第229話 デパート開店前日、やれることはやったので最後の準備を確認するため村を見て回った。

デパート開店前日、もうすっかり寒くなって氷の季節になった。


俺のアンケートはもちろん、村・魔族領・人間領の商人も商品の搬入から準備まで全て完了して村の観光を楽しんでいる。


次のデパートで作ろうと思っていた倉庫だが、各領の行商から「是非作ってください!」と声が多数挙がったので急遽作成した。


トラブル無く使ってくれているようで何より、ただここに配備する警備が増えたけど……リザードマン族が請けてくれてよかったよ。


ただ、長であるヒルデガルドが警備を担当するとは思わなかった――他のリザードマン族もそれを見てちょっと動揺している。


ヒルデガルドは女性だし買い物に興味無いのか聞いてみたら「買い物より悪い奴と戦いたいから!」と何とも勇ましい回答が返ってきた……この村で罪を犯すような度胸のある人は居ないと思うぞ?


そして食堂と広場にはウェイトレス姿のプラインエルフ族が、デパートの開店期間限定だがアンケートの回収と注文を取るために臨時で配備されることになった。


衣装は噂を聞いたイザベルとザビンがデザインしてケンタウロス族とアラクネ族が1日で仕上げたらしい。


仕事が早すぎてびっくりだ。


ウェイトレスとして仕事をするのは明日だが、今日はどういう手順でやればいいか確認をするためにミハエルとグレーテが主軸になって教えている。


この村でウェイトレスが居るような店を一番利用したことあるのはあの2人だからな、プラインエルフ族も真剣に聞いて練習しているし明日には充分間に合うだろう。


本来はもっと研修期間を設けるべきなのだろうが、色々急に決まったからな。


だが出来ると思うから引き受けたのだろうし、この村の住民は知識や出来ることを増やそうとすることに対して積極的なので精一杯やってくれるだろう。


もし失敗しても次に活かせばいいし、無理なら俺も手伝うつもりだ。


「村長、このアンケートはデパートに入る時と出る時、どちらで配りましょうか?」


デパート周りを歩いていると、デパート利用者の列を対応するラミア族に尋ねられた。


「装飾品の呪いを解呪した時に配ってくれ。

 アンケートを意識して利用してもらうのとそうじゃないとじゃ、回答の質が変わってくるだろうし。

 あと、配る時に食堂で料理と飲み物が1つずつ無料になるのも伝えてくれると助かる。」


「分かりました、ではそのように。」


準備で忙しいのか、俺の言葉を聞くとそそくさと去っていくラミア族……手伝えたら手伝いたいんだが、何かしようとすると「村長は全体を見て出来てない所を指示してください。」

と言われたんだよな。


だからこうして見ているんだが、皆ちゃんとやってくれているので出来てない所なんて見当たらない。


皆を信じることにしよう、そう思った俺は宿泊施設と開店前のデパートを見ることにした。


まずは宿泊施設、前はラミア族3人で上手く行っていたが今回はどうか分からないからな。




「何も問題無いですよ、むしろ勝手が分かってる行商さんが多くて仕事が少ないくらいです。」


ラミア族に大丈夫かどうか尋ねると何も問題無いらしい、それどころか前より楽だという答えが返ってきた。


ほんとに村の住民は優秀だな……これ以上俺も聞くことがないのでデパートの中へ。


各々お店の準備を終えている。


陳列も終わっているので何が並んでいるかは分かってしまうが、誰にも漏らすつもりはないし夥しい量の商品を全部覚えるのは不可能なので頼まれても無理。


強いて気になったものと言えば子ども・幼児向けのおもちゃがいくつかあったな……妻達に買えたら買って来てもらおう。


……それくらいはいいよな?


「あれ、村長じゃないですか!

 ちょうどよかったです、これデパートの出店時の費用を魔族領と人間領の行商さんから預かったんですよ。

 もうすぐ仕分けが終わるので持って帰ってくれませんか?」


中を歩いているとマーメイド族から声をかけられる、床一面に金貨をばらまいた状態で。


さすがに無防備過ぎる気もするが……まぁこの村なら安全だろう。


「分かった、預かるよ。

 それと貨幣が100枚ずつ入る箱を結構前に作ってるんだが、必要なら渡すぞ?

 いちいち数えるの大変そうだし。」


「そんな便利な物あったんですか!?

 是非欲しいです、すぐ欲しいですお願いします!」


俺が貨幣を入れる箱を口にすると物凄い勢いで俺に近づいてきて欲しがられた、そんなにしなくても渡すから安心してほしい。


というかあまりに顔が近づきすぎてキスしかけた、というかしてしまったかもしれない……ちょっと罪悪感。


「すぐ作って持ってくるよ、箱に入れて改めて枚数を確認して分けるとしよう。」


そう言ってデパートを出て倉庫へ、箱を作ってマーメイド族の所へ戻って金貨を箱に詰める。


余裕をもって20箱ほど持ってきてよかった、結構ギリギリだったな。


「すごい……一瞬で数え終わった……。」


早めに渡してあげてればよかった、申し訳ない。


俺は分けたお金を受け取って家に帰ろうとすると、マーメイド族に呼び止められた。


「村長、銀貨と銅貨の箱も作ってくださいませんか?

 デパートや商店街の時支払いやお釣りで非常に使えそうなので……。」


「分かった、金貨を家に置いたら作ってまたここに持ってくるよ。」


俺はそう返事して一度家に帰りお金を金庫に入れて、再び倉庫へ。


箱を作れるだけ作って荷車の上へ錬成、これだけあれば足りるだろうか?


頑張って引っ張っていってると、ウェアウルフ族が俺を見て荷車を引くのを変わってくれた――かなりしんどかったのに悠々と引いてて身体能力の差を思い知らされる。


もっと鍛えないとな、種族の差はあるだろうが。


俺は箱を渡してそのまま食堂へ向かう、途中妻達と合流して一緒に食事をすることに。


子ども達も一緒だったので非常に賑やかな食事になったが、妻達は明日のデパートで目をぎらつかせていた。


カールがメアリーを見て泣きそうになってるからやめてやってほしい。


「あ、そうだ。

 ここだけの話なんだが、子ども向けのおもちゃが陳列されてたからもし買えたら買ってきてくれ。

 知育玩具っぽかったからな、カールにもそろそろ与えてもいいころだろうし。」


「分かりました、私達が行って見つけたら買っておきますね。」


食事を終えて外に出ると初日のデパート利用者がぞくぞくと村にやってきていた、明日からまた村が賑やかになるぞ。


今回もトラブルが無くアンケートも有意義な回答が得れることを願いながら家族でお風呂に向かった。


ホットワインを飲んでいい気分、それを見た妻達に「何ですかそれ!?」と問い詰められた……隠してるつもりはなかったんだが。


「ずるい、私達も貰ってもう1回お風呂にいってきます!」


俺が止める間もなくメアリーとウーテがホットワインを持ってお風呂へ行ってしまった、逆上せないようにな。

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