第266話 ドリアードから聞きなれない植物の名前を聞いたので、どうにかしようとしてみた。

明日は花の季節のデパート開店日、もう防寒着は必要ないくらい暖かくなっている。


自転車に乗ってて気持ちいい季節だ、完全な趣味の為にロードバイクを作ってサイクリングをしてもいいかもしれない。


だがメンテナンスが普通の自転車と比にならないくらい難しいだろうし、そんな時間が取れるかどうかも怪しいのでやめておこう……少し残念だけど。


俺は今回のアンケート用紙の作成とラミア族への印刷依頼も終えているのでかなり手空きになっている。


やっぱりロードバイクを……と思ったがせっかく自前の刀を作ってもらっているので扱えるようになりたいと思い鍛錬所へ。


これでも週に3回以上は通うようにしている、運動が苦手な俺にしては非常に頑張っているから誰か褒めてほしい。


鍛錬所に入ると珍しくシュテフィが徒手格闘の鍛錬でローガーと組手をしていた。


流石にローガーには敵わないだろうと思っていたが、2人の真剣な表情を見る限りかなりいい試合をしているのかもしれない。


「あ、村長。

 今日は鍛錬ですか?」


「あぁ、早く刀が使えるようになりたいし痩せたいのもあるからな。

 よろしく頼むよ。」


リッカから刀術の極意全てを修めたリザードマン族についてもらい、準備体操をした後いつも通りに鍛錬のメニューをこなしていく。


こうして言うだけなら簡単だがやってる内容は結構ハードだ、特に純粋な筋トレが本当にきつい。


それでも始めたてよりは明らかに回数をこなせるようになったので、継続は力なりという言葉は本当なんだろう。


「しかしシュテフィってローガーと張り合えるくらい強くなったんだな。」


「徒手格闘ではかなりいい線ですよ、武器を扱えばと勧めたのですが徒手格闘が趣味らしくて。

 それにノームの力を借りて身体能力を向上させているようですし。」


「精霊ってそんなことも出来るんだな。」


リザードマン族と他愛のない会話をしながら筋トレをこなしていると、ふとさっきの会話に聞き捨てならない内容があるのに気づいた。


「え、精霊の力で身体能力の向上が出来る!?」


「みたいですね、実際それが無いといくらシュテフィさんでもローガーさんをあそこまで追い詰めることは出来ないですし。

 ドラゴン族の方々なら別でしょうが。」


ドリアードと契約している俺でもそういうことが可能なのだろうか。


だがドリアードは力を使う時には魔力を使用するから注意しろと言っていたし、潤沢な魔力があるシュテフィだからこそ可能な技なのかもしれない。


それに身体能力を向上させても下地となる元の身体能力が伴ってないと付け焼き刃に過ぎないだろう、やっぱり鍛錬はこなさないと。


「一応返事しておくと出来るわよ、強さの調節も可能。」


「ひっ!」


床からドリアードが生えてきて俺の考えてることに返事をしてきた、心が読めるのか契約してるから考えていることが分かるのか……どっちにしてもその登場の仕方はやめてほしい。


ほら、俺の鍛錬に付いてくれたリザードマン族が腰を抜かしてる。


「その顕現の仕方どうにかならないのか?」


「自然を介してじゃないとそこに即時移動出来ないからこうなっちゃうのよ。

 精霊樹でもあれば恩恵の範囲内なら自然を介さなくてもいいんだけど……だいぶ昔に絶滅しちゃったのよね。

 何せ維持に莫大な栄養はもちろん魔力も必要だし、何より土壌が適してないとダメだからなぁ。」


「ドリアードの力で何とかならないのか?

 村でなら育てらるかもしれないし……その登場の仕方が解決出来るなら是非やりたいし。」


「そこまで嫌なの……ちょっと傷つくわ。

 とりあえず回答としては否ね、流石に私でも絶滅した種をどうにかすることなんて出来ないわよ。

 出来るなら神様くらいでしょうね、この世界に存在している森羅万象あらゆるモノは神様によって作られたものだし。」


「そうか、残念だが仕方ない。」


何とかなれば良かったんだがどうにもならないみたいだな……しかし神が作れるなら神のスキルを持ってる俺なら作れる?


精霊樹なんて大層な名前をしていても樹木の種類の一つだ、近くの木を想像錬金術イマジンアルケミーで錬成すればもしかしたら――。


「それじゃあ私は村に帰って来たし食事してくるわ。」


「あぁ、分かった。」


俺はドリアードを見送り筋トレを再開しようとしたが、リザードマン族が腰を抜かしたまま動けなくなっていたので落ち着かせることに専念。


まったく人騒がせな大精霊だ……世界を守ってくれてるからいいんだけどさ。




あれから筋トレを終えて刀術の鍛錬をし終わり帰宅の途中。


ふと精霊樹のことを思い出しどうにか出来ないかと想像錬金術イマジンアルケミーを使おうとしてみる。


すると村の近くにある森全体が光り出した。


ダメ元だったんだがまさか出来るとは、俺はすぐさま発動して作ろうとしたが視界に見慣れないポップアップが出ているのに気づく。


今までは出たことのない物だ、しっかり読んでみるか。


『これを錬成するには魔力量と生命量が足りません。

 警告を無視して錬成すると使用者の命が失われますが、よろしいですか?」


「よろしくないわ!」


誰かに話しかけられたわけではないが、ポップアップの内容を読んでつい大声でツッコミを入れてしまう。


その直後我に返り周囲を見渡すと、近くに居た人に奇異の目で見られていた。


「す、すまん……何でもないから。」


とりあえず弁明しておく、何でもないことはないが皆からすれば俺がただ叫んでいるだけだし。


しかし自分の命が失われる錬成では警告が出てくれるのか、これはこれで新しい情報なので有難い。


これが出ない錬成では俺の命が即座に失われることはないということだ、魔力量って自分で分かりづらいんだよな。


他の皆はどうやって分かっているんだろう、今度シュテフィ以外に聞いてみるか。


シュテフィは魔力量が違いすぎて参考にならないと思うし。


待てよ……シュテフィの能力で他の世界から精霊樹を持ってくることは可能だろうか。


ダメ元で聞いてみる価値はある、今日はもう日が暮れているから明日聞いてみるとしよう。


今日はこれから家族団らんの時間だ、もう家の近くだし妻達と子ども達が珍しく玄関先で俺を出迎えてくれているのが見えるので早く帰ってやらないと。


そう思い走って家に帰ると全員からハグをされる、流石にペトラとハンナはいないけど。


「今日は熱烈な歓迎だな、どうしたんだ?」


「明日は全員でデパートに行ってくるから後の事は任せていいかしら!」


「そういうことです!」


まさかのご機嫌取りだった、そんなことしなくてもいいから楽しんできなさい。


カールも連れて行くようだけど、気を付けてな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る