第254話 この前作った自転車が村で大流行した。

氷の季節も半ばになったろうか、寒さが本格化して防寒着が手放せなくなってきた。


幸い雪はちらつく程度で積もるまではいかない、山を見ると山頂あたりは結構積もっていそうだけど。


子ども達は雪を見て喜んでいるが、出来れば降らないでほしい……見回りが辛くなるし。


だがやらなければならない事なので、この前作った自転車に乗って村の見回りを開始。


「村長、おはようございます。」


ウェアウルフ族がすれ違って挨拶をする、向こうも自転車に乗って。


現在村では自転車の大ブーム中、俺が乗ってたのを見た人全員が食いついてきたから欲しい人に作ってあげた。


ドワーフ族も1台欲しいというので渡したが……あれは絶対自分達で作ろうとしているな。


ダークエルフ族も混ざっていたし、クリーンエネルギー機構の人手が不安になる。


だがカタリナと流澪は何も言ってなかったので大丈夫だろう、自転車が流通すれば便利になりそうだからな。


ちなみに流澪は空気入れの原理を知っていた、流石だ。


簡単に図面を描いてもらっていくつか錬成、居住区に配置して空気が抜けたら皆で使いまわすように伝えてある。


そして自転車は商店街の行商からも注目された。


是非流通させたいと相談を受けたが、盗難が多くなるはずなのでそこを解決したらもう一度話をしてくれと伝えてある。


軽くて便利でそこそこ値段がするものだし、盗難は絶対切り離せない問題だからな。


前の世界でも問題視されていたし、放置もそうだけど。


だが流通してくれたらケンタウロス族が領内を走らせている便を減らせるかもしれない、その人手を他に回せると思ったら悪くない話ではある。


村の儲けにもなるし、使い道が思いつかないけど。


しかしこれで村の見回りが格段に楽になったのは確かだ、道が凍ってない限り乗れるから相当な時短になる。


その時間を鍛錬と仕事に当てれるので俺としては大満足だ。


だが満足してない人ももちろんいる。


「ぼくもー!」


カールだ。


皆が乗ってるのを見て欲しがったんだろう、木で自転車を作っても乗れないぞ。


形だけのフィギュアみたいなものがカールの周りにいくつもある、よっぽど欲しいんだろうな。


「まさかカールがここまでワガママを言うなんて……。

 開様、どうしましょう。」


メアリーもカールの現状に困っている。


父親が見回り、母親がダンジョンまで自転車に乗っていってるのを見ているカールは余計羨ましいのだろう。


三輪車を与えたいけど、今はダメ。


「考えはある、だが氷の季節が終わらないとな。

 もう捕まり歩きは出来るんだし、目を離した隙に地面が凍ってて滑ったり転んだりしたら大変だ。」


「そうですよね、この状態じゃ奥様方にも預けづらいですし……あ!」


悩んでいるメアリーが何か閃いたようだ。


「ちょっと出かけてきますね!」


どこに行くんだ、と聞こうとしたが既にメアリーはダッシュで外へ飛び出していった。


ぐずっているカールを置いて。


寝付いてくれればいいんだが、成長したからか最近お昼寝もあまりしなくなったんだよな。


頼む、機嫌を直してくれー……。




「開様、子ども達を見る施設の拡張をしましょう!

 奥様方からも賛成の声を貰えました!」


カールをあやしながらメアリーの帰りを待っていると、メアリーが勢いよく家に入ってきて叫ぶ。


「今でも充分じゃないか?

 中には玩具もあるし、村に居る子ども全員が入っても狭すぎることはないと思うけど。」


「それは中で遊ぶ事だけに特化しているからです。

 玉遊びなんかも中でやれば、天気が悪い日や氷の季節でもある程度安全に遊べますし――それに、開様の事ですから子ども用の自転車も知っているのでしょう?

 それを室内で走らせることが出来れば、子ども達の選択肢も増えますし奥様方もその建物内だけを見ればよくなりますから負担も減るはずです。」


なるほど、体育館のようなものか。


大人になってからそんな施設を利用することは無くなってたし、思いつかなかった……何も知らないメアリーが良く思いついたな。


「そういうことなら拡張しよう。

あの施設周りは充分土地も空いているから外で遊ぶスペースも確保出来るだろうし。」


俺はメアリーの案に乗っかることに、早速ケンタウロス族とミノタウロス族に頼んで資材を運んでもらわなきゃな。


「ではお願いします、私はこの後ちょっと研究施設に呼ばれているので。」


「任せてくれて大丈夫だぞ。

 しかし研究施設なんて珍しいな、何かあったのか?」


「何でも頭の回転が早い研究に携わってない第三者の意見が欲しいらしく、私が抜擢されたんです。

 役立つ意見を出す自信は無いですが、選ばれたからには頑張ってみようかと!」


メアリーは技術も魔術も乏しいが、それを補える弓術と頭の良さがあるからな……何も分からなくても図面を見て説明をしてもらえば何か解決策を出せそうな気もする。


それくらいメアリーは頭がいい、あのキュウビを持ってして予知能力があると勘違いさせるほどに。


エネルギーを生み出せるようになればやりたいことはある、早く完成してほしいものだ。


そういえば、それを実現するにあたって鉱物の種類が足りないな。


もしかしたら今あるもので代用が利くかもしれないが、念のためシュテフィに許可を取ってダンジョンコアに生成してもらうようお願いしておかないと。


いや、魔族領と人間領で採掘出来てないか確認を取るのが先かな?


閑話休題。


俺はケンタウロス族とミノタウロス族に資材を運んでもらって子ども達を見る施設を拡張、ついでに三輪車も20台ほど用意した。


これだけあれば足りるだろう。


「村長、ありがとうございます!

 カール様だけでなく他の子どもからも自転車に乗りたいとせがまれていまして……困っていたところだったんですよ。」


「そういう時は早めに相談してくれ、今回はメアリーがいい案を思いついてくれたけど意見があれば俺も考えれるからさ。

 見回りで気づけなかった俺も悪いけど。」


一緒に連れて来たカールも三輪車にまたがって楽しんでいる、どう乗るか教えてないのにキコキコと三輪車を乗りこなしているのにびっくりだ。


それだけ俺達が乗ってるのを見ていたんだろう、我慢させて悪かった。


こうしてみると、遊具をもう少し増やしてもいいかもしれないな……ボールと三輪車だけじゃちょっと遊びの幅が少ない気がする。


陽の季節になればプールがあるが、氷の季節だとどうしてもな。


ウーテに頼んで温水プールにしてもいいが、濡れた体で走り回って風邪をひいたら大変だし。


流澪に聞いてもいいが、あんまり遊びには詳しくなさそうなイメージだし……今度の見回りで子ども達の遊びが他にないか皆に聞いてみよう。


拡張した施設はとりあえず成功、俺はカールを奥様方に預けて家に帰り書斎の机に向かって仕事を始める。


一応俺も遊びについて考えておかないとな。

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