第253話 準備が出来たので、ドリアード本来の願いを叶えるため森へ向かった。

カールが想像錬金術イマジンアルケミーを発動させることが分かってから1週間。


イェンナから借りているネックレスを付けてから、特に問題も無く日々を過ごしている。


カールはあれからちょっと寝つきが悪くなったが、大した問題ではないだろう。


今日はドリアードの本来の願いだった村の周りの森の土へ肥料を混ぜ込む日だ、これをすれば森からドリアードへ力が送られるはずだし安心してくれるんじゃないだろうか。


「村長、こちらが肥料用に集めた狩りの成果になります。」


ウェアウルフ族から出されたのは荷車10台分の家畜、それも加工済み。


「これ、普通に食べれる状態だし間違ってないか?」


「最上位の精霊であるドリアード様の願いですし、いくら村長の想像錬金術イマジンアルケミーで肥料になると言っても失礼があってはいけないとのことでこうなりました。

 村の食糧用は確保してあるのでご安心ください。」


こうなっていると逆に食べ物を粗末にしているようで心苦しい、だがそういう意見が多かったからこそこうなっているんだろう。


俺の価値観を押し付けるわけにもいかないし、これを肥料として使わせてもらうか。


ドリアードに確認を取ってもらおうと思ったけど、常温放置したオークの死体で作った肥料で森が満足しているし大丈夫だろう。


俺はケンタウロス族とウェアウルフ族、それにタイガと肥料を蒔きに森へ出発した。


タイガに以前の場所へ案内してもらえば同じように出来るはず、村の近くでも出来るんだろうけど一応な。




「グォッ。」


しばらく森を歩くとタイガが地面に座って鳴く、ちょうどこのあたりがオークの死体が沢山あったところだろう。


2年ぶりくらいに来たので大分景色が変わってしまっているが、歩いた距離的にはこのくらいのはずだ。


「どうやらここが前に肥料を蒔いた場所みたいだ。

 それじゃ早く終わらせて帰ろう、もしかしたら何かあるかもしれないし。


「分かりました。

 ですが何が来ても私達の敵じゃありませんよ。」


ウェアウルフ族が笑いながら答える、出会った当初からは考えれないような心の余裕だな。


ドラゴン族に鍛えられ強くなってるし、飢えも無いから心の余裕があるんだろう――いい事だ。


じゃあ俺は俺の仕事をするか。


想像錬金術イマジンアルケミーで荷車に積んだ食糧を肥料へ、そしてそれを土に……よし、オークの死体を処理したのと同じような光り方だ。


そのまま想像錬金術イマジンアルケミーを発動、食糧はきれいさっぱり消えて肥料として土に混ぜ込まれる。


その直後。


『うまい……うまい……。』


頭の中に誰かの声が響いてきた、これって植物の声か?


ダンジョンコアと話す要領で植物と話そうと試みたが、どうやら出来ないらしい。


恐らくドリアードと契約したことで、植物が強く思った事が聞こえてくるようになったのだろう。


話せなくても困らないけどな、それに森全部の植物の声が聞こえるようになってしまったら怖すぎるし。


「よし、これで終わりだ。

 帰って仕事に戻るとしよう。」


帰りは久々にタイガの背にまたがって帰ることにした。


タイガも嬉しかったのか物凄いスピードで村まで駆けていく、振り落とされるからもう少し手加減してくれ……!




「村長、大丈夫でしたか!?」


「何とかな、タイガもギリギリ振り落とされないくらいで走ってくれたろうし。」


「グォォッ!」


タイガが座って俺に顔をすり寄せてくるので頭を撫でる、そのままゴロゴロと喉を鳴らしながらお腹を見せて寝転がってしまった。


「タイガ様も村の皆に懐いてくれていますが、やはり村長が一番ですね。

 ここまで無防備な姿のタイガ様は見たことありません。」


「そうなのか、それはちょっと嬉しいな。」


どうやらこれは俺にだけしてくれるらしい、最初に知り合った特権だと思っておこう。


だがラウラにはこれくらいしてそうだけど……どうなのかな?


っと、俺は仕事があるんだった。


「タイガ、済まないがお腹ナデナデはこれで終わりだ。

 皆もいつの間にか仕事に戻っちゃってるし。」


「グォゥ……。」


俺がそう言うとタイガが物凄い残念そうな表情をして寂しそうに鳴いた……カールといい最近皆寂しがっているのか?


仕方ない。


「今日だけの特別だ、一日タイガと一緒に過ごそう。

 俺も仕事をしながらだけど、それでいいか?」


「グオゥンッ!」


それを聞いたタイガは表情が一変、物凄い嬉しそうになった。


最近タイガには構えてないし、今日くらいいいだろう。


タイガは乗ってというジェスチャーをして俺がまたがるのを待つ、ゆっくり目で頼むぞ?


タイガに乗ると、さっきよりは遅い速度で走り出す……これでも充分速いんだけど。




速すぎるとタイガに伝えると小走りくらいの速さになった、これくらいがちょうどいいな。


このまま見回りを済ませてしまおうと思い「村の中をぐるっと一周してくれ。」とタイガに伝える。


「グォッ。」と鳴いて施設区へ移動し始めたので大丈夫だろう……これ相当楽ちんだな。


今度からこれでもいいなと思ったが、運動量が減って太ってしまうと思ったのでやめることに。


それにタイガも村の外を徘徊している魔物退治という仕事があるし、今日は本当に特別だ。


しかしタイガがここまで1日俺にべったりしてる日も珍しいな、もしかしてデモンタイガー同士休みを回しているのかな。


この間はレオが広場で村の子ども達と遊んでたし。


そう考えると、かなりの社会性と知性があるんだな。




村の見回りも無事終了、タイガが乗せてくれたのでいつもの半分くらいの時間で終わった。


これは……村の中だけでも乗り回せる乗り物があったほうがいいな。


それでいて運動にもなるものと言えば自転車だろう、アルミも作れるしゴムもあるから作れそうだな。


作ってみるか、時間も余ってるし。


その足でタイガと倉庫に、アルミにゴム……そうだ、サドルの中に入れる緩衝材のようなものとそれのカバーもいるから原油もいるのか。


それにチェーンとギアに使う鉄も。


鉄はここにあるが原油を取りに行くのが面倒くさいな……クルトが村に初めて来た時に狩ったワイバーンの皮があるしこれでいいや。


誰も使ってなくて埃をかぶってるし。


そして材料を揃えた俺は自転車を思い浮かべる、材料が光ってくれたのでそのまま想像錬金術イマジンアルケミー発動。


よし、完成だ。


試しに乗り回してみると非常に快適、ギア変速はついてないが村の中程度ならこれで充分だろう。


ほとんど坂も段差もないし、後は空気入れがあれば完璧だな。


流澪が仕組みを知っているかな……もし知らなければ都度タイヤを想像錬金術イマジンアルケミーで再錬成すればいい。


自転車の試し乗りをしていると背後から視線を感じたので振り返る、そこには今日一番悲しそうな表情をしたタイガが俺を見ていた。


大丈夫だぞ、タイガが居ない時しか乗らないからなー……。


俺はタイガの機嫌を直すため自転車を倉庫の奥に放り込み、タイガに抱き着いてなでなでもふもふを1時間ほどした。


俺を探しに来た流澪に不審者を見る目をされたけど、夫にそんな目を向けないでくれ……悲しくなるから。

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