第205話 いよいよデパートの開店日だ。
今日はデパート開店の日、いつもより早めに起きて朝のルーティンを行い家族で朝食に向かう。
「デパートの前凄かったですね、あんな行列を見たのは魔族領の神の神殿建設イベント以来です。
まさかこの村であのようなものを見ることになるなんて思いもしませんでした。」
「ホントよね、でも私が村に住んでなくてそんな噂を聞きつけたら利用しに来ちゃうと思うし気持ちは分かるわ。」
「この日のためにクリーンエネルギー機構の研究をキリのいい所まで進めたから楽しみよ。
開催期間は4日間よね、行商が同じ商品の使いまわしをするなんてあり得ないし良い物見つけなきゃ。」
カタリナの気合が凄い、だが2人もカタリナの言葉に「頑張らなきゃ!」と返事をしていたのでカタリナだけではないだろう。
今回俺は関係者通用口から中の様子を見つつ留守番だ、今回は奥様方もデパートの品揃えを見たいらしい。
いつもお世話になっているし、俺としてはデパートが成功すれば満足なので存分に楽しんでほしいな。
「村長も何か欲しい物ある?
もし見かけたら買っておくわよ。」
「珍しい調味料や綺麗な食器があれば買っておいてくれ。
それとあまり見たことのない資材や鉱石なんかもあれば嬉しい。」
「前者はともかく後者は無いんじゃないかしら……。」
カタリナが気を利かせてくれたので思いついたものを頼んでみる、俺も後者にはあまり期待していないが……もしかしたら村の住民を狙い撃ちして持ってきている可能性もある。
もしあれば少々値が張っても欲しい、それに開店特別販売だし割引されているだろうから比較的手に入りやすい金額になっているはず。
交易は大量に必要なもの、試したいものや少量でいいものはこういった買い物で買い揃えるのが一番いいだろうな。
朝食も終わり妻達はデパートへ出発、見送りをして子ども達と見回りに出かけることにした。
カールにはかなり安定感のある手押し車を作って与えると、喜んでそれを使って俺についてきてくれるようになった。
目が離せなくなるから注意深く見てないとダメだが、村の敷地は
水路にも転落防止柵を設置しているので、転ばないようにさえしてれば安心だ。
もし転んだとしてもポーションで傷も治るし準備万端、ペトラとハンナをベビーカーに乗せて俺も出発した。
デパートは既に開店したらしく外に居ても中の行商が売り込みをしている声が聞こえる、かなり熱気が凄いのが分かるな。
外に並んで入場待ちをしている人達も早く入りたそうにしていたり、中での買い物を楽しみにしていたりと様々。
大きい建物を長い期間寝かせるのは少し勿体ないかもしれないが、別の使い方をして生かせばいいしデパート自体は開催して大正解だ。
ふと空を見上げるとドラゴン族が、地上はケンタウロス族が少し急ぎ気味にどこかへ向かっている。
「どうしたんだ、そんなに慌てて。」
「デパートの売れ行きが物凄いらしく、商品の補充をお願いされたのです。
商人ギルドに行けば融通してくれるとのことなので、手の空いたものが補充のお手伝いをすることになりました。」
「そうだったのか、よろしく頼むよ。」
そこまで凄いのか、これは俺が欲しがっていたものは無いかもしれないな……。
後者があれば残っているだろうけど、もし職人のような人も来ていたら買うかもしれないし。
まぁ俺は何も無くても別に構わないけどな。
通用口前に行くと、警備していたミノタウロス族が子どもを見てくれるということでお言葉に甘えることに。
通用口から中の様子を見ると……前の世界であったスーパーの安売りほど迫力は無いがそれに近しい雰囲気を感じる。
真剣に品物を見つつも楽しんでくれている様子が伺えて何よりだ。
というか村から出してる品物の売れ行きが物凄そうだ、客を取りすぎてないか少し不安に感じつつ2階・3階を覗くと何もそんな事は無かった。
1階と同じくらいお客が入っているし、どの行商もニコニコ顔で対応しているので相当売れているんだろう。
陳列している物も少なくなってきているし、補充をお願いするわけだ。
まさかここまで売れるとは思わなかったのだろう、こっちに来るときの荷物はかなりの量だったしそれなりに備えてきたはずだからな。
……場所代取っても問題無さそうだったな。
今回はいらないと言ってるし気にしないけど、開催前に迷惑をかけたのは事実だし。
俺は中の様子を充分知ることが出来たので子ども達を引き取り、引き続き村の見回りをすることにした。
見回りと言っても今日はデパート周り以外ほとんど人が居ないんだけど。
ここ数日見回りがきちんと出来てなかったので、何か不備や痛んでいるものが無いかのチェックという意味では大事。
しばらく見回りをしているとペトラとハンナが同時に泣き出す、何事かと抱き上げてみるとオムツが汚れてしまったようだ。
その場で持ち歩いてた予備のオムツに交換、我ながら手慣れたものだと自画自賛してしまう。
奥様方のスピードには負けるけど。
だがオムツを替えても泣き止まない……これはミルクも必要だろうか?
俺は事前にウーテからもらっていた母乳を温めて哺乳瓶に入れ、2人に飲ませようと口元に持っていく……うぉ、ごっきゅごっきゅ飲んでる。
そんなにお腹が空いてたのか、気づかなくてごめんな。
2人が飲み終わるまで待とうと思い、近くで座っているとクズノハが俺に気付いて近づいてきているのが見えた。
「村長、少しいいかの?」
「大丈夫だぞ、どうした?」
クズノハの表情は何かに思い悩んでいる様子だ……これは恐らく魔王から夫婦の契りを交わしてほしいと言われたのだろう。
それに対しての返事はクズノハの中で固まっていると思ったが、悩むという事は何か問題があるのだろうか。
「先日わるた……魔王とのデート中に夫婦になりたいと申し込みをされての。
もちろん我は嬉しかったのじゃ、そうなのじゃが……村を離れるのが怖いのじゃよ。
向こうで今まで通りに暮らせるか、施政の手助けをうまくやれるか、村と疎遠にならないか。
考えれば考える程不安が出てくる、じゃが魔王と夫婦にはなりたい……どうすればいいじゃろうか。」
よっぽど悩んでいたのか、目に涙を浮かばせながら俺に胸の内を明かすクズノハ。
「大丈夫だ、クズノハは頭も良く働くし魔王の手助けは間違いなく出来る。
それに今は魔族領の商人ギルドは来ているが、城から用事がある時は定期便で伝言を頼んでいるだろ?
伝わらないことがあるかもしれないし、クズノハが魔族領と村のパイプ役になればもっと円滑に物事が進むはずだ。
俺を含め皆はクズノハが魔族領に行っても関係を変えるつもりはないし、もし向こうの暮らしが辛くなれば帰ってきたらいい、その時は喜んでまた村に迎えるからさ。」
クズノハの悩みに俺の率直な感想を述べる、最初こそ険悪な出会いだったけど――現在村でクズノハを嫌ってる人なんて居ない。
そもそも嫌われてる人が居ないし、問題がある人もいないんだよな。
俺が村長を出来てるのはそういう問題がある人が居ないのも非常に大きい、この村に来るまでは問題がある人が少し居るだけで。
俺の言葉を聞いたクズノハはボロボロと泣きながら俺に抱き着く、魔王に少し罪悪感を抱きながらも俺はクズノハを抱きしめた。
「村長……ありがとう。
我はあの時殺されず救われて良かったのじゃ……こんな幸せな事で悩めて嬉しく思うのじゃよ……。
我は幸せになるのじゃ……応援してくれるかの?」
「もちろんだろ、俺の村の住民が幸せの門出を祝わない理由は無い。
村ではびっくりするような計画をしているから楽しみにしててくれよ?」
おっと、つい口を滑らせてしまった――だが内容を言ってないし大丈夫だよな。
そう思ってクズノハを見ると涙目のまま膨れっ面で俺を睨んでいた。
「村長、あの時皆がしどろもどろになっておかしいと思ったのじゃ!
何を企てておる、我に話すのじゃ!
当人じゃぞ、知る権利はあるだろうに!」
「ダメだ、これはその時まで楽しみにしててくれ。」
俺はクズノハにポカポカ叩かれながら笑顔で静止する、その後は今までの思い出話をしていると気づいたら夕暮れになっていた。
「おっと、長話しすぎたの。
デパートもそろそろ閉店じゃろうか、行列もすっかり居なくなっておるし。」
「そうみたいだな、じゃあ俺は子ども達を連れて帰るとするよ。
クズノハも子どもが出来たら絶対教えてくれよ、もし不安なら村で産んでもいいし。」
「ふふ、もちろんじゃ。
村で産むのはいいのぅ、出産に対しての処置施設がどれくらい整っておるか見てから決めることにするのじゃよ。
ではまたの、我はデパートの開店期間が終われば城へ改めて挨拶に行くのじゃ。
それから一度帰り出立の準備と挨拶をして、魔族領へ移るつもりじゃ。」
結構早いんだな、しかし魔王への返事を待たせるわけにもいかないだろうし仕方ない。
「その時は盛大に宴会を開いてクズノハを見送るよ。」
「ふふ、嬉しいが別れが惜しくなるの。」
「別れじゃないさ、転移魔法陣を使えばすぐ隣だ。」
「そうじゃったな、時間があれば村に顔を出すとするのじゃよ。」
そう言ってクズノハと別れる――さて、俺は一度帰ってドワーフ族に宴会の準備を頼まなければな。
後は妻達に相談だ、恐らく明日はギュンターにアポを取りに行くことになるだろう。
俺は楽しみと同時に少し寂しさを感じながら家に向かって歩き出した。
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