第257話 ダークエルフ族が酵母を完成させたので、パンとピザを作った。

サキュバス・インキュバス族が村に来てから1週間。


講義を終えて今は商店街で実地訓練中らしい、全員接客の適性は高かったらしいので良かった。


夢も食べてくれているらしく、住民からもぐっすり眠れるようになったと大好評。


もちろん俺もよく眠れている気がする、夢を見たなぁという感じがなくなったので深い睡眠を維持出来てるんだろうな。


機会があればいつ集落に報告、全員の移住をするか聞いておかないとな。


移住するための部隊や準備なんかもあるし、荷車とかがあればなんとかなりそうな気もするが。


今のところ気になっている事はそれくらいなので俺も日常に戻っている、そんな急いだことでもないだろうし。


村では花の季節に向けたデパートに出す商品の準備で大忙しみたいだけど、俺が出来ることは特に無いので頑張ってもらうことにする。


自転車を出してもいいんだけどな……犯罪防止とそれに対する罰則の制定が整ってからだろう。


後者はあるだろうが、前者は今までにないものなのか特に報告があがってこない。


一応鍵を作ることも出来るが……その説明をデパートでするのは忙しさに拍車をかけるので日常である程度普及してからするべきだろう。


さて、俺は俺のすることをしないとな。




書斎での仕事が一区切りついたので、気晴らしがてらに自転車で村を見回り。


今日の見回りは終わってるんだが、あまり見ないところや細かいところを重点的に見ることに。


もしかしたら見落としがあるかもしれないし。


気晴らしが一番の理由だけど。


色々見て回っていると、遠くからダークエルフ族が土煙を上げながらこちらへ走ってくるのが見えた。


そんな速度で走れたのか、ぶつかったら危ないから減速したほうがいいぞ。


「村長……出来ました!」


「何が出来たんだ?」


「村長が頼まれたのにそんな反応ですか!?

 酵母です、村長がおっしゃっていた食べ物に現状最適じゃないかと思われる酵母を完成させましたよ!」


そういえば頼んでいたのを忘れていた……しかし酵母が出来たとなるとパンやピザといった美味しいのが約束されている料理が作れる。


だが思い出して完成したと聞くとワクワクしてきた。


「よし、早速試そう。

 酵母の予備はあるか?」


「大丈夫ですよ、私にも食べさせてくれますよね!?」


「もちろんだ、頑張って作った人が最初に食べなきゃ可哀想だろ?

 それじゃドワーフ族の厨房へ行こう、材料は分かってるし。」


俺はダークエルフ族にどんな食べ物が出来るかを説明しながら食堂へ向かう、魔族領や人間領ではパンを見かけなかったし小麦は全てパスタにしているのかもな。


安定した供給には大事だが、ドワーフ族のようにもっと料理に探求心があってもいいんじゃないかと思ったけど――厳しい環境ではそうはいかないのかもしれない。


前の世界のように食糧が飽和状態になっているわけじゃないし、俺のいた国が恵まれてたというのもあるけれど。


だがこれでデパート開催前に新しい料理が提供出来る、是非持ち帰って広めてほしいものだ。


もちろん向こうからも何かしらのレシピを貰うけれど。




「――というわけだ、俺が言う材料を持ってきてくれないか?」


「すぐに揃える、待っておれ。」


厨房担当のドワーフ族に事情を話すと即答で材料を準備してくれることに、デニスもどこからかやってきてワインとビールを準備していた。


気が早すぎる。


ピザにはどっちも合うけど、パンに酒は……ワインなら合うかもな?


「出来たぞ、まずは村長の想像錬金術イマジンアルケミーで完成させてくれ。」


「分かった、まずはパンからだな。

 表面を焼いたらより美味しくなる食パンというものを作るぞ。」


俺は小麦粉・砂糖・バター・塩・酵母を材料に食パンを錬成、うまく出来たみたいだ。


「これは焼かねば食えないのか?」


「そのままでも食べれるぞ、焼いてさらにバターを塗ったりチーズと一緒に焼いたりしたら更に美味い。」


「話を聞くだけでもよだれが出ますね……。」


ダークエルフ族がじゅるりと音を立てて口を拭う、気持ちは分かるけど女の子なんだからもう少し自重したほうがいいんじゃないだろうか。


「では焼いてバターを塗るというものを試してみよう。」


ドワーフ族が切った食パンを釜に持っていって焼いてくれることに。


もうあれだけで美味しいのが約束されているようなものだ、電子機器で作るよりああいう窯で焼いたほうが美味いのはなんでなんだろうな?


「……卵を使うと更に美味かったかもしれん。」


まだ焼いてる段階なのにそこまで分かるドワーフ族、一体どういう思考をしているんだ。


食に関してはメアリーの思考力よりすごいかもしれない、というかすごい。


しばらく焼いて焦げ目がついたところで、窯からトーストを取り出しお皿に盛ってバターをたっぷり塗る。


「はぐっ……んまっ!」


「んむ、これはなかなか!」


「小麦の新しい可能性じゃ、パスタの製造ラインを止めるぞ!」


三者三様の意見を聞けて良かった、いやしかし……これはマジで美味いぞ。


前の世界でも奮発して一斤1000円近くした食パンを食べたことがあるが、それを遥かに超える美味さだ。


材料と焼き方の問題なんだろうか、これは感動。


それと、パスタの生産を止めるのは流石にやりすぎなのでやらないほうがいいと思う。


4人で一斤をぺろりと平らげる、トーストを食べた後にピザを食べれるかどうか不安だったがこれなら余裕だな。


まだまだいける、それくらい美味しい。


「村長、次はピザとやらを頼む!」


「お願いします!」


ドワーフ族もダークエルフ族も興奮気味にお願いしてきた、そんなグイグイ来なくても作るから安心してくれ。


デニスは既に材料の分量を量って羊皮紙にメモを書いている……食べてからそんなに時間が経ってないのにすごいな。


「村長、このピザに乗せる野菜や肉は他の物でも代用出来るのか?」


デニスがメモを書きながら俺に質問してきた。


「もちろん出来るぞ、それによって違う美味しさがあるから俺が作ったもの以外も色んなものを試してほしい。

 それと、チーズにもいろんな種類があるんだけど……これは牧場に伝えて色んなものを試してもらうしかないな。」


「ふむ、わかったぞい。

 ではピザを頼む。」


メモを書き終えたデニスもピザを催促してくる、よし……それじゃいくぞ。


俺は用意してもらった大きめの皿にピザを錬成、出来たてで匂いからして美味しいのが分かるピザが目の前に出来た。


……これは、ダメ人間になる匂いだ。


「よし、トーストは皆で食べたがこれは酵母を作ってくれたダークエルフ族あってのものだ。

 このピザの一口目はダークエルフ族に食べてもらおう。」


「いいんですか!?」


「もちろんじゃ、このふっくらとした口当たりは酵母無しじゃ無理じゃろうからの。」


「このままじゃ食べにくそうじゃの、ちょっと8等分にするから待っておれ。」


デニスが包丁を取ってきて綺麗に8等分に切り分ける、ピザカッターがあったほうがいいかと思ったがオレイカルコス製の包丁の切れ味が良すぎて必要なさそうだ。


「それじゃ失礼して……はぐっ。」


ダークエルフ族がピザを頬張る、しばらく口で味を確かめていると俯いて肩を震えさせだした。


……美味しくなかったか?


そう不安に思ったが、顔を上げると表情は笑顔。


ごくりとピザを飲み込むと「あははははっ!」と笑いだした。


「何ですかこれ、美味しすぎますって!」


本当に美味しい物を食べると笑いしか出ないって本当なんだな、じゃあ俺もいただきます。


ぱくり。


……これはダメだ、美味すぎて勝手に二口目を食べてるしビールに手が伸びてる。


こんなピザ食ったことない、本当に美味いピザってこんななのか!?


「はふはふ……これは美味いぞ!

 すぐに再現をしなければ、何故こんな美味しい物を思いつかなかったのだ!」


デニスは食べながら再び材料の分量計算を始める、分量が分かったとして料理工程は分かるのだろうか。


まあ俺が何となく分かるから、行き詰ったら教えよう。


カレーを再現出来ていたし、心配はしてないけどな。


その後厨房から香る美味しい匂いに釣られて人が殺到、全員にピザを振舞って宴会と化してしまった。


全員に大好評で良かったよ。


ただ、誰かが言ってた「毎日ピザで!」は絶対に飽きるからやめたほうがいいと思う。

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