第263話 サキュバス・インキュバス族の様子が気になったので商店街を覗いてみた。
氷の季節も終わりが近づいて、少しずつ暖かくなってきた。
とは言ってもまだまだ防寒着は手放せない、だがデパート店内の準備が着々と進んでいくのを見ると季節の変わり目を感じる。
最初はどうなることかと思ったが、村・魔族領・人間領の3地域で成功を収めるイベントになって良かったよ。
ドワーフ族は自転車の製造に忙しい、こちらはかさばるのでデパートには出品せず交易でのみ取り扱うから急いではないらしいが鍛冶の手は余り気味らしい。
商品の武具なんかは作り終えているらしいからな、相変わらず手の早い。
デパートと言えばサキュバス・インキュバス族は商店街で上手くやれているのだろうか?
最近あまり見ないし話も聞かないからな……何も無いということは上手くやっているとは思うんだけど、少し様子を見に行ってみるか。
商店街を覗くと人だかりが出来ている、何かあったのかと覗いてみるとサキュバス・インキュバス族との握手会のような事が開かれていた。
……アイドルか何かか?
「これは何をしてるんだ?」
俺は隣で店番をしてるマーメイド族に尋ねる。
「見ての通りサキュバス・インキュバス族とお客様の交流会です。
容姿が非常に整っているので支持者が多く集まってしまいまして、接客以外にこういった時間を設けることにしたんですよ。
接客自体はほぼ完璧にこなせますし、売上は上がって来てますので安心してください。」
本当にアイドルというか水商売というか……それに近しいことになってしまっているな。
嫌がる素振りは見せてないけど、本人達の気持ちはどうなんだろう。
念のため確認を取ったほうがいいかもしれない、もし苦痛を感じてるならやめさせるか別の案を考えないとな。
「サキュバス・インキュバス族の時間が取れたら俺の家へ来るように伝えておいてくれ。」
「分かりました。
でも、接客をしてないからと怒らないでやってくださいね?」
俺はマーメイド族のお願いにこくりと頷いて返事をする、そんなつもりは無いから安心してくれ。
さて、俺は見回りを終えたら家に帰って今回のアンケートの内容を考えるとしよう。
後から聞いた話だが回答率は100%だったらしいからな、次もやらない手はない。
しかし少々回答率が上がればいいなと思っただけの特典だったんだけど……恐るべしドワーフ族の料理。
書斎の机に向かって作業をしているとドアをノックする音とサキュバス・インキュバス族の声が聞こえてきた。
「村長、ニルス・ハイケ・他3人のサキュバス・インキュバス族です。
入ってよろしいでしょうか?」
「いいぞ、入ってくれ。」
ドアが開いてニルス達が入ってくると少し顔色が悪くなっている、やはり交流会は嫌々やっているのだろうか。
きちんと聞いてみないとな。
「今から質問をするが包み隠さず答えてくれ。
お客との交流会、あれについてどう思ってる?」
「新入りの私達を受け入れてくれてますし、特別に支持してくれて有難く思っています。
それにサキュバス・インキュバス族の能力で触れた人の夢に干渉出来るようになるので、私達も助かってるんですよ。
村でお腹いっぱい食べさせていただけてますが、夢はまた違った美味しさと満足感が得られるのに気づいたので。」
ふむ、そういうメリットがあるなら悪くはないのか。
だが先にこうなった以上サキュバス・インキュバス族の能力を使った商売は出来なくなったな、気づかれてないかもしれないが無償でやっていたことが有償になるとクレームが出るかもしれない。
そこまでお金儲けをするつもりはないからいいけどな、自転車とチーズも売れるだろうし……集まりすぎているくらいだ。
「では次だ。
交流会で嫌悪感を抱くようなお客が居たり、過度な接触は無いか?」
「過度な接触とはどの程度でしょうか?」
「そうだな……男のシンボルや果実を触ったりだろうか。」
改めて言われると気恥ずかしくなったので言葉を濁してしまう、俺の言葉を聞いて5人全員が笑い出した。
そんなに笑わなくてもいいだろ、年甲斐もなく恥ずかしくなったがこっちのほうが恥ずかしい!
「村長ったら子どものような表現をされるんですね……ぷくく。
すみません、その程度でしたらサキュバス・インキュバス族は挨拶のようなものなので気にしてないですよ。
ちなみにそういうことはされていません、マーメイド族の方々からえっちなのはダメですよと釘を刺されてますので。」
ナイスだマーメイド族、商店街という村で一番人が集まる場所でそんなピンク色の雰囲気を出されてしまっては困るからな。
「それと嫌悪感を抱くようなお客は居られません、皆商店街を利用してくれた上で私達を支持してくれている大切な方々ですから。」
「それならいいんだ、前の世界ではそういったトラブルもあったから心配だったんだよ。
何かあったら相談してくれ、きちんと対応するから。」
「心づかい感謝します。」
「気にしないでいいぞ、これからも頑張ってくれ。
それに花の季節になればデパートも開催される、商店街とは比にならないくらいお客が来るからそのつもりでな。」
ニルス達と会話を終えて俺は机に向き直る。
だが、ペンを少し走らせてもニルス達が部屋を出て行く様子が無い。
振り返ると困った表情をして5人で顔を向き合わせている。
「どうしたんだ?」
「あの村長、用事は終わりでしょうか?」
「ああ、終わったぞ?」
「怒られたりとかは……。」
「頑張ってる人に怒ることなんて無い。
俺は交流会で嫌な思いをしてないか心配だったから話をしたかっただけだぞ?」
それを聞いたハイケがその場にへたり込んだ、スカート短いんだからパンツ見えちゃうぞ。
「何かやらかしたと思って怖かったぁぁ……。
サキュバス・インキュバス族を代表して来てるのに、早々に怒られたんじゃ皆に合わせる顔が無いと思って不安だったよぉ……。」
よっぽど不安だったのか泣き出してしまった、分かりづらい呼び出し方をしてしまってすまない。
だがハイケの言葉を聞いて思い出す。
ニルス達が村に来てそこそこ経つが、サキュバス・インキュバス族の里へ何か連絡をしなくていいんだろうか?
ついでなのでそのことを聞いてみると、接客の新人が仕事の穴を空けるのはダメだと返事をされた。
前の世界の社畜みたいな考えを持ってるんだな……そんなこと気にしなくていいから連絡をしてあげなさい。
それにデパートが開催されると余計休めなくなってしまうだろうし、マーメイド族の評価も良かったので今抜けても問題無いだろう。
氷の季節は厳しいからな、間引きのような悲しいことがある前に可能なら村に移住してもらわなくては。
ニルス達を説得して移住、もしくは援助をするように促す。
5人とも嬉しそうに返事をしてその準備をするため書斎を出て行った。
さて、俺は移住の手助けをする部隊を組むために動くとするか。
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