第202話 デパート抽選会で各領が混乱に陥りかけていたので対策を取った。

デパートの開店準備を見終えたその足で人間領へ続く魔法陣をくぐる。


小屋からこっそり顔を出すと、町まで続く長蛇の列が恐らく駐屯地で行われている抽選会の順番を待っていた。


こんなに人が抜けて人間領は機能しているのか?


いささか不安になりつつも、オスカーを見つけたので小屋の中から呼ぶことに。


俺も人間だし、俺が未開の地の村の村長と知らない人が大多数だろう……何か不正をしていると思われるのも癪だからな。


「オスカー、ちょっと小屋まで来てくれ。」


聞こえるように少し大声で呼ぶと「すぐ行く。」とオスカーから返事があった、聞こえたみたいだな。


しばらくするとオスカーが小屋の中に入ってくる。


「一体どうしたのだ?」


「どうしたもこうしたも……俺とウーテが動けない間に色々決めてたからこっちも大変だったんだよ。

 デパートの成功には繋がっているしありがたかったけど、他に何か俺の知らないことが無いか確認しておこうと思ってな。」


「あれはギュンターとキチジロウが話していたところにワシが混ざって決めたものだ、一緒に居たシモーネも問題無いと言っていたのでそのまま採用という形だ。

 村と魔族領と人間領がデパートに参加、そして二つの領での利用客の抽選会……少々ほかの仕事に抜けが出るくらい反響があるとは思わなかったが。

 それと他に決めていることは特に無い、強いて言うならこの状況をどうにかする方法を村長に決めてほしいぞ。」


無茶ぶりもいいところだ、こんなのどうやったって収まるわけがない。


客の回転率を上げるしかないだろう……だが海を越えなきゃ村にはたどり着けないし、どうしたものか。


「宿泊施設を増設してもいいが、あまり長い間村に滞在させても各領が上手く回らなくなるし。

 いっそのことデパートを期間限定にして商店街は別に作り直すのもいいかもな。」


「なるほど、それならこの客騒動もその期間が終われば収まる。

 しかし皆が納得するかどうか……。」


「他の人達も生活がある、何日もデパートにカマかけてなんていられないんだから不満には思っても納得せざるを得ないだろう。

 今回は稔の季節の開店として、今後は各季節の始まり目にデパートを開店する。

 後は魔族領と同じように人間領にも村へ訪問しやすいよう整備して、通常の買い物はいつも通り……各所が気合の入った商品を取り扱うのはデパート開店時にすればいいんじゃないか?」


「なるほど、希少性に惹かれる性を上手く扱うのだな。

 いい案だと思う、村長がそうするとなれば責任をもってワシが魔族領と人間領に告知をしよう。」


「じゃあそれでいこう、この場で決めるには大きい決定かもしれないが……人間領だけでも最早これは混乱の類だ。

 どこかで収めるようにしなければ迷惑がかかる、行商の皆には俺から説明しよう……今回ばかりは場所代も宿泊代も取らないでおくか。」


ここまで話が大きくなったのは村の責任だし、これだけデパートへの期待が一般の領民にも広がってくれてると分かっただけで収穫だと考えるべきだろう。


「場所代くらいは貰っていいと思うが、そこは任せよう。

 ではワシは人間領へ告知をし、その後シモーネが仕切っている魔族領へ行ってこの旨を通達してくる。」


「よろしく頼むぞ。」


オスカーは小屋から出てデパートの期間限定開店の告知と謝罪をする……オスカーもだいぶ丸くなったよな。


というか人間が好きなのだろうか、魔族領では決してあのような態度は取らなかったし。


そこまで気にする事ではないのかもしれないけど……それじゃあ俺も行商達に告知と謝罪をしてくるか。




「――というわけなんだ、大変申し訳ない。

 商店街は改めて作り直すから、デパートの開店期間が終わって継続して村に出店するなら商店街に店舗を移すようにしてくれ。」


「大騒ぎになったのは知っていましたがそこまでとは……しかし期間限定というのはいい案かもしれません。

 魔族は分かりませんが人間は限定というものに非常に弱い傾向がありまして、それを狙った商法も実際にあるのですよ……それに囚われて質の低い物を売る者が多いのですが。

 ですがここに来れるレベルの行商でそんなヘマをする者はいませんし、季節の変わり目に本気を出させてもらいましょう!」


人間領の行商の目がギラギラと光り出す、とりあえず納得してくれたみたいで良かった。


魔族領の行商はどうだろうか。


「人間領の行商と同意見です、やはり文化は違えどもお客様の性質は似ているのですね。

 ギュンター様も納得してくださるでしょうし、我々も今現在持てる限りの本気を出させてもらいます!」


どちらも納得してくれたようで良かった、後はマーメイド族に伝えればとりあえず問題はなさそうだな。


「そうだ、言い忘れてたがデパートがこうなってしまったのは村の責任だから今回の場所代と宿泊代は全額免除で構わない。

 その代わり次の開店も協力をよろしく頼む。」


「何を仰っているのですか、それは結果論であり戦略としては非常に良い物です!

 私達もお客様の頭数が確保されている以上、場所代と宿泊代を差し引いても儲けがありますから遠慮なさらないでください!」


「当初構想していた運営とかけ離れたものになったのは変わりない、俺がそうしたいし村の皆にも伝えておくから安心してくれ。」


行商達から払わせてほしいとお願いされたが断る、村の所為で領を混乱させてしまった責任もあるからな。


それで許されるわけではないが、せめてものお詫びとして無理矢理納得してもらった。




魔族領も心配になったので様子を見に行くと、人間領とさして変わらない状況になっている。


うん、場所代も宿泊代も貰わなくて正解だな。


物陰から見るだけでも相当な長蛇の列になっているのが分かる、だが「期間限定なのか、なら次回でも……。」という声が少なからず聞こえているのでオスカーの告知は終わった後なのだろう。


思ったより不満が出ずに納得してくれているのは幸いだな、前の世界より圧倒的に民度が高いのは助かる。


「おや村長、様子を見に来たのかの?」


呼ばれたので振り返ると魔王が立っていた、村を訪問しに来る途中だったのだろうか……この混雑の中来なくてもいいだろうに。


「そんなところだ、今回は村の不手際で混乱を招いてしまって済まなかった。」


「何を言うのじゃ、これくらい混乱でも何でもないし商人ギルドはたんまり稼がせてもらうはずじゃし。

 その税収で領も潤う、1日2日少し機能しないくらいで揺らぐほど魔族領はやわじゃないので安心してほしいのじゃよ。」


領のトップからそう言われると安心するな、だが謝罪はしないと俺の気が収まらないのでさせてもらう。


「そんなことより村長に相談があるのじゃが。」


「俺が聞けることなら何でも話してくれ。」


魔王が魔族領の混乱をそんな事と一蹴するのに俺は戸惑ってしまう、さっきは施政がうまく行ってるなと感心したのに。


「クズノハに夫婦の契りを申し込みたいのじゃが、魔族領にクズノハを招いてもいいじゃろうか……それが村の負担にならぬじゃろうか?」


「もちろんだ、村総出でお祝いさせてもらうよ!

 村の事は心配しなくていい、魔王と結婚したらクズノハが魔族領に行くのが普通だし本人も分かっているだろう。

 クズノハに用事がある時は村から依頼をさせてもらうから安心してくれ。」


「そうか……村長の口からそれを聞けて安心したのじゃよ!

 今日はせぬが近いうちに夫婦の契りを申し込ませてもらうのじゃ。」


「頑張ってくれよ、応援してるからな。」


魔王は俺と話が終わると村へ続く魔法陣をくぐっていく、そして俺は魔王との会話を聞いて顔のにやけを抑えるのが精一杯だったので一人でにやけさせてもらう。


やっと村に大量にあるお金を使う時が来たぞ、今度は妻達だけじゃなくクズノハ以外の村の住民皆に報告と相談だな。

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