第243話 オスカーの発表が終わり落ち着いたかと思ったら、更に驚くことが発生した。

キュウビとクズノハと話を終え、最初に座っていたテーブルに戻るとオスカーが話しかけてきた。


「村長、どこに行っておったのだ?」


「ちょっとクズノハと話をしてたんだ、オスカーは他の住民から大人気だったし。」


「そうだったか……クズノハ殿はキュウビを取ったことを怒っていなかったか?」


「大丈夫だよ、素直に祝福してたさ。」


本人から聞いているかどうか分からないが、キュウビの過去は黙っておくことにする。


ついでに驚きまくっていたクズノハの様子も。


「それよりシモーネの懐妊、キュウビとの夫婦の契りおめでとう。

 聞いた時は相当驚いたけどな。」


「まさかあのキュウビから求められるとは思ってなかったわ。

 だがあの強さはワシもシモーネも認めておるし、本人も自分より強い男と添い遂げたいというのでな。」


確かにあれだけの強さがあればそのあたりは気にするのかもしれない、どちらかと言えば頭がいい人のほうがいいとは思っていたが……それは後天的に得たものだろうし。


「オスカーおじ様もスミに置けないわね、そんな幸せが同時に飛び込んでくるなんて。」


「シモーネの懐妊はもう少し前から分かってたぞ、能力で分かっていてそれを知らせてくれていたからな。

 時期としてはカタリナ殿の懐妊が判明した少し前くらいか、なのでそこそこ月日は経っておる。

 だが色々バタついていたからな……いつ皆に知らせるか決めあぐねていたら、キュウビから求められたのでそれと同時に知らせようとなったのだ。」


それならカタリナの子どもと同年代になるな、是非仲良くしてもらおう。


「おめでたいことが続きますねぇ、いいことです。」


メアリーがそう呟いた瞬間「うわぁぁぁぁ!」と警備のものすごい叫び声が聞こえてきた。


皆それを聞いて一斉に声の方角へ向かう、酒が入ってるとはいえ泥酔しているわけではないし……多少の魔物程度じゃ酔っていても大丈夫だろう。


だがそれは警備にも言える事……その警備が尋常じゃない声で叫んだという事はそれなりに大きな出来事のはずだ。


「ウーテ、頼む!」


「えぇ!」


ウーテはすぐさまドラゴンの姿になり俺とメアリー、それに流澪を乗せる。


カタリナは戦闘面では助けになれないからと行くのを断った、代わりに要石をすぐに起動出来るよう指揮と準備をしてくれるらしい。


俺の妻は皆頼りになる、俺が一番何も出来ないくらいだが……想像錬金術イマジンアルケミーは最悪武力としても使えるし行かないよりはいいだろう。


ウーテが門を目指して上空へ飛ぶと、うっすら森が動いたように見えた。


もう暗いし気の所為だろうけど。




「どうした、何があった!?」


ローガーが警備のウェアウルフ族に問いかける、警備は森を指差して「森が……!」としか言わず体を震わせてそれ以上何も言えない。


「ローガー殿、とりあえず警備を休ませてあげましょう。

 それとここの警備は別の者、念のためいつもの3倍の人数を置いて当たれば問題無いかと。」


「そうだな、そうしよう。

 とりあえず休め、落ち着いたら話を聞かせてくれよ。」


ローガーは警備の人を担いで家へ送っていく、本当に何があったんだろうな。


森が……と言っていたが、さっき見た森が動いたのと何か関係があるのだろうか。


まぁないだろうな、森が動くなんていくらファンタジーな世界でもあり得ないし。


「ねえ村長、森が村に迫って来てるんだけど……。」


ウーテが森を指差して俺が考えてた事と同じ事を言っている、そんなわけないだろ――と思って森を見ると確かに迫ってきている。


「嘘だろ!?

 こんなことってあるのか、過去に事例は!?」


「知りません、植物に擬態した魔物はいますが森全体がそうだなんて考えにくいです!」


「ワシも知らんぞ、全て灰燼にしてくれようか!」


メアリーも分からないらしい、オスカーは物騒なことを言っているが村が森に飲み込まれるくらいなら選択肢に入らなくもない状況だ。


「待って、待ってー!」


聞きなれない声で住民を制止する声が聞こえる、それと同時に森が迫ってくるのが止まった。


……助かったのか?


「何がどうなっている、さっきの声はなんだ……?」


「森から聞こえた気がするけど……何だったのかしら。」


全員が同時に見た幻かと思ったが、森は明らかに村に近づいてきているし一部は壁を突き破る勢いで迫っている。


どう考えても現実だ。


「驚かせてごめんなさい……少し前に大量のオークの死体を森に還した人の魔力を感じて来たのだけど……。」


「「「「「森が喋った!?」」」」」


どう考えても森が喋っている、だって声のする所には誰も居ないし……門の外から声がするのは確かだからだ。


「あ、すみません……姿を見せますね。」


森がそう言うと、声の発生源がキラキラと輝きだして人物のようなシルエットが光の中に浮かび上がる。


一体何が起こっているんだ……というかオークの死体を森に還した人って俺の事だよな。


まだこの世界に転移されてすぐ、タイガが集団暴走したオークを見せてくれたが処理しきれず肥料にして森の土に混ぜ込んだことがある。


それに皆俺の事を見ている、思ったことは一緒らしい。


光が収まると、木の皮のような肌をした女性が姿を現してこう言った。


「私はドリアード、世界の自然を司る精霊です。」


これが精霊か、と少し感動していると住民全員が一斉に跪いた……それもオスカーまで。


「え、え?」


俺が困惑していると、メアリーに小声で「最上位の精霊です、ご無礼が無いように。」と俺を諭してくれたので俺も皆に真似て跪く。


この状況を見たドリアードは「あわわわわ……。」と何か慌ててる様子だ、最上位の精霊なのに威厳は無さそうなんだけど大丈夫か?


「み、皆さん顔をあげてください!

 私は助けを求めに来ただけなんですから!」


「自然を司る最上位の精霊ドリアード様が助けとは、どういった要件でしょう。」


オスカーの敬語を初めて聞いた、ものすごい違和感だ……いつもなら絶対あんな言葉づかいをしないのに。


「さっきも言いましたが、少し前に大量のオークの死体を森に還した人が居ますよね。

 それでものすごい栄養がこの森に行き渡ったんですが、木々が味を占めてしまいまして……もっと栄養をよこさないと私に力を分けないと抗議されてるのです。

 ここの森から得ている力は全体でもかなりの割合を占めているので、もし力の供給が止まると私がピンチなんですよぅ……。」


理由を話すとドリアードが膝から崩れ落ちて泣き出してしまった。


とりあえず村の中に連れて行きたいが、住民全員が困惑している状況だし……仕方ない。


俺はドリアードをお姫様抱っこして広場まで連れて行くことにした、ドリアードは相当びっくりしているがこれくらいいいだろう。


流澪も俺についてきて一緒にドリアードを見てくれるらしい、助かるよ。


他の皆もついてくるかと思ったら口をあんぐりと空けてこっちを見て固まっていたが……どうしたんだろうな。

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