第223話 人間領から教育施設の責任者が村に訪れた。

慌ただしい日々が終わり平穏な日が続いている、もう数日で氷の季節だな。


少し前までは十日熱の初期症状を訴える住民もちらほら居たが、今は完全に収束して一安心。


俺と流澪は結局発症しなかったので、恐らく読み通りインフルエンザなんだろうな。


氷の季節を前に村の住民はデパートの出店準備に大忙し、玻璃を使った装備は是非とも広めたいそうだ。


それと牧場もチーズとバターの生産が好調らしく、商品に回せる在庫も多数確保出来ているらしい。


装備もチーズもバターも村の特産品になってくれれば嬉しいぞ。


俺も何か協力できることは無いかと思って村を見回っているが、ドワーフ族の工房にステンレスを作って置いておくくらいしかなかった。


なんでも今は配管と継手の金型を作ってそれの量産体制を作る段階みたいだ……やり方は原始的だが作業スピードが半端じゃないので工業化しているのと何ら変わりはない。


普通そんな綺麗な鉄の円柱を手作業で作るのは何日もかかるはずなんだよな。


なんで俺が見てる1時間程度で終わってるのか理解が出来ない。


ここまで技術とスピードとパワーを兼ね備えた種族が多い中、クリーンエネルギーを半永久的に作れるようにして何に使うか疑問だな……何か使えることを考えておいたほうがいいかもしれない。


考えると言えばメアリーのダンジョンコアから美味しい作物を作る方法も考えなければ、一度思ったことを紙に書いて頭の中を整理したほうがいいな。


お腹が空いたので食事を取った後、書斎で少しその作業をする事にしよう。


そう思って食堂に向かうと、イザベルとザビンが並んで食事を取っていた。


「あ、村長……何とか案が出来たわ……花の季節に間に合った……。」


完全に疲弊しているイザベル、ザビンもイザベル程ではないが目に見えて疲れているのが分かる。


そんな2人に式典が次の稔の季節だと伝えるのはちょっと怖い、2人が篭って作業しているのも手伝って伝えるのを完全に忘れていたぞ。


でもこういう言いにくい事は早めに言っておかないと、後で絶対後悔するからな……覚悟を決めて伝えるか。


「お疲れ様、2人ともありがとう。

 それと、言いにくいんだが……魔王とクズノハの式典は次の稔の季節なんだよ……伝え忘れてて済まない……。」


俺は意を決して2人に謝り頭を下げる。


俺は食事が来る前に2人に謝る、ここまでやってくれてまだ納期に時間がありましたと言われて嫌な気分にさせるだろうけど……伝えないのもダメだしな。


「ホント、やった!

 まだだいぶ時間があるじゃないの!

 ザビン、食べ終わったら造形の手直しと練り直しするわよ……アレとあそこ、まだ納得いってないのよね――あ、村長さっき渡した案はちょっと返してもらうわ。」


イザベルは机の上に置いてある案を書いた紙を回収。


俺は思ってもない反応で頭を下げたまま目をパチクリさせたまま固まってしまった。


2人が出て行ってもそのままだったので「村長、腰が痛いのか?」と料理を運んでくれたドワーフ族に心配をかけてしまう。


腰は健康だ、安心してくれ。




気を取り直して出してもらった食事を食べて食堂を出る、見回りもある程度終わったし鍛錬所に向かおうとするとケンタウロス族が俺を呼び止めた。


「人間領から村長へ客人が見えてます。

 マックスという方で、何でも教育施設のノウハウを伝えに来たとか。」


「お、やっと来たか。

 対応するよ、リッカも面識があるようだから呼んできてくれ。」


やっと本格的に教育施設を村に導入する準備が出来そうだな、教えてもらえることは全部教えてもらうつもりで対応しよう。


「分かりました、マックス様はあちらの停留所でお待ちいただいてますので。」


そう言ってケンタウロス族はリッカを呼びに向かった、俺はその間にマックスの対応をしておくか。


「おぉ、貴方がこの村の村長ですな。

 私は人間領で教育施設の責任者をしているマックスと申します。」


俺を見てすぐに村長だと分かったのか挨拶をしてくれたマックス、この村で人間は珍しいし当然と言えば当然か。


「察しの通り、俺がこの村の村長の開 拓志だ。

 遠いところから来てもらって済まない、滞在の間は精一杯もてなしをするから教育施設のノウハウをよろしく頼むよ。」


「お任せください、何せダンジュウロウ様からの勅命ですからな。

 私が持つ知識を全て村に授けるつもりです。

 ですがその前に……神を祀る神殿があるとお聞きしましたが、先にそちらへ案内していただいでもよろしいですか?」


「構わないぞ、村の紹介ついでに案内しよう。

 だがマックスの教え子であるリッカももうすぐ来るはずなんだ、案内はそれからでもいいか?」


「おぉ、リッカ様も久しく顔を見れてないので願ったり叶ったりです。

 では少し人間領の教育施設で何をしているか説明をしながら待たせてもらいましょう。」


そう言ったマックスは教育施設の存在意義や、そこを出た人の就業率と離職率なんかの解説をしてくれた。


数値を聞く限り、前の世界とは比べ物にならないほど高水準の数値でびっくりする……それだけ雇用枠が多いのもあるんだろうが。


だがキュウビも言っていた通り向いていても職場環境に耐えれない人も少なからず居るのが問題らしい。


それはどこの世界にいってもついてくるものだし、国や領は制度を定めて罰を与えるくらいしか出来ないだろう……この村ではそのようなことは今のところ俺の耳には届いてないけどな。


「マックス先生、お久しぶりです!」


俺がマックスの話を聞いていると、リッカがケンタウロス族に乗ってこちらへやってきた。


「おぉリッカ様、大きくなって……。」


2人は本当によい関係だったのだろう、リッカの表情は恩師に会えた嬉しさがにじみ出ている。


「それじゃあリッカも来たし神殿へ案内するよ。

 でも、なんでまた神殿を先に見たいんだ?」


「ダンジュウロウ様から言われましてな、いずれ人間領でも崇める神なのでしっかり敬って村で過ごせと。

 それに神殿の造りも類を見ない素晴らしい物なので、是非目に焼き付けておくようにとも申されてました。」


そこまで言われると少し恥ずかしいな、だがあのステンドグラスは良く出来たと自負しているので見てほしいのはある。




神殿へ案内すると、マックスは神の像とステンドグラスを見た途端五体投地で祈り出した。


そこまでするとは思ってなかったので、慌てて起こそうとするがリッカに止められる。


「こうなったマックス先生に触れると、普段の温厚な振る舞いから想像出来ないほど激昂するから……。」


止めてくれてよかった、流石にほぼ初対面でそのようなことをさせたくないし見たくない。


俺はマックスの祈りが終わるまでじっと待つことにした……まさか1時間ほどずっとその状態だとは思ってなかったけどな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る