第258話 パンとピザが普及して、村がさらに豊かになった。
ピザで予期してなかった宴会を終えた次の日。
家族で朝食を食べに食堂へ行くと、既にトーストが振舞われていた。
しかもハムに目玉焼き、サラダにスープと前の世界でホテルに出てくる朝食のラインナップ。
「これが一番合うかと思っての。」
昨日あれだけどんちゃん騒ぎして何でそこまで最適解が出せるのだろうか、というかよく作り方分かったな。
ちゃんと寝れているか心配だが、全員目に見える不調は無いし健康そのもの。
能力がものすごい優れていると取っておこう、それより今は朝食にトーストを食べれるという喜びを嚙みしめないと。
元々朝食はパン派だったからな、米や麵類でも大丈夫だけどやっぱりパンのほうがしっくりくる。
「これが村長の言ってたトーストね。
ピザと比べると質素だけどこれはこれで美味しいわ!」
「私はこれ好きです、何ならもう1枚……いえ2枚いけちゃいます!」
「メアリーそれは食べ過ぎよ。
でもこれは本当に美味しいわね、色んな調味料が合いそうだからアレンジもしやすそうだし。」
流澪を除いた妻3人は食べながら会話を弾ませている……流澪は食べる手が止まるどころかまだ口をつけていない。
「流澪、大丈夫か?
食事に手を付けてないみたいだけど。」
「朝ご飯にトーストが出てるのが嬉しくて……。」
流澪はそのまま泣き出してしまった、嬉しい気持ちは分かるがそこまでか!?
俺は落ち着かせるために背中をさすってやる、パンが食べたいと漏らしていたのは知っていたがまさかそこまでとは。
「今日から毎日前の世界より美味いパンが食えるんだから、落ち着いて温かいうちに食べろよ。」
「ぐずっ……そうよね。
いただきます!」
背中をさすられながら返事をした流澪は、俺から離れトーストに手を付け始める。
「んんー……!」と満面の笑みを浮かべながら食べる流澪を見て作って良かったなと感じた。
朝食の後は朝食の後で大変だった、何せ昨日のピザは村の住民にしか振舞われていない。
匂いは昨日嗅いでいるし、そこかしこでピザの話題を聞いていると訪れている魔族や人間も食べたくなるのは道理だ。
俺を見つけて「私たちの分のピザというのは無いんですか!?」と問い詰められる。
食卓に並ばないということはドワーフ族が満足行くピザを作れてないという事かもしれないし、単純に酵母の在庫が危ないのかもしれない。
「ちょっと確認を取るよ、今日は無理かもしれないが絶対に食べさせてやるから少しの間我慢してくれ。」
「絶対ですよ、ピザを食べるまで何日でも滞在しますから!」
来訪者の切実な声が響く。
宿泊料は取られているんだから、食べ物一つで自分を追い込むんじゃないぞ。
俺は来訪者の願いを叶えるため食堂に戻る、そしてドワーフ族にピザが何故メニューになかったのか尋ねてみた。
理由は単純なもの、朝食には向いてないからという答え。
よく考えればこの村での朝食は胃に負担のかかるものは一切出てない、そこまで考えていたのか。
酵母の在庫も充分らしい。
試作を数多く作っていたから酵母の作成に時間がかかっていたが、製作手順が確立された今量産も簡単だそうだ。
来訪者の皆良かったな、昼か夜にはピザが食べれそうだぞ。
見回りの時に見かけたら声をかけてあげよう、恐らく鍛錬所・冒険者ギルド・商店街のいずれかに居るだろうし。
見回りを終えてやることが無くなった、書類関係の仕事もある程度終わっているし残っているのは急いだものではない。
ふとクリーンエネルギー機構の研究が気になったので研究施設へ顔を出してみる。
「あら、珍しいわね。」
「ちょっと気になっただけだよ、今見ても問題無い図面や書類を見たいから貸してくれないか?」
「それならそこの戸棚にあるわ、機構自体はもうほぼ完成してるんだけど余剰分の蒸気やエネルギーをどうしようかって悩んでいるのよね……。」
そこまで研究が進んでいたのか、思ったより早く出来上がりそうだな。
だが余剰分の蒸気とエネルギーか……確かに放っておくわけにはいかないものだし、出来ることなら有効活用してやりたい。
図面や書類を見ていると機械的な図が沢山書かれていてワクワクしてしまう、設計自体もかなりすごい物だし本当に完成が近いのだと書類を見ても分かる。
だが、流澪の言う通り余剰分の蒸気を逃がす配管の先に何も描かれていない。
ここから垂れ流してもいいがタービンを回すほどの蒸気だ、誰かが不意に触れてしまえば大火傷を負うだろう。
「流澪、規模としてはこの発電装置でどれくらいの電力が賄えるんだ?」
「村全体くらいなら楽々いけると思うわよ?
でも前の世界で言う節電をしなくても余裕で賄えちゃって……余剰エネルギーがすごいのよね。」
確かにな、昼間ではもっと技術改革が進まないと電気を使う必要もないだろうし。
現状俺が考えている物は建物内と村の照明だ、どれも夜にしか使わない物なので昼間は完全にエネルギーが余ってしまう。
「煙突を作ってそこから蒸気を逃がすのはどうだ?
遠目に見ても村の位置が分かりやすいし、上空なら誰かを火傷させる心配もないだろ。
あるとすればドラゴン族とハーピー族くらいだが、きちんと説明すれば近づかないだろうし。」
「……確かに、それいいわね。
煙突か、蒸気を逃がすためだけに煙突なんて思いつきもしなかったわ。
これで前進、いえもう完成まで持っていけるかもしれない!
拓志、試作を動かすための土地を確保しておいて!」
流澪は興奮気味に俺に要望を伝えて、何かに憑りつかれたように羊皮紙に向かってペンを走らせる。
確かに一度小規模で動かしてみないと、いきなりじゃ何があるか分からないだろうし当然か。
今は空いている土地がないし……居住区の敷地を少し広げておこう。
俺は一通り書類に目を通し終えたのでその作業に取り掛かることにする、流澪も他の人も研究に集中して俺が居るのを忘れているかもしれないし。
出て行く間際、流澪が「今度はハンバーガーが食べたい!」と叫んだ。
……俺も食べたくなったじゃないか。
土地を広げたら食堂に行ってハンバーガーを作るとしよう、これもメニューに追加して差し支えない料理だし。
ハンバーガーで酒は進まないから、俺とドワーフ族でこっそり作るって食べるとしよう……後で皆も食べれるからいいよな?
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