第201話 村に人間領の行商が到着した。

ドラゴン族が人間領の領民を乗せて村へ帰還した、まだ全てのドラゴン族が帰ってきたわけではないみたいだが。


「村長、こちらの方々が人間領から村のデパートに出店される行商の方々です。

 商品は他のドラゴン族が輸送しておりますので、しばらくすれば到着するかと。」


「ご苦労様、案内や説明は俺がやるからゆっくり休んでくれていいぞ。」


「ありがとうございます、後日抽選会に当選した人間領のデパート利用希望者が到着すると思いますので。」


抽選会なんてやっていたのか、というかそれほど競争率が高いのに驚きだ……だが上限人数を決めて誘致するとなると公平な方法ではある。


あのオスカーが一個人に忖度して結果を操作するとは思えないしな、ダンジュウロウにすらハズレならハズレだと言い放つだろうし。


魔族領もハインツが向かっていると聞いた、生真面目な性格だしこちらも不正はないだろう。


俺は行商に挨拶をした後、宿泊施設の場所を伝える。


流石にまだ使える状態では無いだろうし、まずは場所だけでも説明しなければな。


「ここが使ってもらう宿泊施設だ、魔族領の行商と共同利用でしてもらう。

 施設の管理はラミア族がしてくれている、何かあれば担当のラミア族に言ってくれれば対応してくれるはずだ……今日作ったばかりで今は準備中だろうが。」


「村長、お部屋の支度は完了しているのでお荷物を置く程度はしてもらっては?」


俺が説明しているのと聞いたのか、ラミア族が既に使えるようにしてくれているのを報告してくれた。


生活魔術恐るべし。


「……使えるみたいだ。

 荷物が多い人もいるし今日は荷物を置いて休んでくれ、村が気になる人はその後各所に設置してある案内板を参考に村を観光してもらって構わないからな。」


「ここの利用料金はいくらほどでしょう?」


「今回は急なことだし無料でいい、だが次からは適正な料金をいただくつもりだ……と言いたいんだが適切な料金が分からないんだよな。

 人間領や魔族領で宿泊施設ってどのくらいで利用できるんだ?」


「質によるとしか申し上げれません、まずは利用してみないことには適正な値段をお伝えすることは難しいと思います。」


それもそうだ、前の世界でも格安ビジネスホテルから高級ホテルや旅館なんか色々あったし。


「では利用した後感想と適正値段を教えてほしい。

 それとここでは食事は出ない、あくまで休んだり寝たりする場所だから注意してくれ。

 食事は広場の向こうにある食堂で頼むぞ。」


「分かりました、飲み物が無いのは少々不便ですね……。」


確かに、そう言われれば風呂も飲み物もないから本当に寝るしか出来ない施設になってしまっている。


「妻と相談して急いで作るよ、その間に休んだり観光したりしててくれ。」


俺は行商達にそう伝えて家へ走り出した、行商達からは「え、今から?」という声が聞こえた気がしたがせっかく来てくれたのにこっちの不手際で不快感を与えるのは不服だ。


食堂に関しては理由があるから仕方ないけど。




家に帰り先に帰宅していたウーテに事情を説明すると「仕方ないわね……。」と少し面倒そうにしながらも了承してくれた。


俺の確認不足で済まない。


倉庫から資材を取って宿泊施設へ、そのまま廊下の先に風呂と給水所を設置。


給水所はいくつか作ってある程度不便が無いようにしたつもりだ、缶やペットボトルが無いから部屋に設置できないのが残念だが。


でもアルミニウムも石油もあるしやろうと思えば可能だが……ゴミの分別が大変そうなのでやめておこう。


作業を終えて施設から出ようとすると数人の行商が見えたので「あっちに風呂と数か所に給水所を設置したから使ってくれ。」とすれ違いざまに伝える。


「え……え?」と行商は固まっていたがお風呂の方向を見ていたので恐らく大丈夫だろう、これで本当にやることが終わったな……やっと休めるぞ。


その足で食事と風呂を済ませる、その間ウーテにペトラとハンナを見てもらい俺が帰って交代。


ウーテが帰って来たので一緒に寝ようとするとウーテがこちらを睨んできた。


「何で一緒に寝ようとしてるの?」


「え、ペトラとハンナが居るし……ダメなのか?」


「私は大丈夫、本当に困ったら呼ぶから。

 それより今はカタリナさんとの子を成すために行動してあげてほしいわ、ペトラとハンナは嬉しいけどこのままだとカタリナさんが可哀想だもの。」


それがウーテの意見なら仕方ない……俺としてはペトラとハンナは産まれてすぐだから見てあげたかったのはあるが。


だがこれが複数の妻を持つという事だろうな、慣れない気持ちだし子どもが可愛いが仕方ないのかもしれない。


言われてみればメアリーもカールが産まれてからあまり一緒に寝なくなったな、こういう理由だったのか。


たまに一緒に寝ないと拗ねてしまうけど。


「分かった、じゃあカタリナのところへ行ってくるよ。」


そうウーテに伝えてカタリナの寝室を訪ねると本人は研究に疲れたのか資料と図面を机に広げたままそこに突っ伏して寝ていた。


「カタリナ、こんなところで寝ると体を悪くするぞ。」


「んん……村長?

 ごめん、ちょっと寝ちゃってた……それよりペトラちゃんとハンナちゃんはどうしたのよ?」


俺は事情を説明するとカタリナに深いため息をつかれる、何か悪いことでもしただろうか。


「深く意味を捕え過ぎなのよねウーテは、軽い気持ちで子どもいいなぁってこぼしただけなのに。

 私は村長との子どもを諦めるつもりはないから気をつかわなくて良かったんだけどな、産まれたての子どもなんて可愛いに決まってるんだから……村長も可哀想にね。

 でもせっかく来てくれたんだし、今日は張り切らせてもらおうかしら。」


さっきの疲れてた表情はどこへやら、舌なめずりをされて俺はベッドに押し倒されてそのまま求められるがままに肌を重ねた。




次の日の朝、カタリナに起こされて目を覚ます。


「ふぅー……昨日はスッキリしたわ。

 これで子どもを授かれると完璧なんだけどね。」


やり切った表情でそういう事を言わないでくれ、ちょっと恥ずかしいから。


太陽の位置を見ると朝が来て少し経ったくらいだ、ちょっとデパートの様子を見てからその後人間領に行ってオスカーと少し話をするとしよう。


デパートに行くと続々と出店準備が進められていた、特に希望は無いので今回飲食を扱う事は無いのだろう。


3階に行くと人間領の行商から声をかけられる。


「村長、あの宿は最高級です。

 お風呂という楽園のような設備に顧客全員に配慮した給水所、それに寝心地抜群の寝具……そしてラミア族の皆様による丁寧な対応。

 どれを取っても一級品です、王族の方々が利用されても問題無いほどでした。

 よって適正金額は金貨2枚以上です、それ以上であっても誰も文句は言わないでしょう。」


嬉しい評価だが一晩寝ただけで金貨2枚は流石に貰いすぎな気もする……次回までに金額を話し合っておかないととんでもないことになりそうだ。


それより結構な人数が利用したはずなんだが、ラミア族3人で本当に回し切ったのか……すごいなラミア族。


「ありがとう、参考にさせてもらうよ。

 ちなみに金貨2枚払ってデパートに出店したとして、利益は出るのか?」


感想を聞いて満足したのは分かったが、そこに泊まったうえ場所代を払って儲けが出なければ利用してくれないだろう。


流石に野宿されてまで出店は避けてもらいたいし。


「客入りによりますね……魔族領の行商から聞いた利用者数が常に入ってくれれば問題無いとは思いますが。」


「分かった、それも含めて話し合ってみる。」


デパートの場所代も見直したほうがいいかもしれない、商店街より空き店舗が目立つようになるし極力常に埋まっててほしいからな。


村に貨幣が集まる葛藤はあるけど、せっかく作ったんだし成功させたい。


行商から貴重な意見を貰えたし、出店準備は順調なのも分かったので人間領へ向かうことに。


オスカーが決めたことを詳しく聞かないとな。

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