第231話 ペーターが取り掛かっていた解読が無事に終わった。
「終わりました……うおぉ感動だぁ……。」
陽が落ちる少し前、デパートが閉店する少し前にペーターの解読が終わったという声が聞こえる。
「お疲れ様、今日1日で終わって良かった……よ……。」
俺が声を掛けると、ペーターの顔にある穴という穴から液体が垂れ流しになっていた。
流石に汚いし成果が台無しになってしまうから早く拭いたほうがいいぞ。
気付いたシュテフィはタオルをペーターに投げる、そんな不親切な……いやしかし結構な量だし手に付くかもしれないことを考えると仕方ないのか?
「ぐずっ……すびばぜん……。」
ペーターは投げられたタオルで顔を拭く、そんなになるまで感動しなくてもいいと思うんだけどな。
「まったく、一つの言語が解読出来たくらいでそんなにならなくていいじゃない。」
シュテフィがペーターにツッコミを入れる、俺もそう思うが……って言語の解読?
「え、ペーターがやっていたのって本の翻訳じゃないのか?」
「分からない言語は翻訳できないでしょう、それをするためにペーターは言語の解読をしてたのよ。
あの本に書かれてる言語は使われてる文字の種類こそ少ないけど、色々な繋がり方で意味が全然変わってくるから……造語やよっぽど特殊な言葉が使われてない限りもう大丈夫でしょ。」
本の翻訳かと思ったら言語の解読を1日足らずでしたのなら流石に感動すると思う、それが自分の専門分野で前人未到なら尚更だ。
「これで魔族領に保管されているこの言語の蔵書が一気に翻訳出来ます!
魔族領と人間領の過去も記されているものがあるかもしれません……頑張るぞー!」
ペーターは落ち着いたと思ったら興奮気味に叫びだした、シュテフィとミハエルは耳を抑えている。
こういうのが嫌いじゃない俺はペーターの気持ちがよくわかる、頑張ってほしい。
「では早速魔族領に帰って翻訳に取り掛かります!
村長、シュテフィさん、ミハエル……様、お世話になりました!」
「はいはい、また分からなかったら聞きに来てちょうだい。」
「もう、だからミハエルでいいって……。」
慌しく帰る準備をしたペーターは振り返ることなくシュテフィの家を飛び出していった、そんなに慌てなくてもいいのに。
「これで村長も私もペーターの手伝いは終わったかしら、疲れたー。」
「俺は何もしてないけどな。
そういえばシュテフィはペーターが持ってきた歴史書を読んでただろ、あれ未翻訳のはずだが何が書いてあったんだ?」
「大したこと書いてなかったわよ?
当時の会議の議事録抜粋とか、何が流行ってたかとか……後は農業の発展についてかしら。
どれも今の水準のほうが高いだろうし、こんな事もあったんだなぁという程度でしょ。」
「待って、当時の議事録ってものすごい気になるわ。」
ミハエルが議事録に興味を持った、一応王族だしな……というかそんなもの誰でも閲覧出来る書物に書いてていいのだろうか。
本当に大した事を書いてないか、過去の魔族領で発表されたものだから書いてはいるのだろうが。
「また今度話してあげるわよ、それよりデパートが閉店して皆帰って来たわ。
ドワーフ族に紅茶を買ってきてってお願いしてたから受け取りに行ってくるわね。
2人も早く家に帰りなさいよ?」
そう言ってシュテフィは家を出ていった、家主が居ない家に居るのも悪いし出ることにするか。
ミハエルも同じ考えのようで俺と一緒にシュテフィの家を出る。
「そうだ村長、これ魔法金属。
ペーターが文献の挿絵を見たけど似た物は無かったから返すって、もしかしたら鉱石は仕入れてなかったのかもね。」
「ありがとう。
貴重な物だから交易で出さなかったかのかもしれない、現に今まで魔族領では王族だけで人間領では使われてないみたいだし。
ペーターの今後の研究に期待して待っているとしよう。」
俺はミハエルから魔法金属を受け取って家に向かった、妻達はそろそろ帰って来ているだろうか……知育玩具が買えてるといいけど。
家に帰ると妻達の荷物が沢山倉庫に運び込まれていた、それは前にも体験したので問題無い。
結構な量があったが倉庫にまだ余裕はあるからな、自分の持っているお金の範囲なら好きなだけ買えばいいと思う……前のデパートから使われてすらない物が大多数だけど。
ただそれを差し置いて物凄い驚いたことがある、それはダンジュウロウが俺の家で紅茶を飲んでいることだ。
「うむ、お邪魔しているぞ。」
俺に軽く挨拶をしてティーカップを優雅にすするダンジュウロウ、いやそんな落ち着かれても。
「え、何でここに居るんだ?」
「非正規とは言えデパート利用権を手に入れたのでな。
聞くところによれば、これは外さないと近いうちに腹痛やらの体調不良を起こすらしいじゃないか……それなら外すついでにデパートとやらを覗こうと思ってな。
あれはいい商業施設だった、真似をしたいがあの規模は人間領では難しいだろう……。」
そうか、ダンジュウロウはあの時の暴動を俺と同じ方法で諫めていたから装飾品を身に付けていたんだな。
だからと言ってそのままデパートを利用するとは思わなかったけどな、プラインエルフ族やラミア族は名簿とか人数とかチェックしていないのだろうか。
「まさか人間領の王がそんなズルみたいな方法でデパートに来るとは……言ってくれれば招待したのに。」
「あのような不特定多数の者が集まる場所へ招待されても家臣が許可してくれんよ。
呪いを解いてくる、とだけ伝えて変装してここまで来たのだから。」
「ホントですよ、変装がかなり高度すぎて最初誰か分からなかったんだから。」
「私はびっくりしましたよ……まさかダンジュウロウ様がここに居るなんて思いもしないじゃないですか。」
「気づいた時には笑っちゃったけどね、あまりに変装が決まりすぎてて。」
妻達が様々な反応を見せたらしい、それを聞いたダンジュウロウも笑っているので悪い気はしてないのだろう。
しかしそんなに変装がすごかったのか……一度見たかったな。
その後世間話を5人でしていると、家の玄関をノックした直後開く音がした。
結構慌てていそうだな、どうしたのだろうか。
「村長、申し訳ございません!
今日のデパートの利用者に不正入場を働いた人物がいま……す……?
あれ、ダンジュウロウ様?」
「うむ、お邪魔しているぞ。
その不正入場は私だ、抽選会の騒動を諫めた時に装飾品を身に付けてしまってな。
解呪のついでにそのままデパートを利用させてもらったよ。」
ダンジュウロウってもっと厳格だと思ったけど、ほんと村に滞在している間はゆるいよな……人間領ならこんなことがあれば処罰対象だろうに。
それを聞いたプラインエルフ族はへたり込んでしまった、よっぽど不正を見逃してしまったのが怖かったんだろう。
「ダンジュウロウ、今回は何も無かったからいいが今度から気を付けてくれよ。
家臣の許可が必要なら村でも上手くごまかすような招待の仕方をするから、住民を困らせないように頼む。」
「分かった……申し訳ない。」
ダンジュウロウも反省したのか少し落ち込んでしまった、大事にはしないから安心してくれよ。
その後ダンジュウロウはリッカの所へ泊まるらしく、何も言わずに荷物を持ってリッカの家へ行ってしまった。
急に行って驚かないだろうかと思っていたが、しばらくして「ギャーッ!」とリッカから出たとは思えない叫びが聞こえて来たので相当びっくりしたのだろう。
ダンジュウロウには基本味方するつもりだが、今回はきっちりと怒られてくれ――そう思いながら妻達と食堂へ向かった。
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