第256話 サキュバス・インキュバス族と仕事の話をした。
サキュバス・インキュバス族が村にやってきた次の日。
結局あの後気絶してそのまま起きて来なかった、お風呂とか村のルールとか説明しようと思っていたのに。
生きてるかどうか心配だったが、ハーピー族が窓に聞き耳を立てた所寝息は聞こえてきたらしいので安心する。
普段はそういうことしないようにな、流石にプライバシーがあるし。
この世界では軽視・もしくはその概念が無いのかもしれないが、プライバシーを甘く見ているといずれどこかでトラブルが起きる。
程々な距離感が大切だ、前の世界のような他人との関係をほぼ完全に断絶しているようなのもまた生きづらいし。
今のところそういったトラブルは起きてないし、過干渉も感じてないから安心しているけど。
とりあえず朝の運動と家族での食事を済ませたのでサキュバス・インキュバス族の居住区へ。
ドワーフ族に聞いたがまだ食堂には来てないみたいだし。
「起きてるかー、大丈夫かー?」
玄関をノックして呼びかけるが、返事が無いので引き返そうとしたその矢先、家の中からドタドタと慌しい音が聞こえて来た。
玄関に近づいてきているし気づいて起きたのだろう、そんな走っていると転ぶから気を付けろよ?
「す、すみません村長!
昨日は気絶してしまって……ここまで幸福感に満たされて眠ったのが久々でつい遅くまで寝てしまいました!」
「構わないよ、心配で見に来ただけだから。
それよりぐっすり眠れたようでよかったよ、食事を済ませたら居住区の奥にある俺の家まで来てくれ。」
「自己紹介も出来ないまま案内だけされたうえ、家まで用意してもらったのに気絶してそのまま寝坊したのに食事が出るんですか?
てっきり罰があると思っていたんですけど……。」
「それくらいで罰さないぞ、それに長旅で疲れてたし黒死病で死にかけてたんだ。
1日どころか数日休んでも文句を言うつもりはなかったよ。
ただ話せるときに仕事の話をして、それを遂行してくれればそれでいいさ。」
サキュバス・インキュバス族は思ったより厳しい戒律の中で生きているのだろうか、寝坊で罰なんて前の世界じゃ学校と仕事くらいのものだ……と思い返したが、それって人生でほとんど怒られる環境下にあったと気付く。
この村が緩すぎるだけかもしれない。
「ではお言葉に甘えて食事を取らせていただきます。
自己紹介は村長の家をお訪ねした時にきちんとさせていただきますね。」
「あぁ、頼むよ。」
せめてリーダー格のこの人の名前だけでも知っておかないとな、今も住民全員の名前を憶えているわけじゃないが主要な人物は覚えてるし。
サキュバス・インキュバス族は仲間の家を訪ねにいったので、俺も家に帰って書斎で仕事をして待ってるとしよう。
カールは自分の自転車が手に入ったので、奥様方に預けてもウッキウキだから静かに仕事が出来る。
前みたいにべったりの日がたまにあってもいいんだけどな。
しばらく仕事をしていると誰かが玄関をノックする音がする、出ようとすると家に居たカタリナが対応してくれた。
「あら美男美女、あなた達がサキュバス・インキュバス族ね。
村長なら奥の書斎よ。」
カタリナの話す声が聞こえたが、開口一番に美男美女と呼ぶのはどうかと思う。
実際そうなんだけどさ。
「失礼します。」
「入っていいぞー。」
書斎の扉をノックする音が聞こえたのでサキュバス・インキュバス族に入るよう促す。
大人6人じゃ少し手狭かもしれない、広場で話すようにすればよかった……だが、それだといつ行けばいいか分からないしな。
我慢してもらおう。
「それじゃまず自己紹介からしようか。
俺がこの村で村長をしている開 拓志だ――」
まずは俺の自己紹介、名前と簡単な過去の説明をするが……信じなきゃいけない状況だから信じているといったような顔だな。
まあ異世界から転移しただの神のスキルだのと口で言われても分からないだろう、だが人間がここまでの種族を束ねているということは本当なんだと思っている感じか。
実際俺も他に適任者がいると思っているから安心してほしい。
「私はニルスです。
サキュバス・インキュバス族の移住検討の先遣部隊の隊長に任命されて、村を目指し今現在となります、お会いした状況は恥ずかしい限りでしたが……。」
リーダー格だと思っていたインキュバス族が自己紹介をしてくれる、やはりそうだったか。
「私は先遣部隊副隊長のハイケと申します。」
今度はサキュバス族の子が自己紹介、副隊長も居るんだな。
だが部隊を組むなら普通任命するか、村の部隊が上手く機能しすぎているだけで。
そもそも個々の能力が高すぎるから、司令塔がきっちりと指示を出せば完遂しているんだよな……魔族領と人間領が滅びそうな事でも副隊長を任命せず解決してるし。
まぁそれは置いておいて、とりあえずは仕事の話だな。
「まずサキュバス・インキュバス族が得意とすることはあるか?」
「産業としてはほぼからっきしですね……狩りも並程度だと思います。
種族ならではというと、やはり夢を食べれることでしょうか。
悪夢は私達の好みでもあるので、皆さんの安眠を助けることが出来ますよ。」
「それと、どうやら他種族から見ても容姿が整っているそうなので……夜伽のお手伝いなんかもしますよ。
夫婦の契りを交わしている方と出来ないという制約はありますけど。」
前者はともかく後者は仕事にするには過激過ぎるのでダメだ。
悪夢を食べてくれるのは助かるけど……疑問がある。
「だが、皆が寝てる間ということはサキュバス・インキュバス族も寝てるんじゃないか?」
「はい、体は寝てますが夢を食べる時は夢魔という状態になるので……意識体として他の人の夢に介入するんです。
なので体はきっちり休めることができます、安心してください。
ただ夢魔状態になると体もそれに連結して動くので大きなベッドを用意していただいたんですよ。」
なるほど、大きなベッドの理由も分かってすごくすっきりした。
それならサキュバス・インキュバス族に負担をかけず仕事をしてもらう事が出来る……だが、日中何もしないというのは周りの目もあるしマーメイド族の手伝いも話してみるか。
「一応サキュバス・インキュバス族の仕事として村でも声が挙がってるものがあるんだ。
ここでは通常は商店街、季節の変わり目にデパートという大型商業施設を運営してるんだが……そこではマーメイド族が村で作られたものを売ってくれている。
サキュバス・インキュバス族もその手伝いをしてはどうか、というものなんだが……やってみるか?」
「やってみます、やらせてください!」
「是非やってみたいわ、知らない文化に触れることは楽しいので!」
全員から是非、という声が挙がったので決定。
「よし、それじゃあ教育施設に行くとしよう。
そこで商業関係の講義を受けて基礎知識を付けてもらう、それから商店街で仕事だ。
もし興味があるなら他の講義も受けていいからな。」
善は急げだ、俺は手招きをしてニルス達を教育施設へ連れて行く。
「あれ、仕事は……あれ?」という声が聞こえたが、いきなり仕事なんて出来るわけがないし。
教育施設で講義を受けている間もご飯は出せるから安心してくれ。
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