第198話 ウーテとの子どもの名前を必死に考えた。
「もう入って大丈夫ですよー!」
外で惚けていると助産師が俺を呼ぶ声がしてハッとする、双子と聞いてずっと固まってしまっていたみたいだ。
ウーテと子どもに会えると思って処置施設に入ろうとすると、ウーテの大笑いする声が聞こえる……もうそんなに元気なのか?
「あははははっ!
何それ2人ともどうなってるの、ふふふ……!」
中に入るとウーテがオスカーとクルトを指差してお腹を抱えて笑っている、2人ともまだ目隠しと猿ぐつわをしていたので俺もふふっとなってしまった。
「2人の協力無くして無事に出産することは出来なかったんだから、あまり笑ってやるなよ?」
「分かってるわよ、何となく覚えてるし……皆迷惑かけちゃってごめんなさい。
2人もありがと……ふふっ。」
ウーテは笑いながら2人の目隠しと猿ぐつわを外す、外れた瞬間同じ顔をして「ぷはーっ!」と息を吸った。
普段あまり感じないけど、やっぱりこの2人も親子なんだな。
「ウーテったらひどいよ、あんなに笑って……。」
「こんな辱めを受けたのはこの世に生を受けて初めてだ……。」
2人ともしょぼくれている、後で特別に何か振舞ってあげないとな。
「そういえばウーテはもう元気なのか?」
「最近は無かったけど、悪阻を止めるために村長のポーションを持ち歩くのが癖になっちゃってて。
お産が終わったからさっさと飲んだのよ、もうすごく快適!」
そうだったのか、思わぬところで役に立ったな。
カタリナの時には持っていってあげよう、産湯だけだと頑張って産んでくれた人が可哀想だし。
「はーい、赤ちゃんの体も綺麗になりましたよ!」
助産師が産湯で体を綺麗に洗ってくれた赤ちゃんを抱いてくる、2人とも女の子だ。
やっぱり産まれてすぐの赤ちゃんは可愛いなぁ……。
「わぁぁ……これが村長と私の子どもなのね。」
ウーテがすっかり母の顔で双子を抱きかかえた、それに俺も寄り添って顔を近くで見る。
「ウルスラとは違う可愛さだねぇ、人の子でもここまで可愛く感じるものなんだ。」
「子を持つとそのあたりの感じ方は変わるな、ワシもクルトが出来るまでは子どもに興味がなかった。
今では他の子も可愛いものよ、ウルスラには負けるがな。」
オスカーの意見には俺も賛同だ、カールが出来るまでは子どもは正直そこまで得意じゃなかったし。
今じゃ種族問わず子どもは皆可愛い、前の世界では結婚して子どもなんてリスクしかないと思っていたが……こういう心の広さを手に入れるためにも重要なんだろう。
そもそも種の本能なんだし、そういう事をしてマイナスになると思うのはその社会が破綻しかけている可能性もある……この村ではそんなことが無いように気を付けなきゃな。
「そういえば2人の名前なんだけど、どうしようかしら?」
「それなんだよな、時間が取れなくてあまり考えれてなかったし……どこかで時間を作って決めなきゃ。」
「なに、双子だとはいえどちらの名前も決まっておらぬのか!?」
オスカーが俺達の会話を聞いて驚く、ウーテの妊娠時期はトラブル続きだったんだ……仕方ないだろ?
「ダメだよ村長、すぐに決めてあげないと2人が可哀想だよ。」
「お二人の言う通りです!」
クルトと助産師にも追撃を受ける、分かってるが……いざ仕事をストップさせるとなるとなぁ。
「ワシとメアリー殿とカタリナ殿で村長代理をやる、ラウラの力も必要ならば借りよう。
ウーテもずっと望んでやっと出来た子だろう、しっかり愛せるよう早く名を決めてやれ。」
「……分かった、その言葉に甘えさせてもらうわ。
ありがとうオスカーおじ様。」
「すまん、恩に着るよ。」
皆にお礼を言って子どもの名前を決めさせてもらうことに、どこかで頼むつもりだったがこんな流れになるとは思ってなかった。
とりあえずウーテも元気になったということで今日は帰宅、家で子どもの名前を考えることに。
「分かりました、それは由々しき自体なのでお二人が納得するまで悩んでください。」
「考えてるのか不安だったけどまさか本当に考えてなかったとはね……クリーンエネルギー機構の研究をしながらだけどやれることはやるわ。」
「2人とも迷惑をかけるな、何かあれば声をかけてくれたら相談と簡単な錬成くらいはするから。」
「ごめんね、少しの間任せるわ。」
メアリーとカタリナにオスカーが言ってたことを伝えると二つ返事で了承してくれた、カールの世話だってあるのに負担をかけて申し訳なく思う。
だが今はこの子たちの名前が最優先だ、せっかく皆が協力して作ってくれた時間だし無駄には出来ない。
寝室に入りベッドに2人を寝かせてウーテとうんうん唸る。
いいアイデアが出てこない、2人同時に名前を決めるとなるとこうも悩むものなのか。
「難しいわね、1人分の名前は考えてたけど双子だなんて……。」
「お腹の重さや大きさとかで分からなかったのか?」
「いやぁ、重いなぁとは思ってたけどこんなものなのかなって。
初めての経験だしそこまで勝手が分からなくて。」
それもそうだ、エコー検査も無しに双子かどうかなんて何回か出産を経験した経産婦じゃないと分からないだろう。
「そういえば1人分は考えてるって、男の子と女の子どっちの名前だ?」
「ホントに何となくの直感で女の子が産まれるって思って、女の子の名前は考えてたわ。
ペトラっていう名前なんだけど、どうかしら?」
「語感も悪くないしいいんじゃないかな、前の世界では同名の世界遺産で交易拠点と治水システムがあったと思うし。
この村でウーテが産んだという子どもにはピッタリの名前かもしれない。」
それを聞いたウーテは手を叩いて喜ぶ、あまりの偶然が重なって嬉しかったのだろう。
ペトラがウーテと同じ水を操れるかどうかは分からないが、母に由来した名前というのも子どもにとって嬉しいはず。
そして俺もペトラの名前を聞いて1つ思い浮かんだ名前が出てきた。
「よし、じゃあもう一人の名前はハンナだ。」
「いい名前だけど、理由はあるの?」
「俺の記憶が確かなら、この名は恩恵や恵みを意味する名前なんだよ。
ペトラとハンナの力でこの村をもっと豊かに……という考えなんだが、どうだ?」
「うん、いいんじゃないかしら!
よーし、あなた達はペトラとハンナよ……今日からよろしくね!」
ウーテが喜びながら子ども達にゆっくり抱き着く、ほんとは勢いよく抱き着きたいだろうが必死に抑え込んでいた。
何故か。
既に2人はスヤスヤと寝息を立てている、まだ授乳もしてないのにこんなに寝るとは。
ウーテから出てくるのに2人も疲れたのかもしれない、寝ている間はゆっくり寝かせてやろう。
「よし、俺はベビーベッドを作る素材を取ってくるよ。」
「分かったわ、よろしくね。」
そう言って外に出るともう朝日が昇り始めていた、ウーテの出産が終わったのが夕方と夜の間だったので結構な時間が経っている。
あっという間に感じたが相当な時間悩んでいたのだろう、どうりで疲労感がすごいはずだ。
俺は急いでベビーベッドの資材を取って戻ってくると、ウーテはスヤスヤと寝息を立ててペトラとハンナの隣で寝ていた。
俺は静かにベビーベッドを2つ錬成し、ペトラとハンナをそこに寝かせてウーテの隣で横になる。
疲労感が凄かったのですぐに眠気が襲ってきた、明日は皆にお礼を言わないとな。
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