第207話 魔王とクズノハの件は時を待つだけになった。

「こんな素晴らしいドレスの造形案が出てるとは思わなかったのじゃよ!

 是非、是非これを作ってほしいのじゃ!」


「これは類を見ないものですぞ……村の品質とこの造形があれば至高の一品が出来上がるでしょうな。

 これは新しい商売の起点に出来そうな気が……。」


しばらくすると2人から称賛の声があがる、気に入ってもらえたようで良かった。


ただギュンターの声が気になる、新しい商売の起点とはどういうことだろうか。


「これほどの案を見せられては何も言い返せぬよ、クズノハのドレスは村に任せるのじゃ。

 そもそも装飾品は村から仕入れようと思っておったしな。」


「仕入れなくていいぞ、最高に綺麗なシュムックをあしらった装飾品をクズノハに送るから。

 だが魔王の服は魔族領で準備してほしい、その代金も村で持つから。」


「それに関しては心配及ばん、代々受け継いでる魔法金属の甲冑があるのでな。

 装着者のサイズに合うように変形する不思議な金属で出来ておるのじゃ、研究に出すにも王族に伝わる一品なので何も分からぬまま受け継いで代々伴侶を迎える際に身に付けておるのじゃ。」


そんな金属があるのか、ドワーフ族に見せたら何か分かるかもしれないが……そのあたりは依頼があるまで待っておこう。


強度とかが分からない以上、俺がエンチャント付与をしたオレイカルコス製の武具が一番信頼出来る。


用途が違うけど。


「じゃあクズノハのドレスは村で準備する、魔王とギュンターはさっき話したように予算を気にせず過去最大規模の式典と食事会の準備を進めてくれ。

 村から料理人の支援が必要ならドワーフ族や村に移り住んだ魔族に話をつけるから、よろしく頼むぞ。」


「任せるのじゃ、クズノハが泣いて喜ぶようなものにしてみせるのじゃよ!」


「魔族領の技術の粋を集めて、村長のお眼鏡にかなうものにしてみせますぞ!」


期待している、デパート開店も今日を含めて3日しかなかったので早めに話がついてよかったよ。


話が終わったので商人ギルドを後にして、村へ繋がっている転移魔法陣へ向かって歩く。


村の女性陣はデパートで買い物を楽しんでいるが……大丈夫なのだろうか?


アラクネ族も利用していたし……あ、いやアラクネ族は女性でもあり男性でもあるか。


もしかしたら服飾担当が交代で行っているのかもしれないな、流石に自分から言い出した事を忘れて買い物を楽しむような住民は居ないと思ってるし。


色々考えながら歩いていると「未開の地の村の村長だ!」と声をかけられる。


しまった、フードを被り忘れていた……普段こんな服着ないし安心感から気が抜けてしまっていたな。


「村長、デパートはどういったものが扱われるのですか!?」


「どれくらいの割引がされているのでしょうか!?」


「その日買えなくても予約とか出来るのでしょうかぁ……?」


俺は一気に囲まれて質問攻めに合う……何も分からないから解放してくれー……。




その後巡回していた兵士の手助けもあって数十分で解放された、良かった……。


予約は少しいいと思ったが、その期間限りの値段で行商が頑張っているものだし無理だろうな……その後欲しいと言う人が居たら売りたいだろうし。


デパート自体が期間限定のイベントだ、帰りの荷物は少なくしてお金にしてしまったほうが楽に決まっている。


出来れば利用者の声も聞き入れて次回開催をしたいが……落ち着いたらアンケートのようなものを各領に配って声を拾って反映してもいいかもしれない。


だが今はデパートと魔王クズノハの件が最優先だ、どちらも絶対に成功させたいからな。


「ただいま、2人とも助かったよ。」


村についてオスカーとクルトに声をかける。


ペトラとハンナのオムツ替えに悪戦苦闘しているのが見えたので、俺は代わってオムツを替えた。


「村長やっぱりすごい。」


「うぅむ、器用だ……。」


ウルスラで練習してないのだろうか……いや、シモーネとラウラがどうせ出来ないからとやらせていないのかもしれないな。


クルトは奥様方から育児の技術を習ってもダメだったみたいだし、向き不向きもあるのは仕方ない。


「とりあえず話はついた、概ねあの話し合いで決まったとおりの案が魔族領へ通ったよ。」


「そうか、ではワシ達はやれることをしっかりやってクズノハを送り出さねばな。」


オスカーの言う通りだ、魔族領が考える式典に対応出来るよう少しでも稼がなきゃいけない。


借金してでもとは言ったが出来れば借金はしたくないし。


お金の貸し借りほど怖いものは無いからな。


2人は足りると言っていたが不安はある、この件が終わるまではお金は多いに越したことは無いだろう。


終われば交易に困らない程度に稼がせてもらえばいいんだけど。


「それじゃあ俺はまた何か出来ないか考えながら見回りをしてくるよ。

 2人とも子ども達を見てくれてありがとうな。」


「ううん、ウルスラも喜んでたから僕たちも助かったよ。」


俺は3人を引き取り見回りへ向かった。




見回りをしていて広場で休憩していると、様々な人がほくほく顔で休憩を取っているのが見えた。


食堂から簡単につまめるものを注文して飲み食いをしたりしている。


机とベンチ、それに屋根を作って正解だったな。


「お、村長がそこにいるとはちょうどよい。」


「っ……びっくりした、キュウビか。」


急に人が居なかった方向から声をかけられたのでびっくりする、もう既に何回もこういうことがあったが慣れないものだな。


「む、なにやら村が賑やかだな。

 何か催し事でもしているのか?」


「デパートという買い物をする施設を作ってな、それの開店特別販売を行っているんだ。

 明日からはカールとウーテとの子どものペトラとハンナの生誕特別販売らしい。」


「おや、ウーテ殿との間の御子も産まれたのか……おめでとう。」


「ありがとう、それよりわざわざ影法師を使って連絡を取るなんて、何かあったのか?」


キュウビはよっぽどじゃないとこちらに連絡を取って来ないからな、何かあったと見て間違いないだろう。


いい発見なら嬉しいんだけど、リザードマン族の時のように襲われているという事もあるし。


「今まで詳しく調べてなかったから見落としがあるかもしれんが、今回ダンジョンを見つけたのだよ。

 村で対応しなければ私が処理してダンジョンコアを破壊しておくが。」


「待て、破壊するのは待ってくれ。

 ダンジョンコアは俺が処理するから、ダンジョンを制圧するにしてもダンジョンコアを持ってきてほしい。」


「それは無理だろう、破壊しないままダンジョンコアを持ち出せば主を守ろうとダンジョンの魔物が発狂して際限なく襲い掛かってくるぞ。」


え、そんなことになるのか……昔のダンジョン制圧は俺がついて行ってその場で想像錬金術イマジンアルケミーを使って大正解だったんだな。


しかしそんな事を知ってるキュウビもすごい、普通そんなこと試さないだろうに。


「分かった、それなら今から誰かにそこへ向かってもらうから狐火を上げて待機しててくれ。

 何か欲しい物があれば持っていってもらうけど、何かあるか?」


「じゃあそのようにしておこう、このあたりは魔物も少ないし集団暴走スタンピードの気配もないから休憩させてもらうとするよ。

 欲しい物か……油揚げ……いや、野菜をいくらか持ってきてもらいたい。」


「キュウビが野菜を欲しがるなんて、最初会った時からは考えられないな。」


「あれは忘れてくれ、村の野菜は本当に美味しいのがわかったからまた食べたくなってな。

 肉はその辺でいくらでも獲れるが、野菜はどうしても不足しがちになるから。」


なるほど、確かにそのあたりに生えてる物は危なくて食べれないだろう……毒なんかがあったら危険だし。


「分かった、頼んでおくよ。」


そう言って俺は再びオスカーの家へ向かった、オスカーなら喜んでダンジョンを見に行ってくれるだろうし。


3つ目のダンジョンコアが手に入るかもしれない、今のうちに何に使うか考えておくとするか。

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