第224話 教育施設についての講義を受けた。

マックスは祈りが終わったのか体をゆっくりと起こす。


「お待たせいたしました、まさか神がこの場に居られるような感覚に陥るとは思っておらず……。

 このように祈ったのは久方ぶりです、非常に有意義でした。」


「それならよかった、ではまず俺の書斎で教育施設について色々教えてくれ。

 メモなんかをしっかり取りたいからな。」


「村長、僕もついていっていい?」


俺の書斎で話をすると言った直後、もうマックスと離れるのかと思ったリッカは不安そうな目を俺に向ける。


「構わないぞ、リッカにも教壇に立ってもらうかもしれないし。

 しっかりマックスの話を聞いておいてくれ。」


「分かった!」


それを聞いたリッカは嬉しそうに返事をする、マックスも教え子に慕われて嬉しそうなので大丈夫だろう。


村の紹介をしつつ俺の家まで歩いて向かう、その道中色々な種族・施設・武具に目を奪われるマックス。


俺の家までそんなに時間はかからないのにそこそこ時間を取られてしまった、だが教育者なら色々な事に興味を持ったりアンテナを張ったりしないとダメなんだろうな。


俺はそこまで何かに必死になることは出来ないので、老齢と言って差し支えないマックスがそれを出来るのは羨ましく思う。


いや、妻達には必死かもしれないな。




俺の書斎に着いたので早速マックスに講義を行ってもらう。


「それでは教育施設のノウハウについてお話しします、当初の予定より人数が増えましたが問題無いでしょう。」


マックスが講義開始の挨拶をする、人数が増えたというのはメアリーとウーテが参加したからだ。


どうやら教育施設に興味があるらしい、詳しい知識を持ってる人が多いことに越したことはないので歓迎するけど。


講義は30分程度に1回休憩を取る、俺としては高頻度の休憩で驚いているが人間領ではこれが普通らしい。


「よっぽど興味があったり好きな事だったりしないと集中力はそこまで長く保てません。

 老人の講義などためになっても面白くは無いでしょう?」


面白いかどうかと言われると確かに面白くはないが、興味があることなのでもう少し聞いていられる。


だが休憩は有難いのでしっかり取らせてもらう、何でもこういう休憩の間に頭の中を整理するとしっかり次の話も聞けるそうだ。


何度か繰り返しているとその効果が分かる、前の世界で90分の授業を聞くより明らかに頭に知識が入るのを感じることが出来た。


何でも長時間やればいいってものでは無いのを体験して教えてくれるのはすごい、これだけでもマックスの講義を受けた価値はある。


もちろん教育施設のノウハウも価値はあるけどな、むしろこっちが目的だし。


「マックスさん、教育施設の責任者だけあって非常にわかりやすい話の展開をされますね。

 どんな時でも求める結果とそれにあたって必要な指示を出しがちなので見習わないといけません。」


「私は結果だけ求めちゃうな、やったら出来るでしょっていう頭で動いちゃうから。」


メアリーとウーテが休憩中に話している、俺はメアリーよりだな……やったら出来るとは思ってないけど、そもそも俺がそうじゃないし。


「でもそれで村が上手く回ってるんだからいいと思う。

 分かりにくい時だけマックス先生のような話し方を意識すればいいんじゃないかな?」


リッカが2人に更なる意見を出す、2人もそれに同意。


いつもそうするとまだるっこしい場面は確かにあるだろう、適宜使い分けるのが大事なんだろうな。


こういった場でも勉強になることはある、俺も色んな所から学ばなきゃいけないと気を引き締めた。




「――それでは今日の話はこれで終わります、何か質問はありますか?」


休憩を挟みつつ3時間ほどの講義が終了、思ったより短いのにびっくりだ。


「教育施設で最適職が見つからなかった場合はどうされているのでしょう?」


メアリーがマックスに質問をする、確かにそれは気になる。


「最も適性の高かった職の再訓練、もしくは戦闘訓練を経て冒険者や警備職に就くのが人間領では通例になってます。

 ですがそういったことは非常に稀ですね、今日話した通りに適性検査をすればほとんどの場合最適職は見つかりますよ。」


見捨てる事をしないのは流石だな、キュウビは根が優しいし――だからこそ手に職を持てない人のために教育施設を提案したのだろう。


「講義時間が短いのは何か意図があるのか?

 俺が前に居た世界では1日授業を受け続けることが普通だったんだが。」


俺も気になったので質問してみる、マックス曰く教育施設での適性検査及びその訓練は半日も時間を取ってない。


もし早く技術を習得するなら、日にちだけが過ぎて無駄なのではないだろうかと思ったからだ。


「1日にそれだけ大量の知識を教えてもらっても、頭に残るのは多くて3割程度でしょう?

 得た知識をしっかり頭に入れるには復習をするのが普通ですが、それだと復習量が多くて時間だけが取られてしまうだけでなく、何が必要かと勝手な判断で取捨選択をしてしまいます。

 要らないことは教えてないのですから、それをされると教える側も教えられる側も無駄な時間を過ごしたことになる――それを防ぐためですよ。」


心当たりがあり過ぎることをマックスから返される、確かに前の世界ではそうだった。


習ったはずなのに頭に残ってなくて「しっかり勉強しておけば……。」なんて大人になって後悔した場面が数多くある。


まさに今もそうだ、科学の授業をしっかり受けておけば想像錬金術イマジンアルケミーをもっと有用に扱えるのにと思うことが多々あるからな。


これは流澪に教えてもらえば間に合うだろうが、流澪もクリーンエネルギー機構の研究で忙しいし……。


閑話休題。


「では次の講義は明後日に行います。

 村長以外の方はもし興味があれば次回も参加してくださると嬉しいですね。」


「ぜひ参加させていただきます、他の住民にも声をかけますよ!」


「私も!」


「僕だって!」


3人ともものすごく張り切っている、そんな声をかけても書斎には入れないぞ……?


「では今日と明日の空いた時間を使って今回の復習を済ませておいてくださいね。

 次回以降は簡単な振り返りの後、新しいことをお話しますので。」


講義は解散したが、マックスもお腹が空いたということで一緒に食堂へ行く。


「何ですかこれは!?

 どれもこれも美味しすぎます、これは人間領で使われてる調味料ですが味が段違いですよ!?」


マックスは体型が瘦せ型の老齢からは考えられない量を食べている、出来れば体調を崩さない程度に留めてほしい。


メアリーとウーテも心配になったのか止めようとすると、リッカが「マックス先生はいつもこれくらい食べるよ?」と何も気にしない様子。


嘘だろ、俺の3倍くらい食べて瘦せ型ってどうなってるんだ。


体質だろうか……食後、俺は生まれ持ったものに少し憎しみを感じながら鍛錬所でいつもより少しきつめの鍛錬を行った。

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