ない。


まずい、睡眠時間がずれてしまった……いつもなら仕事をしたりする時間に眠くなるやつだぞ。


流澪に頼めば何とかならないかな、バインダーを渡すついでに試してみてもらうか。


「ふぁぁ……おはようございます開様。

 その様子だと夜中外に出てから眠れてないようですね。」


「気づいていたのか、起こしてしまったかな。」


「旅暮らしが長かったものですから寝てる間の物音には敏感なんですよ。

 寝てる間に魔物が襲ってくることも多かったですし。」


極力物音を立てずに動いたつもりなんだけど、あれで目が覚めるのか……ちゃんと寝れているのだろうか?


「そうだ、流澪はまだ部屋か?」


「起きてはいましたので、もうすぐこちらに来ると思いますよ。

 ……ほら。」


「おはよ、拓志。」


メアリーがそう言ったと同時に流澪が起きてくる、そんなパジャマいつの間に手に入れてたんだ。


それにナイトキャップまで。


「流澪、お願いがあるんだけど。

 想像剣術で睡眠時間のバランスを整えることって出来ないか?」


「えぇ……結局寝れなかったの?

 してあげたいけど、何を切ったらいいか分かんないわよ。

コーヒーでも飲んで一日凌げば……って、この村にコーヒーが無いんだったわ。

 紅茶でも飲んで夜まで凌ぐしかないわよ。」


やっぱりそうだよな……会社勤めのデスマーチを思い出すから嫌なんだけど。


「コーヒーって何ですか?」


メアリーが俺達の会話に反応する、物凄い期待した目をしているのでコーヒーが相当気になるんだろう。


「飲み物だよ、紅茶に近い嗜好品になるな。」


「ダンジョンで生やせますかね?」


「多分出来るぞ。」


「今日からお願いしますね。」


「分かった、久々に俺も飲みたいし。」


「またそうやって軽率にこの世界にあるか分からない物を生成させて……。」


メアリーのまっすぐな欲求に応えることになった、流澪には少し怒られたけど。


でもコーヒー飲みたいし、紅茶よりカフェインの含有率は多いから今の俺には必要でもある。


ご飯……はフライドポテトがまだお腹に残ってるからいいや。


早速ダンジョンに行ってコーヒーを生成してくるとしよう。

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