第211話 デパートも無事開店期間が終わり、いつもの日常に戻った。

デパートの開店期間も終わり、お祭り騒ぎ状態だった村に静寂が訪れる。


普段通りになっただけなんだが、急に静かになるとどうしてもそう感じてしまうんだよな……前の世界の地方祭の後もそうだった。


「いやぁ、色んなものを買い込みましたね……自分で稼いだお金がほぼゼロになってしまいました。」


「私はそこまでかな、自分が欲しい物よりペトラとハンナの事を優先して買っちゃったから。

 子ども向けの商品ってあまりなかったのよね、今度要望を出してみようかしら。」


「私は自分の物と村の物、それに便利そうなものに手を出したけど……貯蓄がゼロになるほどではないわ。」


メアリーが2人の言葉を聞いて「そんな……。」と愕然としている、流石にほぼ全財産を突っ込むのはやりすぎだと俺も思うが。


「とりあえず買ったものは新設した倉庫にしまってあるから確認しておいてくれよ、それと今日からは普段通り村や自分の周りの仕事を頼むぞ。」


「「「はーい。」」」


3人とも真面目だからそのあたりは信用してるけど、念のため釘を刺しておく。


浮足立ったまま普段の仕事に戻りづらい人もいるからな、前の世界に住んでいた大型連休明けの俺とか。


俺は子ども達を連れて見回りに向かおうとすると、メアリーとウーテが子どもを見ててくれるらしい。


仕事はどうしたと聞いたが、今日は1日家のことをしっかりして明日から本格的に村の仕事を始めると事前に話し合っていたそうだ。


そういうことならと子ども達を任せて見回りに行くことにする、デパートの開催が終わって村の様子やイザベルとザビンも気になるし。


着替えと朝の運動、それと家族での朝食を終えた俺は家を出て見回りに向かった。




まずはデパートが閉店したので建物の片付け状況から、大まかには昨日の段階で終わっているのだろうがまだ全部は終わってなさそうだし。


そう思い中を覗くとプラインエルフ族とラミア族が手分けして生活魔術で掃除をしている最中だった、聞いてみると物は全て運び終わってるらしい。


商人達も今日の朝に各領へ帰ったらしく、宿泊施設も今はデパートの利用客を少し残した程度とのこと。


皆疲れてるだろうにすごいな、本格的な仕事は休むって妻達は言ってたけど……これは本格的な仕事じゃないのだろうか。


少し疑問に思いながらも「無理はするなよ。」と声をかけて建物を後にする、デパート以外にも何かに利用できないか考えておかないとな。


その後は他の施設を見回りして、最後にイザベルとザビンの作業場へ。


ドアをノックして「入るぞー。」と声をかけてドアを開けると、2人とも作業机に向かってデザインを考えていた。


「あ、村長。

 デパートも終わったしミハエルの家じゃないから静かに仕事が出来てはかどるわ。

 研究も仕事もこうでなくちゃね。」


「私は少し静かすぎて落ち着かないですが……イザベルさんと仕事を出来るなんてもう二度とあるかないかの経験ですし頑張ります!」


進捗状況を見せてもらうとこの1日で1人当たり10個ほど案が出せているみたいだ、普通に早いし実際に服になっても問題無いデザインだと思うが……いくつかはボツだという。


「これ、なんでボツなんだ?」


「ザビン曰く魔族領で似た造形案が出てて既に商品化されてるからよ。

 それを作った服飾造形師に何か言われるのも嫌だし。」


著作権が無いにしろそういうのは気にするんだな……というかそのあたりを覚えているザビンがすごいと思う。


「やはり伝説の服飾造形師はすごいですよ、このボツになったものも城には大好評でしたから。

 私の友人が造形したのですが、それを造形するのに数日寝不足になるくらい根を詰めてたみたいですし。」


前の世界のブラック企業みたいな働き方をしているな、この世界では無縁だと思っていたがそうやって働く人はどこに行ってもいるものなのだろうか。


しかし貨幣経済になると仕方ないのかもしれない、村は自給自足のシステムが確立しているからそういうことが起きないので安心だ。


「とりあえず使える案はケンタウロス族とアラクネ族に渡しておいてくれるかしら。

 誰に着てもらうかは上に書いてあるから、私達は残りの服飾造形に取り掛かるわ。」


「分かった、あまり根を詰めすぎないようにな。」


俺は数枚の羊皮紙を受け取り、作業場を後にする。


届けるまでに改めて見させてもらうとものすごい良さそうだ……ファッションなんかには疎いんだが、これはどこに着て行っても恥ずかしくないデザインなのが分かる。


それに細部の指示がきっちりと図解されていて、作り手にも優しい――これだけのことが出来て引退するなんてもったいないと思うが、それだけ黒魔術が魅力的だったんだろう。


好きという気持ちは簡単に止められるものではないからな。




「これはすごいですね、魔族領や人間領にも負けない造形ですよ!

 すぐに作成に取り掛かります、クズノハさんのドレスも並行して作らないといけないので!」


案を渡したケンタウロス族は興奮気味に作業をしに引っ込んでいった、慌てるなとは言わないが無理はしないでほしい。


とりあえずやれることはやったかな、そういえば最近流澪を見てないがクリーンエネルギー機構の研究で缶詰になっているのだろうか。


気になって研究施設を覗くと流澪とクズノハが2人で書類の整理をしていた。


「あ、村長!

 クズノハさんの他に研究に興味があって、同じくらいのスペックを持つ人材って村に居ないかしら?」


開口一番にとんでもない無茶ぶりをされる、そんな人材は村に居ないと思うぞ?


「強いて言うならシュテフィかラミア族が近いだろうか、だが研究に興味があるかと言われると怪しいな。

 もし興味があるなら話し合いで名乗り出てるはずだし……最近はラミア族も仕事が増えて忙しくなってきているんだよ。」


「そうよねぇ……クズノハさんに魔術を組み込める機構と書類の作成と整理をお願いしてたから結構痛手なのよ。

 あ、クズノハさんの幸せを邪魔するつもりはないからね!?」


つい本音をこぼす流澪を悲しそうに見るクズノハ、悪気は無いから許してやってくれ。


よく見ると書類整理に悪戦苦闘している様子だ、箱に入れているのだろうが必要になった時に出しづらそうだしもしバラけてしまうと悲しいことになる。


「書類まとめるの大変そうだな、クリップを想像錬金術イマジンアルケミーで作ったしいくつかこっちに持ってこようか?」


「そんなものがあるなら早くちょうだいよ、書類整理にどれだけ時間を取られてたか!」


親切心を出したら結構な勢いで怒られてしまった、呑気に聞いた俺も悪いが。


急いでクリップを取って研究施設に戻ると、流澪とクズノハが何かを話している……クズノハが説教をしている様子だが何かあったんだろうか?


「まったく、あんな態度を取るからいつまでも素直になれんのじゃ……おっと。」


俺に気付いたクズノハは口を押さえる、それと同時に流澪の顔がみるみるうちに真っ赤になっていった。


……タイミングも悪かったようで申し訳ない。


俺はクリップを置いてそそくさと研究施設から立ち去る、久しぶりに鍛錬所に行って体を動かしてこようっと。

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