第203話 魔王とクズノハが夫婦の契りを交わす件について話し合いを始めた。

村に帰ると「村長、デパート開店日のお知らせを記した告知物です。」とケンタウロス族から渡された。


どうやらラミア族が印刷したものをケンタウロス族やハーピー族など、移動に長けた種族が配っているみたいだな。


内容を読むとデパート開店は3日後に決定だそうだ、あの混乱を収める時間と移動時間を含めたらそのくらいが妥当だろう……何なら少し急いでるくらいだが、行商達も領に帰って仕事があるだろうし仕方ない。


だがまだ開店日まで3日あるのは有難い、俺は魔王とクズノハについて話し合いをしたいからな。


俺は告知物を持って家に帰り、それを妻達に見せた後「魔王とクズノハの事で話があるから手が空いたらリビングに来てくれ。」と伝えると、その10秒後には集まっていた。


早すぎる。


カール・ペトラ・ハンナの3人も集合していた、子どもに聞かせても分からないだろうが……まだ小さいし仕方ないか。


「たまたま家に居て良かった、こんな楽しい話なかなかないもの。」


いつもは研究施設に居る時間のカタリナだが、今日は早めに切り上げて帰って来ていたらしい。


3人の意見が聞きたかったので俺も運が良かったよ。


「クズノハは村の住民だ、それを魔族領へ送り出す……しかも魔王と結婚なんてこれを盛大に祝わない理由は存在しないし、この事案に村のお金を使っても問題無いという認識でいいよな?」


「えぇ、前も言われてましたがそれで問題無いはずですよ。」


「私も賛成、クズノハさんにも魔族領にもお世話になってるし。

 しっかり恩返ししてあげたいわ。」


「私も2人に同じよ。」


村に結構な額が貯まっているので、恐らく何でも出来るだろう……それに魔族領にツケている早く消化してほしいお金もあるという事だし。


問題は何をするかだ、村に結婚式という概念は無かったが魔族領にはあるのだろうか?


「まずは食事ですね、村からドワーフ族の派遣も検討するべきでしょう。」


「後は魔王さんとクズノハさんの衣装もね。

 村から仕立ててもいいと思うけど、魔族領で開かれる食事会だし魔族領で最高級のものを送ってあげるべきじゃないかしら?」


メアリーとウーテから意見が出る、食事は確かに重要だな。


「夫婦の契りなんて日常だけど、魔王さんほどの重要人物なら式典のようなものがあるんじゃないかしら?」


カタリナから結婚式のようなものがあるかという意見も出る、俺はそれも知りたい。


「え、公衆の面前でまぐわうの!?」


メアリーが顔を真っ赤にしてカタリナにツッコミを入れる、そんなことは絶対にさせないししないだろうから安心してくれ。


カタリナはメアリーのツッコミがツボに入ったのか大笑いしている、メアリーはそれを見てさらに顔を真っ赤にして俯いてしまった。


ウーテも肩を震わせてプルプルしている、2人ともそれくらいにな?


俺も笑いそうだったけど。


その後話し合いを続けたが、明日ミハエルとグレーテを呼んで話し合いを開かないと文化が分からないという事で家族だけの会議は終了し就寝することに。


明日ミハエルとグレーテから話を聞いてしっかり決めることにしよう。




次の日、俺と妻達で話し合いの声掛けを行っていると流澪から声がかかる。


「ねぇ、今日カタリナさんって研究施設に来れないの?」


「すまん、今日は村の話し合いがあって難しいかもしれない。

 遅れてもいいなら行くように伝えるけど、どうする?」


「頼みたいことがあったけど話し合いなら仕方ないわ。

 でも村の運営についてなのよね、私も勉強がてら参加させてもらっていいかしら?」


いつもならそうなんだが、今回は村の運営とはあまり関係無い。


俺は当人には話さないという約束を交わして今回の内容を告げ、参加をするかどうか聞いた。


「そんな楽しい事の話し合いなんて参加するに決まってるじゃないの!」


やはり女性はこういう話が好きなのだろう、参加を決めると「今日の研究は中止って伝えてくる!」と研究施設へ走っていった。


そこまで気になる内容か、だが俺も流澪の立場なら間違いなく気になると思う。


その後、魔王が現在この村に滞在しているので広場での話し合いはまずいという話になり急遽場所を変更。


魔王もクズノハも絶対に入って来なくてそこそこのスペースがある村の外じゃない場所……ということでダンジョンが選ばれた。


「仕事の邪魔にならないようにしてね、それと後で私も参加するわ。」


「私も興味があります、是非途中からでも拝聴したいですね。」


シュテフィとアラクネ族に許可を取ってダンジョンの一部を貸してもらえることに、少し埃っぽいが仕方ないだろう。


「さて、皆ダンジョンで話し合いという特殊なことになったが参加してくれて嬉しいよ。

 今回は魔王とクズノハが夫婦の契りを交わすだろうという件についてだが、まずは魔族領の文化について聞きたい。

 魔王という最重要人物が夫婦の契りを交わす時、何か式典はあるのか?」


「もちろんあるわ、領民全員が城に集まって魔王の伴侶になる者を祝福するの。

 魔王も伴侶もその時代に作れる最高級の服を身にまとい、しっかり着飾るから見ごたえがすごいと聞いたことあるわ。

 ……でも、今回は神の神殿でやりそうね。」


聞いたことがあると言うのに不安を覚えたが、よくよく考えたら親の式典を見ているわけがないし今の魔王はまだ独り身。


聞いたことしかないのも仕方ないよな。


「私も歴史書で見ましたが本当にお祭り騒ぎだと記されてましたね、まさか私が生きてる間にその式典に立ち会えるなんて感動ですよ!

それと、それと食事会も数日に渡って開かれるとか。

 その間は領民全員が仕事を忘れて、ひたすら食べて飲んで騒ぎながらも魔王と伴侶の末永い幸せと魔族領の繁栄を願うそうです。

 そうすることで神にも魔王が夫婦の契りを交わしたと伝わって恵みがもたらせられるとか。」


「そういえばそんな事を大臣が言ってたわね、興味ないから聞き流してたけど。」


自分の故郷の伝統を聞き流さないであげてほしい、というか王族なんだから最低限の知識は持っておいた方がいいだろうに。


ミハエルとグレーテから意見が出ると「そういうのもいいなぁ。」と村の住民から声が挙がる、もしやりたいならやってもいいぞ。


実際めでたい事だし、皆でお祝いするのは悪くないことだ。


「式典や催し物はそれくらいか?」


「そうね、後は内々で開かれる何かはあるかもしれないけど……領民が関われるのは式典と食事会じゃないかしら?」


「分かった、俺はその2つの催し物を村の資金で許す限り豪勢にしてクズノハを送り出したい。

 前に話してた村のお金でやりたいことがあると言っていたのはこれなんだが、何か意見はあるだろうか?」


俺が参加者に聞いてみると、特に反対意見も出ず全員が賛成。


優しい住民で良かったよ、と思いながら解散をしようとするとシュテフィとアラクネ族が仕事を終えて顔を出した。


「あら、もう終わったの?」


「あぁ、村の資金で魔族領の催し物を豪勢にしようという話でまとまったよ。」


「クズノハさんのドレスはどうするの?」


「魔族領で作れる最高級の物を着るのが仕来りのようになってるみたいだが。」


俺がシュテフィの問答に答えていると、少し考える様子を見せるシュテフィ。


「ミハエルさんとグレーテさんに聞きたいわ。

 今回魔王さんとクズノハさんが夫婦の契りを交わしたとして、魔族以外から伴侶が出た例は過去にあるかしら?」


「ないはずよ、そもそも外部との交流が盛んになったのはこの村が出来てからだし。

 今回だって家臣からは反対意見が多かったと聞いてるから、前例のない事なのは間違いないわね。」


「同意見です、そのような文献は読んだこともないですし。」


「それなら、この村からクズノハさんのドレスを出して送っても問題無いわよね?

 ちょうど仕事中にアラクネ族と話してて、いいドレスの案が出来たのよ。」


そう言いながら近くにあった羊皮紙に案を描いて皆に見せる。


「「ウェディングドレス……!?」」


俺と流澪が声を揃えて驚く、俺達の反応を見た皆はキョトンとしていた。


これは説明しないと分かってもらえないな、話し合いはもう少し長くなりそうだ。

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