第255話 サキュバス・インキュバス族が村の近くで倒れていたので助けた。

氷の季節だが今日は晴れ、子ども達の遊びを考えたがあまり思いつかなかったので気晴らしに自転車で見回りをしている。


外で遊ぶような子どもじゃなかったからな、電子ゲームやボードゲームのようなもので遊んでいたのであまりいい案が出せない。


前の世界のボードゲームを模したものを作ってもいいが……ルールの説明が難しいし子どもが理解するには複雑すぎる。


それに小さいトークンやコマを多用するし誤飲してしまえば大問題だ、周りに聞いてみても伝統的な遊びかボール遊びのようなものがほとんどだったし。


なので気晴らしをしているんだが……門の警備も哨戒のドラゴン族も何やら騒がしくなっている。


何かあったのだろうか。


「あの、旅をしてきたと思われるサキュバス・インキュバス族が近くで倒れているのですが。」


俺に気付いたドラゴン族は、近くへ降りて人間の姿になり現状を報告してくれた。


「すぐに救助、及び村で保護してあげてくれ。」


「いえ、そうしたいのは山々なのですが……十日熱とは違う流行り病に罹っているようでして。

 近づくに近づけないのです、見る限り生きているみたいなので一安心ではあるんですけど。」


なるほど、それでどうするべきか決めあぐねていたわけか。


いつもなら即断即決で救助をしているから、どんな心変わりだと少し不安になったぞ。


「それなら流澪を呼んできてくれ、研究施設にいるはずだ。

 俺はポーションを取ってくるから。」


「分かりました!」


ドラゴン族は人間の姿のまま猛ダッシュで研究施設へ向かう、自転車の数倍の速度が出ているけど誰かにぶつからないようにな。


さて、俺はポーションを取りに行くとするか。




俺がポーションを取りに行っていると、既にドラゴン族が流澪を呼んできていた。


「拓志、一応病気は切り取ったわ。

 けど衰弱しているからポーションで回復してあげて。」


「分かった、対応ありがとう。」


俺はポーションを持ってサキュバス・インキュバス族に近寄る。


「大丈夫か、病気は治っている。

 これを飲めば体力も回復するから飲むんだ。」


「あ、ありがとうございます……。」


弱弱しい力でポーションを受け取りゆっくりとポーションを飲む、全員で5人か……ポーションを持ってき過ぎたな。


「……元気になりました!

 よかった、ありがとうございます!

 戦闘は得意ではないですし、黒死病に罹ってしまった時は死を覚悟しましたが……這いつくばってここまで来てよかった……。」


「黒死病?」


「前の世界ではペストって呼んだほうが有名じゃない?」


俺は流澪から知っている病名を聞いて目を見開いてしまった、本当に対処がもう少しでも遅れていたら命を落としていたところだったぞ。


警備と哨戒の範囲内まで来てくれてよかった、旅立ったまま何も得ず命を落とすのはあまりに可哀想過ぎるからな。


「とりあえず長旅で疲れただろう。

 食堂で好きなだけ飯を食ってくれ、それが終わればどういう住居に住みたいか教えてくれれば対応する。

 一応頼みたい仕事もあるが、落ち着いてからにしよう。」


「いいんですか?

キュウビという妖狐族から聞いた話では、仕事をしないと食べさせてもらえないと言われたので。」


「俺もキュウビから移住の意思があると聞いてる、だから落ち着いたら仕事の話をすると言ったろ?

 きっちり健康体になってから話をしないと、きちんとした判断が出来ないかもしれないじゃないか。」


サキュバス・インキュバス族に理由を説明して納得してもらえたので、食堂へ連れて行くことに。


俺も腹が減っていたしちょうどいいな。


サキュバス・インキュバス族は気づいて助けてくれた住民に涙を流しながらお礼を言っていた、せっかくの美男美女が台無しになっているぞ。


今はやつれているが、それでも前の世界でアイドルやモデルとして充分通用するくらいには顔が整っている。


スタイルもいい、別にいやらしい目で見ているわけではないけど。




ひとしきり食事を終えてサキュバス・インキュバス族の表情も明るくなってきた。


「こんな美味しい料理がこんなにたくさん食べれるなんて……細々と夢を食べてしのぐ生活とは全然違います!」


「ホント……人知れず夢を食べるのも限界があったのよね。

 近くにパーン族は住んでるけど、あの人たち怖いし。」


パーン族って怖いのか、だが移住はしなくても交流の意思があるみたいだし近々集落に行って見てもいいだろう。


「そういえば夢だけでも生きれるのか?」


俺は今の会話で疑問に思ったことを聞いてみる。


「生きることは出来ますが、どちらかと言うとその場凌ぎといった感じでしょうか。

 やはり食事をするのが一番です。

 先ほど言っていたパーン族は神の眷属と呼ばれていまして私たちが好む悪夢をあまり見なかったんですよ。

 なのでパーン族の普通の夢と、仲間たちの夢を食べ合って何とか生き延びてた感じですね。」


なるほど、食事が取れない時に生きるための特技と言った感じか。


しかし夢を食べてくれるという事は深い眠りを継続出来るってことだし、悪夢は見るのも嫌だから食べてくれると助かる。


それで生きる力になるなら尚更だ、マーメイド族と店番をしてもらおうと思ったが夢を食べてもらうのもいいかもしれない。


だがとりあえずは住居を揃えてやらないとな、久々の移住民だし少し張り切って作らせてもらおう。


俺はサキュバス・インキュバス族を居住区へ案内し、空いている土地でどんな建物がいいか聞かせてもらった。


聞いた感じだと普通の家だ、だが大きいベッドが欲しいと所望される。


それくらいはいいけど、どう見ても人間くらいの体格なのにキングサイズくらいのベッドが欲しいと言われて少し困惑はした。


睡眠というプライベートな面なので詳しくは聞けないけど、出来れば住民と一夜を共にしたトラブルなんかは起こさないでほしい。


そういうのがあれば罰しないといけないし、色々面倒だから。


だが叶えれない願いではないので想像錬金術イマジンアルケミーでサクっと錬成、これでこの村に住めるだろう。


仕事の話は明日でいいかな、想像剣術イマジンソードプレイ・ポーション・村の食事と体の疲れは取れているだろうが念のため今日一日は休んでもらうとしよう。


それを伝えようと振り返ると、サキュバス・インキュバス族の姿が無かった。


「あれ、どこ行ったんだ?」


想像錬金術イマジンアルケミーを見て倒れられたのを、ケンタウロス族が連れて行ってましたよ。」


資材を運んでくれたミノタウロス族が俺の疑問に答えてくれた。


音も無かったんだけど、手際よすぎるだろ。

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