第246話 仕事をしながらドリアードと未来の心配について相談した。
朝。
昨日は宴会とオスカーの発表、ドリアードの顕現と俺との契約……異常に内容が濃かった。
オスカーの話はおめでたいしドリアードと契約したと言っても、<還る場所>を契約の対価にしているので実際はこの村が契約内容のようなものだ。
いきなりこの村が滅ばない限り契約は続くだろう、しかしドリアードと一蓮托生の身になったのは危ないかもしれない。
話を聞く限りドリアードは神様以上にこの世界を管理していてくれたからな、俺が寿命を迎えてしまうとドリアードも消えてしまう。
その後は今以上に大きな災害が多発する世界になるだろう、本来自然に一任した世界ならそれが正常なのだろうが。
でも今まで防いでいたし、皆もそれに慣れきっているだろう……唐突に大災害が起きたら対応出来ないかもしれない。
得に地震。
この村と魔族領の神の神殿は耐震対策をしているから大丈夫かもしれないが、他の所はすぐに建物が崩落する可能性がある。
ほとんど木製の家は見かけないし、耐震対策もされているとは考えにくい。
ギュンターでさえ地震という言葉すら知らなかったからな。
海も近いし地震は多少ありそうなものなんだけど……ドリアードが何とかしているのかもしれない。
そのあたりも今度話し合わないとな、とりあえずアンケートの集計が終わった時にまとめて話すとするか。
そう思って俺は書斎の机に向かって仕事を始める、ドリアードは俺の所に来てないのでまだ寝ているか世界を見ているのだろう。
仮にも最上位の精霊だし、ぐうたらはしてないはずだ。
しばらく集計をして、もうすぐ終わりそうな目途が立ってきた時に書斎のドアが勢いよく開く。
俺はびっくりしてドアを見ると、ウーテが肩で息をしながら書斎の前に立っていた。
「どうしたそんなに慌てて、何かあったのか!?」
「何かあったって……ドリアード様と契約したから今後どうするか話し合うために皆集まってるのに、村長が来なくって探し回ってたのよ。
まさか普通に仕事してるなんて思わないでしょ……。」
え、そうだったのか。
未来の心配事はあるが現在の心配事はないので後回しでいいと思ってたよ、まさか村全体がそんなに慌てているとは思ってなかった。
「すまん、アンケートの集計が終わったらまとめて話し合いをしようと思っていたんだ。
もうすぐ終わるから待ってもらっていいか?」
「吞気ねぇ……肝が据わっているというか事の重大さを分かってないというか。
分かったわ、私達である程度意見を出し合っておくから、終わったら合流してちょうだい。
場所は広場だからね。」
「分かったよ。」
話が終わるとウーテは出て行ったので俺は仕事に戻る、後1時間もしないうちに終わるだろうから頑張ろう。
皆を待たせ過ぎるのも心配させるのも良くないし、心配は既にしているんだろうけど。
そう思って机に向き直ると、俺の横にドリアードがいきなり顕現してきた。
いきなりの事でびっくりして飛びのいてしまう。
「ふわぁぁ……よく寝たぁ。
おはよう人間…いや、もう村長って呼んだほうがいいかな?」
「あ、あぁ……おはよう。
今まで寝てたのか、もう朝になってだいぶ経つぞ?」
「昨日は寝るのが遅くって。
いつもは陽が落ちたら寝てるから……何かあれば世界の自然が教えてくれるし。」
陽が落ちたら眠くなるって赤ちゃんか何かだろうか……本当に最上位の精霊なんだよな?
そうだ、ついでにアンケートの集計をしながらドリアードに今後どうするか意見を聞いておこう。
話し合いもあるみたいだし、情報は多く持っていた方がいいはずだからな。
「なぁ、俺が人間なのは分かってると思う。
ドリアードと一蓮托生の身になった以上、俺が寿命なり何か不幸が起きて死ぬことも珍しくないはずだ。
その時ドリアードが消えるんだろうが、対応策は無いか?」
これが一番の懸念事項だ、これさえクリア出来ればドリアードと契約をしていたとしても問題はない。
それどころか最上位の精霊と契約しているということがプラスに働くことの方が多いだろう、村に2種類の精霊が居るという事実だけで安心感が違う感じがするし。
「私が充分な力を蓄えれたらそれは解決出来るかな、別個体の実体を顕現させれば同じように働いてくれるし。
記憶の共有もその時点で出来てるから、それさえ出来れば村長の心配は解決するはずよ。」
なるほど、ドリアードの悩みを聞くことが一番の近道のようだ。
だがそれだけでは足りないだろう、簡単に言ってるが最上位の精霊だ……その別個体の実体を顕現するなんてとんでもない量の力が必要だろう。
「ドリアードの力を蓄えるにはどうすればいい?
最初この村に来た時に言っていた悩みは解決するとして、他に出来ることがあれば教えてくれ。」
「そうねぇ……とにかく自然を大切にしてくれることに限るかな?
自然の力が弱まると私が世界に存在する事すら危うくなるし。
今は存在に力を割いても蓄積に回せてるから、後数十年もすれば別個体の実体を顕現出来ると思うわよ。」
数十年か……俺の寿命とドリアードの時間感覚を鑑みると、俺が死ぬまでには怪しいかもしれない。
「他に何か無いか?
もっと森や自然に栄養を供給すればそれが早まるとか……。」
「それはもちろん早まるわよ、村長が肥料を森の土に練り込んだ時の力はものすごい質だったし。
あれで数年分の力はあったからね、そういうのがもっとあれば力の蓄積も多くなるわ。」
「分かった、ありがとう。」
よし、解決の糸口が見つかったぞ……これで俺が居なくなった後でも別個体のドリアードさえ顕現出来れば世界は守られる。
これは一番と言っても過言ではない重要な情報だ、これだけで村の心配事が無くなったと言っていいだろう。
「それよりさ、私も食事をしたいんだけど……何かないかしら?」
「精霊って食事するのか?」
「する、というよりしたいと言った方が正しいかな?
力になるわけじゃないし存在するのに必要じゃないし……でも幸せな気持ちになれるの。
私だって世界の為に頑張ってるし、それくらいしてもいいと思うのよ!」
幸せな気持ちになれるならそれは大事な行為だ、生物は生きるために食事を必要とするが同時に幸せを感じるために食事をするのもある。
それくらい食事というのは生きるために必要だ、生き延びるだけなら水と塩だけでそこそこの期間生きれるがそんな極限状態は嫌すぎるからな。
「村に食堂がある、俺はちょっと仕事で手が離せないから場所は他の村の住民に聞いてくれ。
そこに行けば好きなだけ食事も酒も出してくれる、けど集中しすぎて世界の事を蔑ろにするんじゃないぞ?」
「分かってるわよ、正しいことだけど結構生意気な事を言うのね。
まぁ私に物怖じせずそう言う事を言えるのも、今の村を形成するのに重要だったのかしら。
それじゃ私は食堂に行ってくるわ、何かあったら呼んでちょうだい。」
ドリアードはそう言うとスッと消える、瞬間移動のようなものが出来るのだろうか……だがそれくらいしないと世界を守ることは出来ないのかもしれない。
さて、俺も仕事が終わったし広場へ向かうとするか。
ドリアードの件が話し合いのメインだろうし、早く皆を安心させてあげないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます