第209話 イザベルの助っ人を探しに魔族領へ向かった。

イザベルに服飾造形を頼んだ次の日。


子ども3人はクルトに再び預けて商人ギルドへ出発。


昨日のうちに一緒に頼めればよかったんだが仕方ない、もう少し早く気づければ二度手間にならなかったんだけど。


今日こそは失敗しないようにとフードを深く被って商人ギルドへ、ギュンターに頼むような内容でもなさそうなので受付の人に聞いてみるか。


「昨日の今日でまた訪ねてすまない。

 今日は人を短期で雇いたくて来たんだが……服飾造形師に村で数日働いてほしいんだけど。」


「珍しいですね、日当のご予算さえ教えていただければ名簿から探してみますが。」


「商人ギルドが思う相場で高すぎなければ問題無い、そのあたりは詳しくないから任せる。」


「かしこまりました、名簿から探してみますので少々お待ちください。

 待ってる間はあちらの応接室をお使いください、昨日の帰りに騒ぎになったと聞きましたので、人目につかないほうがよろしいかと。」


「ありがとう、助かるよ。」


お金を出して人を雇うのは初めてだな、だが金貨の価値を聞いたのでそこまで大きな出費にはならないだろう。


村のためだし金貨1枚くらいでも出すつもりではいるけどな。


俺は応接室で紅茶を飲みながら待っていると、扉をノックする音が。


「失礼します、名簿の確認と雇用可能な服飾造形師の選別が終わりましたので報告に来ました。」


「ありがとう、入って大丈夫だぞ。」


受付の人が中に入ってきて結構分厚い名簿を広げながら、技術力や日当の値段などを説明。


その中にイザベルも入っていた。


「この方は引退したと宣言されてますが、商人ギルドの除名手続きを終えてないので一応声はかけれます。

 ですが過去最高の服飾造形師でしたので値段も相応に高いです……今は別の研究をされてるらしく受けてくれるかどうか分からないですが。」


後で教えてあげよう、本当に勢いだけで引退宣言してそのまま黒魔術の研究にのめり込んだんだな。


「その人以外で頼もう、一番技術力が高いザビンという男性が良さそうだな。」


「分かりました、誠実に仕事をこなすうえに腕もいいと評判なので問題は無いでしょう。

 日当は銀貨10枚以上と一つの服飾造形が終わるごとに追加で銀貨10枚あたりが妥当かと、あちらの交渉次第ではそれ以上になるかもしれませんが大丈夫でしょうか?」


「問題無いが、イザベルという人ならどれくらいの値段なんだ?」


過去最高の服飾造形師はどれくらい稼ぐのか、ちょっと興味が出たので聞いてみる。


「そうですね、最低でも日当で金貨1枚以上でしょうし……追加料金でもそれくらい取られそうです。

 イザベルさんにされますか?」


「いや、興味があったから聞いてみただけだ。

 ザビンさんにお願いするよ。」


「分かりました、では使いを出しますのでしばらくお待ちください。

 1時間もすれば使いも帰るはずですから、後で紅茶のお代わりをお持ちしますね。」


話を終えた受付の人は紅茶を片付けて自分の仕事へ戻る、待ってろと言われても特にやることはないんだよな……。


仕方ないので柔軟体操と簡単な筋力トレーニングをしながら待つことにする、最近鍛錬に顔を出せてないから空いた時間に出来ることをしておこう。




少しすると紅茶のお代わりを持ってきてくれた、受付の人に「何をされてるんですか?」と疑問を投げかけられたが……暇だったから体を動かしていたとしか言えない。


邪魔になると思ったのか紅茶を置いてすぐに部屋を出ていってしまった。


何か話したそうにはしていたから悪いことをしたかもしれない、でもすぐに話さないということは恐らく世間話だろう。


もう少し筋力トレーニングをしようと思ったが、紅茶が冷めてしまうので先に紅茶をいただくことに。


飲み終える少し前に再び受付の人が部屋に入ってきた。


「使いの者が帰ってきました、ザビンは引き受けるとのことですが一度依頼者と話をしたいという事で商人ギルドに来ております。

 部屋にお通ししてもよろしいでしょうか?」


とりあえず引き受けてくれてよかった、だが一応イザベルの助っ人という形だし……イザベルの名前を聞かれると少々まずいことになるかもしれない。


「ありがとう、話をするのはいいが2人で話をする事は可能か?」


「大丈夫ですよ、それではこちらにお連れしますね。」


しばらくするとザビンと思われる男性が部屋に入ってきた。


「失礼します。

 僕の名はザビン、以後お見知りおきを……まさかかの有名な未開の地の村の村長から指名依頼をされるとは夢にも思っていませんでした。」


「未開の地の村で村長をしている開 拓志だ。

 有名とは少し恥ずかしいな、もう少し静かに暮らしてもよかったんだが……それよりここでの会話、及び仕事の内容は他言無用だということを約束してくれるか?」


魔族領から出てはいけない人物が村に居るからな、もしかしたら大問題になる可能性がある。


それを聞いたザビンは真剣な顔をして生唾を飲む、そこまで緊張しなくても。


「分かりました……!」


「仕事の内容は俺や村の住民が式典に着ていく服の造形だ。

 一応補助という立ち位置だが、恐らくある程度は任されると思う。」


内容を話すとザビンは首をかしげる、どうしたんだろうか。


「その内容のどこが他言無用なのでしょう?

 そういう依頼は今まで多数こなしてきましたが……未開の地の村で仕事をしたということがダメということですか?」


「ここも魔族領だからな、村に来たら理由が分かるかもしれない。

 未開の地の村の依頼を受けたということは話してもらって構わないが、そこで一緒に仕事をした人物については他言無用で頼む。」


俺の言い方が悪かったな、それを聞いたザビンは納得した顔で「分かりました。」と返事をする。


誠実そうないい人で良かった、今日の定期便で村に来てほしいと伝えても快諾してもらえたし。


そこまで日にちに余裕があるわけじゃないから助かるよ。


「あ、大事なことを忘れていました。

 日当と造形案採用の際の追加料金の話なのですが……前者が銀貨15枚、後者が20枚でもいいでしょうか?

 少し相場より高いかもしれませんが、長期間拠点を離れるので……。」


ザビンが申し訳なさそうに料金をお願いしてくる。


「問題無いぞ、こっちは引き受けてくれるだけでも助かるし。

 支払うお金に口止め料も含まれてるってことで。」


「良かったです、それでは遠征の準備をして次の定期便で村に向かわせていただきますね。」


ザビンとの商談は終了、これでイザベルのお願いは聞けたな。


俺は受付の人に挨拶をして商人ギルドを後にしようとすると「相場よりお高いですが理由がありますか?」と質問された。


ある、と答えると安心した顔で「それならいいです。」と返される、もしかしたら村から依頼があると高く吹っ掛けても大丈夫だと思われるかどうか懸念してくれたのだろうか。


少々高いくらいなら払うが、あまりにかけ離れていると交渉するので安心してほしい。


商人ギルドから出る前にフードを被るのを忘れずにして、と……さて、村に帰ってイザベルに報告をして子ども達を引き取らなきゃな。


今はクルト一人に預けているし、もしかしたら多人数の子どもに手間取ってしまっているかもしれない。




村に帰るとカールとウルスラがペトラとハンナ、それにクルトを寝かしつけていた。


クルトはスヤスヤと寝息を立てて幸せそうである、何も無くて良かったけど……立場が違うんじゃないか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る