第262話 魔王とダンジュウロウへ自転車とピザを売り込んだ。

牧場から帰ってリストを作るために机に向かってペンを走らせる。


ペンだこが少し痛い、ポーションで治るかと思って飲んでみるとあっさり治った。


もう少し早くしておけば良かった、事務仕事をするときは棚に常備しておくか。


……だが、さっきも思いついたようにタイプライターがあれば劇的に作業速度が上がる。


想像錬金術で作れないかな……色んな資材がある倉庫で発動させたらすんなり完成したりしないだろうか。


そう思って倉庫へ行き、タイプライターを思い浮かべる――お、光るじゃないか。


早速錬成っと。


構造を確認するとインクリボンを交換するタイプらしい、これが作れたということはインクリボンも作れるし予備をいくつか作っておこう。


そうだ、これを使うなら羊皮紙も使えないな……普通のA4用紙を100枚ほど作っておくか。


ばらけると面倒だからお店でよく見るような梱包状態で……お、これも錬成出来る。


これだけあれば俺の仕事には充分だ、箱に入れて持って帰るとしよう。


書斎へ持って帰って試用、見慣れた文字にならないのは不便だが俺が読めればいいのでこれで問題無い。


ちょっと読みづらいけど、スペースを適宜入れて入力すれば今までより劇的に早くなる。


皆に見せる物は手書きにするとして、俺個人で使う書類はこれでいいだろう。




タイプライターを作ってウキウキで作業を進めていると、書斎のドアをノックする音が聞こえた。


「村長、居るか?」


「ダンジュウロウか、入っていいぞー。」


やっと起きたのか。


窓に目をやるともう昼過ぎ、さっきまでそんな事なかったんだが時間が分かると一気にお腹が空いたな。


「寝すぎてしまったようですまない、どうも村に来るとだらけてしまう。

 リッカから聞いたのだが、私を訪ねて来てたみたいだな。」


「自転車とピザについてだよ。

 もう少しで作業が終わるから一緒に食堂に行って、そこで話をしよう。

 ちょっと待っていてくれ。」


「分かった。

 だが、見慣れない機械を使っておるな……机に収まる活版印刷機か?」


「似たようなものだよ、だけどこれは大量生産には向いてないし見慣れた文字になってないだろ?

 完全に俺しか使えない……いや、流澪は使えそうだな。」


「ふむ、確かに解読待ちの言語に似た文字が羅列しておって全く読めん。

 村長はこれが読めるのか?」


解読待ちの言語に似てる、英語が?


今現在俺はローマ字入力をしている、和文がこの世界でそのまま通じているので今まで和文を使っていたがタイプライターでそれを再現は不可能。


いや、出来るかもしれないが文字数がとんでもないことになって結局手書きの方が早いという事態さえ起こり得る。


なので文字通りローマ字が紙には印字されている、だがこれが解読待ちの言語ということは英語かドイツ語か……そのあたりが古い時代に使われていたのかもしれないな。


なんでそのあたりの言語があって、前の世界で世界一難しいとされる日本語が普及したのか分からない。


神の仕業だろうか。


そのあたりは考えても分からないな、ペーターのような学者に任せるべきだろう。


「似ているのは偶然だろう。

 それにこれはその文字でも特殊な読み方だ、通常の言語の文法や意味なんかは怪しいから解読依頼は遠慮してくれよ。」


「む、読まれたか。

 だが学者達が頑張ってくれている、そちらに任せるとしよう。

 では終わったら呼んでくれ、私はそこで座って待っているぞ。」


「分かった、俺も急ぐから。」


ペーターの時はあまり見なかったが、もしかしたら見たらどんな言語か分かったかもしれない。


辞書って想像錬金術で作れるのかな、気が向いたら試してみるとするか。




作業が一区切りついたのでダンジュウロウと食堂へ向かっていると、クズノハと魔王とも合流。


せっかくなので4人で食事をすることに、クズノハは仕事の話なら離れるぞと言ったが聞かれて困ることは無いので同席してもらった。


魔王がクズノハの言葉を聞いてすごい悲しそうな顔をしたし。


「――というわけだ。

 後は魔族領と人間領で検討してほしい、こちらの人員派遣については村で話し合いを行ってからだけど。」


自転車の鍵とジャンクフード類を売る店舗について説明する、前者はともかく後者は是非食いついてほしい。


じゃないとピザとハンバーガーの宴会チーズ尽くしが開催されてしまうから。


「うぅむ……どっちも魅力的ですぐに返事をしたいのじゃが。

 これは領の経済に直結する問題じゃから慎重に決めねばの。」


「ワルター殿と同意見だ、是非とも欲しいがすぐに返事が出来ない。」


確かにそれはそうだろうな、魔族領と人間領も数多くの飲食店があるし……ピザもフライドポテトも酒が合うから、こぞって通ってしまえば今まで頑張って来た人が路頭に迷う可能性だってある。


自分で言うのもなんだが、大型チェーン店が個人事業主の飲食店を潰すようなものだからな。


規模としては違うが、村の材料費は人件費以外実質無料で無限だし……人件費も自給自足が出来てるから何も失わない。


「じゃが、自転車は欲しいぞ!

自転車と鍵を交易で流した分だけでも構わんのじゃ!」


「ワルター殿、思い切っておるな。

 こっちは製作技術を買うか交易をするか悩んでいるんだが。」


「ダンジュウロウ、こういうのはまず買ってある程度普及させるのじゃ。

 そうして領の職人に改善させていってそれを領で売るのがベストじゃよ、それが叶わなくとも整備だけである程度経済は動くのじゃし。」


俺じゃなかったら交易を止められてもおかしくない発言をする魔王、ダンジュウロウも魔王の言葉を聞いて流石に焦ったのか俺の顔色をうかがいながら魔王の口を塞いでいる。


気にしてないから大丈夫だぞ、それを聞いたからと言って交易を止めるつもりはないし。


「じゃがワル……魔王、あれは動力を伝えるチェーンとやら以外は魔族領に存在しておらぬ材質じゃぞ。

 本当に整備まで請け負えるのか?」


「なんじゃクズノハ、いつも通り名前で呼べばよいじゃろ。

 しかし材質の問題があるか……村長、部品を小分けに売ってもらえることは可能か?」


「もちろん可能だ、組立前の物を流せばいいだけだし。」


「なら問題無いじゃろ、技術者に自転車を領から与えて組み立て方をしっかり覚えてもらえば対応出来るはずじゃ。」


魔王って割とやり手だよな、こういう事の頭の回転と判断が早い。


ダンジュウロウは「なるほど、それなら……。」と魔王の言葉を聞いて考えている、自転車もいいけどピザの事も考えて欲しい。


「よし、魔族領の返事は自転車と鍵は交易で流してほしいのじゃ。

 台数はとりあえず500ほど、売れ行き次第で今後取引数量が増えることもあるじゃろうが。

 ピザに関しては待ってほしい、あれは人を狂わす食べ物故慎重に判断させてほしいのじゃよ……もしかしたらレシピの買い取りになるかもしれぬ。」


「人間領も魔族領と同じ内容で頼む、ピザに関しても同様だ。」


「分かった、そのようにしておくよ。

 魔族領と人間領と取引するためのチーズも大量生産に取り掛かってくれてる、保存はこっちでしておくが早めに決めてくれると助かるよ。」


2人はそれに了承、そのまま食事を終えて3人と別れた。


魔王とダンジュウロウは今日のうちに村を発つらしい、領のトップだしそこまで長居は出来ないのだろうな。


俺も仕事は終わったし、自転車で見回りをして鍛錬所でカロリーを消費するか。


昼食でフライドポテトを食べすぎてしまったし。

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