第206話 魔王とクズノハの件でギュンターと話をしに行った。

デパートの開店2日目。


今日も昨日と同じかそれ以上の行列がデパートの前に出来ている、妻達は昨日もほくほく顔で色々なものを買って帰って来ていたが今日も買い物にいくらしい。


「今日は開店特別販売最終日なので楽しみですね!」


「開催期間は4日間だろ、今日を除いてもあと2日あるんじゃないか?」


「明日からは村長の御子誕生特別販売だそうですよ、それとカールの生誕祭も兼ねているとか!」


そういえばそんなことするって言ってたな、てっきり4日間全部ひっくるめているものだと思っていたよ。


「次の稔の季節には私との御子特別販売があるといいな。」


カタリナが羨ましそうに2人を見ている、だがもしそうなれば稔の季節は俺の子ども全員が誕生した季節になるので非常におめでたい。


そうなるといいな。


「それじゃあ俺は昨日話した通り魔王とクズノハの件でギュンターにアポを取ってくるよ、もし可能ならそのまま話を付けてこようと思う。」


「お願いしますね。」


そういって俺は村を出発、子ども達はオスカーとクルトが見ててくれるとのことなのでお願いした。


カールとウルスラは幼いながらも仲良くしてくれているので助かる、もしかしたら将来夫婦になったりしてな。


まだまだ遠い未来を思いながら俺は魔族領へ続く転移魔法陣をくぐった。




魔族領を歩いていると、どこでもデパートの話題でもちきりだ。


昨日利用した人がどうだったかを皆に教えて、次回の開催が氷の季節だというのも口コミで広がってる。


何が売ってるかも話しているが、毎日物が違うと言う噂も流れているので皆興味を示してくれているのがありがたい。


何事も無ければ次回以降の開催も成功するだろうな。


俺は目立つと時間を取られるので深めのフードを被って商人ギルドへ進む、魔族領だとそこそこ顔が知れてしまっているし対策を取ってきて正解だった。


そもそも俺にデパートの事を聞かれても噂程度の事しか答えれない、俺が直接利用したわけじゃないし。


もっと厳重にするなら商品のチェックも必要なんだろうが、そのあたりは各領を信用しているから行わなくてもいいだろう。


問題の声が挙がってきたら都度対策すればいい。


商人ギルドについてフードを取る、受付でギュンターにアポを取ってくれと頼むと「ちょうど今居るのでお待ちください。」とのこと。


良かった、このまま話をして終われそうだな。


「あの、これは今回の件とは関係ないのですが……。」


受付の人が申し訳なさそうな雰囲気で俺に話しかけてきた。


「どうしたんだ?」


「デパートの件なのですが、抽選会をもっと厳重に行うことは可能でしょうか?」


「厳重とはどういうことだ?」


「デパート利用に当選した時にお配りしている割符が闇市どころか商人ギルドで取り合え使えないかという声が出てきてまして。

 このままではせっかくのデパートが犯罪に利用されるのではと商人ギルドでは懸念しているのです。

 在庫が瞬く間に減るほどの一大イベント、はした金程度の犯罪で潰してしまうのはもったいないと思いまして。」


思ったより重大だな、どこの世界でも利用権の転売を考える人は居るのか。


そこから犯罪に持っていっても大したことは出来ないかもしれないが、不安の芽は早いうちに摘んでおくべきだろう。


「分かった、何か対策を考えておくよ。」


「よろしくお願いいたします。」


幸い今回のデパート利用権は確認出来る限り当選した人が利用しているらしい、次の開催まではまだ日にちがあるのでそれまでに話し合っておかなければ。


「村長申し訳ございません、お待たせいたしました。」


受付の人と話していると奥からギュンターが出てきた……奥に見えるのは魔王か?


「魔王様と商談をしておりまして、村長が相手なら待っててもよいぞとお言葉をいただけましたので……。

 あちらの応接室でお話を聞かせていただきます。」


この時期魔王が直々に商談か、違うかもしれないがもしかしたらクズノハとの件かもしれない。


「ちょうど魔王にも関わる案件の話なんだ、3人で話をする事は出来るか?」


「大丈夫だとは思いますが、確認を取らせていただきますぞ。」


魔王に確認を取るギュンター、それを聞いた魔王は俺をチラッと見て笑顔で手招きをしている。


「問題無いとのことです、こちらへどうぞ。」


「済まないな、急な事だったのに。」


「大丈夫じゃよ、急ぎではあるがまだまだ時間のかかることじゃし。

 それより、クズノハからは無事返事を貰えたのじゃよ……改めて礼を言うのじゃ。

 ありがとう、村長。」


「俺は何もしてないさ、クズノハも不安がってはいたが嬉しそうだったし。

 それより今回はまさにその件で話をしに来たんだよ。」


俺がそう言うと2人ともキョトンとした顔で顔を見合わせた後に俺を見る。


「ミハエルとグレーテから聞いたが、式典と食事会をするんだろ?

 それにかかる費用全てを村で持たせてもらう、どれだけ費用がかかっても構わないから過去最大の規模で行ってくれ。

それとクズノハが着るドレスと装飾品も村で準備させてくれ、アラクネ族からいい案が出ているんだよ。」


「何ですと!?

 まさに魔王様ともその件で話をさせていただけてましたが……どれだけ費用がかかるかお分かりなのですか!?」


「そうじゃぞ村長、過去最大の規模なぞ今魔族領にツケている金額をすべて使っても足らぬぞ?」


「それなら村から追加で出す、今まで村が稼いだお金の一部は税収代わりに俺が保管しててな。

 それを全て使っても実現させるつもりだ、もちろん村の住民からも許可を取って使用するから問題無い。」


俺の言葉を聞いたギュンターは固まる、魔王は頭を抱えながら悩んでいる様子だ。


「しかしこれは魔族領で行うべき行事じゃし……。」


「クズノハは村の住民だ、何か物を送ってもいいが――そんなこといつでも出来るしクズノハになら何を無償で渡しても誰も文句を言わないからありがたくないだろ?

 それなら一生の思い出になるこの式典と食事会を、予算など気にせず盛大に行っていい思い出にしてやりたいんだよ。」


「ううむ……確かにどんな煌びやかな式典でも予算を削れるところは削るのが普通じゃ。

 それを気にしなくていいのは私としても嬉しいが……本当に大丈夫なのかの?

 追加で出せる予算とはどれくらいなのじゃ?」


「村全体が今まで稼いだお金の3割ちょっとだな、もし足りなければ魔族領から借りてでも敢行するつもりだぞ?」


それを聞いた2人が今度は笑い出した、何かおかしいことを言っただろうか。


「それだけあれば借りる必要もないじゃろ、心配しすぎじゃ。」


「村長はお金の価値を少々勘違いしておられるかもしれませんな。

 金貨1枚あれば一般領民は数ヶ月ほど楽々暮らせるのですよ?」


それを聞いた俺は驚愕する、金貨ってそんなに価値があったのか!?


一番価値があるのは分かってたが、前の世界で言う1万円くらいだと思っていた。


「すまん、今まで負担をかけすぎていたかもしれんな。」


「何を言います、今まで村とは適正価格でしか取引を行っておりませんから。

 それどころか、村から仕入れる物は適正価格より安いまであるのですから気にしないでください。」


そう言ってもらえると助かる。


「それより村長、クズノハのドレスの案とやらはどんなものじゃ?

 それもギュンターと話し合っておったのじゃが……より良いものならそちらを採用したいのじゃが。」


「そうですね、率直な意見を申しますと造形では村より魔族領や人間領のほうが今まで勝っている物が多かったので。

 魔王様の伴侶になられる方には相応の物を身に付けてほしいと思っております。」


もしかしたらと思ってデザイン案を持って来ておいてよかった。


「こういうものだ、まだ簡単な案だから詳しい物はまた描いてもらうつもりだけど。」


デザイン案を2人に見せると食い入るようにそれを眺める。


「「こ、これは……。」」


2人は口を揃えて何かを言おうとした……村では良かったが魔族領のセンスには合わなかっただろうか。


眺めているまま2人はそれ以上言葉を発さないので、俺は不安になりながら感想を待つ……どういう返事が返ってくるだろうか。

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