第241話 宴会の場でオスカーからとんでもない発表があった。
「拓志、そろそろ宴会が始まるわよ。」
書斎でアンケートの集計をしていると流澪が俺を呼ぶ声がする、もうそんな時間か。
外を見てみると日の入りも早くなったのでほぼ真っ暗だ、宴会開始前ということはまだ夕方過ぎではあるんだろうが。
「分かった、キリのいい所になったら向かうよ。
流澪達は先に行っててくれ。」
「分かったわ、遅くならないようにね。」
そう言ってトタトタと書斎から遠ざかっていく流澪の足音が聞こえる、待たせるわけにもいかないし今やっている作業を終えたら広場に向かうとするか。
しかし集計してて思ったが、要望こそあるもののそこまで批判的な意見が無いのには驚きだ。
もっと〇〇がダメ、とか〇〇をしろといった意見を書かれると思ったんだけどな……そういう声も欲しくて意図的にそういった質問を設けたんだが。
あるにはある、これは改装の仕方次第ではどうにかなりそうなので話し合いの議題として出すとしよう。
後多かったのは抽選枠の増加だな、かなりの倍率だから気持ちは分かるが……今でもかなりの人数がデパートを利用するしこれ以上は実際に店舗を運営してる行商やマーメイド族の意見を聞かないと分からない。
どういう意見が多かったかを書き出しているが……やっぱりパソコンが欲しいな。
この世界に来ても文字を書くことなんてほとんど無かったし、前の世界でも電子文書がほとんどだったからな……俺が勤めていた会社はペーパーレスを推進していたし。
まあ贅沢は言えないし恐らくこの世界では実現不可能だろうな、無い物ねだりはやめて仕事を進めよう。
色々考えながら仕事を進めて次の紙に手を伸ばした時に宴会が近いという事を思い出した、俺は慌てて机を片付け、着替えをして広場へ走る。
結構時間が経った気がするな……待たせてなければいいけど。
広場に着くと皆既に飲み食いを始めていた、やっぱり待たせてしまっていたみたいだ。
しかし今回は俺の家族を祝うという名目の宴会だが、開こうと言ったのはオスカーなんだよな。
隠し事の発表があるだろうとメアリーは言っていた、聞き逃してなければいいけど……。
料理はバイキング形式、お酒は各自生活魔術で冷やされている樽からグラスに注いで飲んでくれという完全セルフなので気兼ねなく好きな物を食べたり飲んだり出来る。
だがドワーフ族の作る料理や酒にハズレは無いからな、見たことのないものでも安心して食べれるのが幸いだ。
俺は料理と酒を準備して妻達を探してウロウロしていると「開様ー!」とメアリーが呼ぶ声が聞こえた。
声の方向に目をやると、俺が前の宴会で皆に向けて喋る時に使っていた指揮台が設置されている近くのテーブルに妻達が居た。
他にはオスカー・シモーネ・ラウラ・クルトと2家族一緒に食卓を囲む形になっている。
結構な大人数だ、まぁ宴会の場では大勢で飲み食いしたほうが楽しいけどな。
「村長おそーい。」
「すまない、仕事に夢中になりすぎたよ。」
ウーテから怒られてしまった、期日が決まっている仕事があるとさっさと片付けたくなる性分なんだよな……気を付けないと。
「さて、村長も来たし恐らく全員揃っているだろう。
ワシから提案した宴会だ、察しは付いてるかもしれぬが発表することがある故指揮台を借りるとするぞ。」
「大丈夫だよ、別に俺のじゃないから好きに使ってくれていい。」
「では遠慮なく使わせてもらうぞ。」
そう言ってオスカーは指揮台に向かって歩いていく、シモーネもオスカーの後をついて席を離れていった。
メアリーは「やっぱりそうなんですねー。」とにやけ顔でお酒と料理をつまんでいる……まさか。
「村の住民達よ!
今回は村長のお祝いで宴会を楽しんでくれているだろうが……祝い事は他にもある!
完全な私事ではあるが……シモーネが懐妊した!」
俺はそれを聞いてお酒を少し噴き出してしまう、何となく予想はしていたが本当だとは思わなかったし。
やっぱり夫婦だもんな、戦闘だけが好きなわけじゃないしやることはやっているだろう。
オスカーが声高らかに宣言すると宴会の参加者が一気に湧き上がった、そりゃあ世界最強の夫婦の第二子が懐妊したとなれば大ニュースだろう。
だが俺は不安になったことが一つ。
「俺もああいった事したほうがいいのか?」
「本当はしたほうがいいわよ、村の士気があがるもの。
でも村長がそういった事を前面に出して発表しなくても皆分かっているし、全員の立場が平等だと村長が率先して表していると捉えてるから無理にしなくてもいいかもね。」
全然そんなつもりは無かったんだけどな、だが前向きに捉えてくれているならそのままにしておくか。
大勢の前でああいった事をするのは苦手なんだ、村が出来始めた当初くらいの人数なら全然平気なんだけど。
それより今はシモーネの懐妊を祝わないとな、これは本当にめでたい事だし。
「息子の僕にも知らされてなかったんだけど!?」
「え、嘘。
私は昨日聞いたわよ?」
クルトは知らされてなかったという、驚かせたかったのだろうな……だがウーテに知らせてクルトに知らせないのは少し可哀想な気もするが。
というかウーテは聞いてたんだな、恐らくあの時だろう……シモーネは一芝居打って俺をびっくりさせたかったみたいだ。
その証拠にシモーネがこっちを見ながら物凄いドヤ顔をしている、充分驚いたから。
「それともう一つ、ワシの妻になる者が増える!」
「「「「「えぇぇぇぇぇっっ!?」」」」」
今度は参加者全員の驚愕の声が広場全体に響き渡った、メアリーですらびっくりしてるし……何ならウーテも相当驚いてる。
もちろん俺も相当驚いた、今度はお酒全部噴き出しちゃったし。
クルトに至っては顎が外れてないか心配なくらい口をあんぐりと開けている……それ、ほんとに大丈夫か?
「相手は誰なんですかー!?」
誰かがオスカーに問いかける、確かに相手が気になるところだよな……オスカーは最強故にモテるというより尊敬や畏怖の念を抱いてる人がほとんどだし。
それを超えて好きだという気持ちが無いとオスカーと夫婦の契りを交わすことはしないだろう、それが出来る人材が村に居たとは驚きだが。
「相手はここには居らぬ、だが呼ぶことは出来るぞ。
シモーネ、頼む。」
「はいはい。」
そう言ってシモーネが虚空を突っつく。
「うひゃわぅっ!?
呼ぶときは一声かけろと言っただろう!?」
「はっはっは、すまんな。
紹介するまでもないだろう、ワシの妻になるのはキュウビだ!」
「「「「「えぇぇぇぇぇっっ!?」」」」」
さっきより大きい驚愕の声が村中に響き渡る。
何時の間にそんな仲に発展していたんだ……詳しい話を聞かせてもらわなければな。
クルトは気絶してしまったから後で詳しい話を教えてあげるとしよう。
離れたところで「クズノハさん!?」という声も聞こえたので、恐らくクズノハも気絶している。
それより……オスカーとシモーネでも世界最強だったのに、キュウビがその家族に入るって。
世界最強が更に強くなんて誰も思わないだろ、誰も逆らえないぞあれ。
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