第242話 オスカーの件について、シモーネとキュウビから詳しい話を聞かせてもらった。

「まったく……シモーネもシモーネだ、オスカーの言う通りいきなり呼び出して。

 さっきオスカーから話があったように、オスカーと夫婦の契りを交わしたキュウビだ。

 未だ贖罪の旅の途中なので影法師越しの挨拶で申し訳ないが……もうしばらくすれば村へ帰れると思う。

 その時はよろしくしてくれると有難いよ。」


キュウビが真面目だが少し軽い感じで挨拶をする、本当に夫婦になったのか……。


「はっはっは、そういうわけだ。

 やっと言えたのですっきりしたぞ、それなりの場で発表出来るまで待てと言われて我慢するのが苦痛だったのだ。」


オスカーが言葉通り物凄いスッキリした表情で指揮台の上に立っている、やり切った感がすごい。


「そういうわけで、私は少しの間哨戒から離れることになるわ。

 村長のポーションとグレーテさんの状態異常回復魔術で体調は万全だけど、もしもの事を考えてね。

 クルトは一人っ子だったから久々の出産だし、助産師や奥様方にも助けを乞うこともあると思うわ……その時はよろしく頼みます。」


シモーネは丁寧に頭を下げて皆にお願いすると、皆が「もちろんです!」とそれに応える。


一部は「ドラゴン族があそこまでするとは……。」と新たな驚きが出ているみたいだが、それだけ村の住民を信頼してくれているという事だろう。


それは素直に嬉しい、しかし孫が出来た後に第二子が出来るなんてな……長寿だとこういう事もあるのだろうか。




オスカーとシモーネが俺達の居る席に返ってくると、案の定オスカーは質問攻めに合っていた。


直接話したかったが、シモーネからでも詳しい話は聞けるだろうか?


「なぁシモーネ、オスカーってキュウビといつからあんな仲になったんだ?」


「この間ダンジョンを見つけたでしょう、あの時にキュウビが少し怪我をしていたらしくて持っていた村長のポーションを飲ませてからだと聞いてるわ。

 もちろん相談されたけど、私としてはあの人と肩を並べれる女性が夫婦になるのは大歓迎だし、そのままなるようになった感じね。」


たかだかポーション程度で夫婦になることを決める程か……?


あのポーションには媚薬効果なんてもちろん無いし、そもそもキュウビはそのようなことに興味がなさそうだった。


以前話した時にそんな雰囲気を出していたからな、美人ではあるからもったいないと思っていたが。


「我もオスカーとキュウビの馴れ初めが気になるのじゃ、ちょっと人気のない所で話を聞かせてほしいのじゃが。」


いきなり脇からひょこっと狐耳が現れてびっくりする……クズノハか。


「それはいいけど……さっき村長に話した通りよ?

 さらに詳しい事を聞くなら本人に聞くのをオススメするわ。」


「あんな人だかりからオスカー殿を引っ張ってくるのは不可能じゃよ……。

 キュウビの挨拶をするだけして影法師を消してしまったみたいじゃし。」


「呼んだか?」


「ひょわぁっ!?」


クズノハの言葉の後すぐにキュウビの影法師が近くに姿を現す、俺もびっくりしたぞ。


「ちょうどよかった、キュウビと村長――あっちの誰も居ないところまで来てほしいのじゃよ。

 シモーネ殿、邪魔をして済まなかったの。」


「気にしないでいいわよ、私は料理を楽しむことにするからゆっくり話してきてちょうだい。」


そう言ってシモーネは大皿に山盛り乗った料理に手を付け始める、妊婦が食べる量の食事じゃないと思うんだけど……ドラゴン族だからいいのか?


シモーネを見ているとクズノハに引っ張られて人気のない所へ連れて行かれだした、そんな引っ張らなくてもついていくから。




「しかしあの場で話したらいいのに、どうして人気の無いところなんだ?」


誰も居ない場所に到着したのでクズノハを問いただす、おめでたいことだし隠すようなことをしなくてもいいだろうに。


「それはの、キュウビが一族の実験で女としての機能全てを失っておるからじゃ。

 なのにオスカー殿と夫婦の契りを結んだのはどうしてかと思ったんじゃよ。」


なるほど、それを聞いてキュウビが恋愛や結婚に興味がなさそうな理由が分かった。


後発的なものだが、そういうことなら仕方ないだろう……と思ったが、一つ疑問が生まれる。


「あれ、キュウビがオスカーに言い寄ったんじゃないのか?

 シモーネからはそう聞いたぞ。」


「あぁ、それは間違いない。

 それとクズノハに伝え忘れていたが、私は既に女としての機能が全て回復しているぞ。」


「なんじゃとぉ!?」


「なるほど、ポーションか。」


俺がそう言うとクズノハが物凄い勢いで俺の方に顔を向ける、嫁入り前の女の子がしていい表情じゃないぞ。


「そういうことだ、長く中性的な感覚で生きてきたから諦めというか女だという事を忘れていたんだが……。

 少々ドジを踏んで怪我をしたときにもらったポーションでその怪我どころか、体の内部からあの実験でついた傷まで全て消えたからな、ほれ。」


キュウビはそう言って軽々しく服をめくって肌を見せてくる、ちらりとしか見てないが確かにあの時に見た傷はついてなかった。


人の奥さんの肌を簡単に見る程俺は尻軽じゃない……というかキュウビもそんなことはやめなさい。


「ほんとじゃ……すっごい綺麗になっておる。

 というか急に胸が膨らみ過ぎじゃないかの?」


クズノハはキュウビの肌をまじまじと見ているのか感想を口にする、胸に関しては少し妬みが含まれていたが。


俺は見てないからな。


「村長は何で目を逸らしている、これくらいプールとやらでもしているのだろう?」


キュウビの言葉を聞くに、まだ肌を出しっぱなしにしているのだろう……まったく。


「俺の感覚ではあれも過激だと思ってるから、肌を隠してくれ。」


「もう隠したよ。

 しかし村長には何から何まで助けられっぱなしだな……まさか私の体に刻まれた悲しい過去まで治してしまうとは。

 改めて礼を言うよ、ありがとう。」


肌を隠したらしいのでキュウビの方を向く、クズノハがまだ服の上から胸を揉みしだいているのは置いておこう。


「偶然だよ、そこまで感謝することはないさ。

 普段オスカーがポーションを持っていくなんて考えにくい、偶然が重なった結果だ。」


「ふふ、それなら私は相当運がいいな。」


影法師越しだがキュウビが笑う、もしかしたら笑った所を見たのは初めてかもしれない。


クズノハもびっくりしている、胸を揉みながらだけど。


「あぁそうだ村長、言い忘れていたが新しい種族を2種族ほど見つけたんだ。

 1種族は移住を拒否はしたが近々交流を図りたいと言っていたパーン族、それと移住を検討すると言っていたサキュバス・インキュバス族。

 どちらにも村の場所は伝えてある、敵意が無いのも確認しているのでもし訪れたら対応を頼むぞ。」


「分かった、ありがとう。」


サキュバス・インキュバス族はわかるが……パーン族ってどういった種族なんだろうな?


戻ったら聞いてみよう、オスカーもだいぶ解放されているし積もる話もたくさんある。


「それと、私が帰ったらこの宴会より豪勢に頼むぞ?」


ちゃっかりしたことを言い残してキュウビの影法師が消えた、贖罪の旅とは言えキュウビは充分村のために仕事をしたしオスカーと夫婦になったのもある。


その時は本人の希望通り盛大に祝わせてもらうとしよう。


俺は最近のめでたい事尽くめに少し頬が緩み、嬉しい気分になりながらクズノハと妻達がいるテーブルに戻る。


……クルト、まだ気絶してたのか。

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