第230話 ミハエルに預けた魔法金属について分かったことがあった。
今日はデパート開店初日、妻達は日が昇る前から準備をしていた。
俺は音で目が覚めたが窓を見てほぼ夜だったのを確認して二度寝、朝ご飯くらいには起こしてくれるだろう。
「開様、行ってきますね。」
しばらく眠っているとメアリーが寝ている俺の頬にキスをして部屋を出る、俺は完全に起きてなかったが「いってらっしゃい。」とだけ言う事が出来た。
少ししてハッとする、今回朝ご飯は一緒に食べないのだろうか。
窓を見るとやっと日が昇って来たくらいの時間、寒いし早すぎるだろ……そんなに必死にならなくても。
カーテンを開けて窓の外を見ると、続々とデパートに向かう女性達の姿が見えた。
今回の商品、そんなに良かったのかな?
起きるには早すぎる時間だが目が覚めてしまったので、いつもよりしっかりと朝の運動をして食堂へ。
女性達が居ないので利用者はほぼ半分、かなり空席が目立つな。
仕方ないけど。
「村長、この後時間空いてる?」
俺が朝食を食べているとシュテフィが声を掛けてきた。
「あぁ、空いてるぞ。
それより解呪の応援には行かなくてよかったのか?」
「何回か試してもらったけど、ラミア族とプラインエルフ族で十分対応出来そうだったから任せたわ。
マーメイド族はデパートの店員をしなきゃならないみたいだったけど。
それなら朝食が終わったら私の家に来て、今日は採掘も休みだから。」
「分かった。」
シュテフィは食べ終わった食器を下げて食堂を出ていく、あまり待たせるのも悪いから俺も少し急いで食べてシュテフィの家に向かうとするか。
シュテフィの家に着いたので玄関をノックして呼びかける、しばらくすると玄関が開いてシュテフィに招き入れられた。
中に入るとミハエルと見慣れない魔族の人が、一体どうしたのだろう。
「そちらの魔族の人は?」
「わたくし、魔族領で考古学を研究しているペーターと申します。
今回は旧知の仲であるミハエル……様から魔法金属を預かりまして、魔族領と人間領の過去について調べさせていただいてたところです。」
「何よ、いつも通りミハエルでいいのに。」
「それは王女だと知らなかったから、知った以上は昔のように慣れ親しむのは難しいです。」
ミハエルが冒険者をしていた頃の知り合いか、王女と言っても今は村の住民みたいなものだし本人の言う通り気にしなくても良さそうだけどな。
「俺はこの村の村長をしている開 拓志だ。
その件は俺も気になってたからペーターの知見が聞けるのは有難いが……なんでシュテフィも同席するんだ?」
単純な研究の報告なら報告書を作ったり、俺・ミハエル・ペーターの3人で話したりしても問題無いはず。
「それは私が歴史の証人だからよ。
ミハエルがペーターに依頼して研究結果を伝えたみたいだけど、確証が得れなかったので一番そのあたりの繋がりがあるかもしれないという事で私に相談してきたってわけ。
結論から言うわよ?
魔族と人間は昔大戦争をするほど関係は悪かった、けどその隙に付け込んだ私達吸血鬼が2種族を襲っていたの。
しばらくしてお互いまずいと思ったのでしょうね、2種族は共通の敵を倒すため結託して吸血鬼を倒したわ。
私を封印したのも魔族と人間の混成部隊だったのを覚えてるし。」
なるほど、まさか調べていた歴史の証人が村に居たとは。
しかし吸血鬼一族、昔は本当に滅茶苦茶やってたんだなぁ……今シュテフィ以外の吸血鬼が居たら友好になれるかどうか分からないくらいだ。
「私もシュテフィさんの証言を聞いて、その路線でもう一度調べることにしたんです。
そして今は使われなくなった言語で書かれた文献を読み解けばと思い解読していたのですが……行き詰まりまして。」
「歴史の証人が居るのにわざわざ文献を解読する必要はないんじゃないのか?」
「そういう訳にも行きません、論文にするにあたって誰しも気軽に閲覧出来る文献は大事ですから。
このことに興味ある方が多数居たとして、全員がシュテフィさんと話を出来るかと言われればそうでないでしょう?」
そう言われればそうだな、全員がシュテフィと会話出来るわけじゃないし……そもそもそんな面倒そうなことシュテフィは嫌だろうからな。
ほら、シュテフィの顔に嫌って書いてあるような表情をしている。
「で、その使われなくなった言語の解読を私が手助けするってわけ。
軽く読ませてもらったけど読めるのよね、ただそれだと私の証言と何も変わりないから解読の手助けをしているのよ。」
「手助けより翻訳してやったほうが早いんじゃ……そうか、それでも証言と変わりないのか。」
「そういう事。
まずどこが分からないかを聞いて、ヒントを出しているわ。」
なるほど、だが新しい事が分かるのはいいことだし……魔族領に何故魔法金属の鎧があるのかも分かるかもしれない。
分かったからといって何か変わるわけではないが、そこにはロマンがあるからそれでいいと思う。
学ぶべきものがあれば参考にして現在に活かせばいい、歴史とは失敗と成功の例を学ぶものでもあるからな。
だが、ここまで話を聞いて分からないことが1つある。
「何で俺がここに呼ばれたんだ?」
別に俺が居なくてもこの作業は進行に困らないだろうし、俺は何も出来ない。
「証人になってもらいたいみたいよ。
シュテフィさんの言葉に誘導されず、ペーターの力が大きい割合を占める解読をしているかというのを。
古代歴史の生き証人なんて、言葉だけ見ると胡散臭さの塊だもんね……そういう所面倒くさいみたい。」
作業に集中しだした2人の代わりにミハエルが説明してくれた。
「なるほどな。
だが、それはミハエルでもいいんじゃないか?」
「影響力の違いね、私は王女だけど施政からも王族からも魔族領からも長く離れているから……立場と影響力が釣り合ってないのよ。
その点村長は立場も影響力も魔族領では一級品だし、人間領へのパイプもダンジュウロウさんに直通している。
現状この世界で一番影響力を持っていると言っても過言じゃないのが村長なのよ?」
「待て、俺自身にそんなつもりはないぞ。」
「村長にそのつもりが無くても世界はその認識だと思うわ。
まだ知らない大陸や島も発見されたら、今後の対応に関して村の意見が指標になることも有り得るくらいのものよ?」
ミハエルから俺の現状の立場を説明されてしどろもどろになる。
確かに各領と色々な付き合いはあるけど、俺自身がそんな存在になるためにしたんじゃないんだがな……。
あくまで村のため、というのが念頭にあっての行動だし。
「まぁ、影響力に関して理解してくれたらそれでいいわ。
ペーターの文献の翻訳がシュテフィさんの言葉を主軸に行われていなかった、という村長のお墨付きがあれば今回はそれでいいから。」
それって結構な期間ここに居なきゃダメってことか?
デパート開店期間だとは言え、子ども達も居るし夕方には妻達も帰ってくる……ここにずっと缶詰めになるのは勘弁してほしい。
それにシュテフィにも仕事があるだろうし、今日はたまたま休みなだけで。
「なるほど!
この文字はそういう事だったんですね……うおお!
それが分かれば次々に読めます!」
「何か分からなかったら呼んで、私はその辺でペーターが持ってきた歴史書読んでるから。」
「分かりました!」
様子を見る限りそこまで時間はかからなさそうなのだろうか。
「ペーター、解読にはどれくらい時間がかかりそうだ?」
「このペースなら今日の夕方前には終わるかと思います!」
「大丈夫よ、それまでに終わらなくてもそれだけの時間村長が見ててくれたら充分証言になるだろうし。」
そういう事なら大丈夫か。
「ミハエル、俺の書斎に行って机の上にある書類をここに持ってきてくれないか?」
「分かったわ。」
俺はミハエルに書類を持ってきてもらって、ここでペーターの研究を証明するために居る時間を無駄にしないようにした。
アンケートがあればそれの集計やらをしたんだが、仕方ないよな。
もし解読と翻訳が終われば読ませてもらおう、そう思いながらミハエルが持ってきてくれた書類に目を落として俺の仕事を進めだした。
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