第199話 俺とウーテが仕事を抜けている間に村は色々動いていた。
ペトラとハンナの名前を決めた次の日、と言っても俺が起きたのは太陽を見る限り昼過ぎだけど。
ウーテはまだぐっすりと寝ている、ペトラとハンナも夜泣きは一切無かったみたいだし。
カールもそうだが俺の子どもは夜泣きしなくて非常に助かる。
リビングに行くとメアリーが普段着から狩り装束へ着替えをしていた。
「おはよう、昨日は助かったよ。
おかげで2人の名前も決まった。」
「おはようございます、お名前は何というのですか?」
「ペトラとハンナだ。
ペトラはウーテが、ハンナは俺が考えた名前で2人の力でもっと村を豊かにという思いを込めたよ。」
「いい名だと思います、カールに妹が出来て私も嬉しいですよ!
次はカタリナとの子ですね、私と2人目でもいいですが……。」
メアリーが照れくさそうに言う、俺はどちらでも授かれば嬉しい。
心情的にはカタリナとの子どもを授かりたいけどな。
「あ、開様に報告が一つ。
デパートの開店が延期になりました、まだ数日先になりそうで……ラミア族の告知物も発行済みです。」
「この後見に行こうと思ってたんだが、まさか延期したとは思ってなかった。
もしかしてペトラとハンナの出産が理由か?」
「少なからずは理由にあるかもしれませんが、主な理由は人間領の行商の出店準備が整ってから開店しようと。
試乗会でキチジロウさんから懇願されまして、オスカー様が村の住民と魔族領の行商と話をしてくれてそのようになったと伺ってます。」
確かにそこまで気が回らなかった、せっかく開店特別販売をするのに人間領だけ参加出来ないのは可哀想か。
「今回オスカーには世話になりっぱなしだ、何かお礼をしなきゃな。」
「そのオスカー様ですが、人間領の行商と商品を運ぶため人間領でドラゴン族の指揮を執られてますよ。
開様には人間領の行商が泊まれる施設を作っておいてくれと伝言を預かってます。」
デパートの開店延期と同じくらい重要な伝言じゃないか、割とのんびり伝えられたけど。
「じゃあ俺は宿泊施設の建築に向かうよ、色々とありがとうな。」
「いえいえ、では開様も起きたことですし私は狩りに出てきますね。」
着替えを終えたメアリーは家を出る、狩り装束の下にサラシをがっちり巻いてるなんて思ってなかった……痛くないのだろうか?
と、そんなことを考えている場合じゃない……ウーテを起こしてペトラとハンナに授乳してもらってる間俺は宿泊施設を建築しなきゃな。
俺はウーテを起こしにいくと、既に3人とも起きて元気に授乳をしていた。
「――という事らしい。
ちょっとペトラとハンナを任せるぞ、他にやることがあれば奥様方に預けたら問題無いはずだ。」
「私たちが村の仕事から離れている半日程度で結構な事が決まったりしてたのね。
ペトラとハンナは任せて大丈夫よ、何をすればいいかとかは奥様方からきっちり教え込まれてるから。
施設の建築は村長が一任してるんだからよろしくね、ここまで来たらデパートの開店は村だけの問題じゃないし……あれはもう3地域の共同施設と考えるべきだわ。」
確かに村・魔族領・人間領のどれが欠けてもデパートは成功しないだろう、ウーテの言葉を肝に銘じておかないと。
「分かった、ありがとう。
それじゃ行ってくる。」
3人に挨拶をしてすぐに着替えて家を出る。
道中考えたがついでに魔族領の行商の宿泊施設と共同にしてもいいかもな、いろいろ計画しながらまずは施設区域の土地の選別に向かった。
土地の選別が終わりミノタウロス族とケンタウロス族に資材を運んでもらうようお願いしにいく、このやり取りもこうも回数を重ねると不便だな……何とか出来ないだろうか。
俺は資材を運んでもらっている途中考えたがいい案が思い浮かばない、一応転移魔法陣で時短は出来ているから今は様子見でいいのかもしれないけど。
思いついた案は倉庫前に常駐を置くことだが、人の無駄づかい過ぎるので却下。
とにかく今は宿泊施設を作ることに集中しよう、ドラゴン族が一丸となって人と資材の輸送をしているならそこまで時間もかからず村に到着するはずだ。
休んでいる魔族領の行商に人間領の宿泊施設を併設していいか聞いてみると二つ返事で快諾、新しい取引先が見つかるかもしれないということだ。
休む場所なので仕事はほどほどにしていいと思うが、商人の性なのだろうな。
以前魔王から別の種族の場所で長期間滞在するのはお互い嫌がっていると言っていたが、この村は異種族の集まりみたいなものなのでその感覚が麻痺しているのかもしれない。
お互いをきちんと分かり合えば決して悪くないはずだ、この村でそういう雰囲気も構築していければと思う。
閑話休題。
休んでいるところ悪いが宿泊施設から一度外に出てもらい、
「おぉぉ……これが神殿を一瞬で建築した神の御業ですか。
遠目では見てましたが間近で見ると物凄いですね。」
「正しくは神から与えられたスキルだがな。
実際すごいし便利だよ、これがあるからこそ他の種族が村に来てくれたし。」
「なるほど、村長が神のように感じるのでそれは失念。
そういえば遅れました、お子様の御誕生おめでとうございます!」
流石にそれは言い過ぎだ、俺はこのスキル以外普通の人間だし。
「ありがとう、流石に大きい村でもないし噂話は流れるのが早いな。」
「いえ、号外とやらが出ていましてそれが村中に配られておりましたよ?
開店特別販売と別に村長の御子様誕生特別販売も一緒に行うとか。」
待て、それは何も聞いてない。
そんな事したら魔族領や人間領の行商の売上が無くなってしまうんじゃないか?
特別販売をするのはいいけど程々にしないと、安売りすればいいってものじゃないと思うが。
「売上はきちんと取れるように値段設定をしてくれていいからな。
無理な値下げはしないように村長の俺からお願いするよ。」
「それはもちろんですが、相当な客数が見込めますので少々下げて問題ありません。
それに今回はデパートという業務形態の勉強も兼ねていますし。」
「勉強してもらうのは構わないが、客数はここにいる人数以上は見込めないだろ?」
「ドラゴン族とケンタウロス族の皆様が魔族領と人間領から1日の上限人数を決めて客を誘致すると聞きましたよ?」
俺の聞いてない話が行商の口からバンバン飛び出してくる、行商の宿泊施設だけじゃ足りないんじゃないか?
「すまん、それは誰から聞いたものだ?」
「この号外に書いてあります。」
行商から号外を見せてもらうと確かに書いてある、メアリーから何も聞いてないんだけど……これは知ってるのか?
「ありがとう、ちょっと俺も聞いてない話だから確認を取ってみるよ。
だが告知した以上うまくやるから安心していいからな。」
俺は号外を発行したラミア族に確認を取るため印刷所へ走り出した、一体どこで話がここまで広がったのか。
「オスカー様から聞きましたが……ダメでしたか?」
ラミア族は俺から問いただされて不安な表情を浮かべる……うん、これは周りの誰にも相談してないな。
全く。
「分かった、俺も寝耳に水でびっくりしたが戦略としては間違ってないから何とかするよ。
ラミア族は悪くない、この号外も撤廃しなくていいからな。」
俺の言葉を聞いて安堵の表情を浮かべるラミア族、報告を受けた段階では村長代理でありドラゴン族の長であるオスカーの言葉を疑う余地も無かったのだろう。
これを機に宿泊施設を数棟増設することにするか、数百人は泊まれるようにしておけば問題無いだろうが食堂のパンクは心配だな。
果たしてドワーフ族は大丈夫だろうか。
「席さえ準備してくれりゃ対応するわい、それに広場を解放して好きなものを取って食べるようにしてもいいしの。
それなら1つの料理を大量に作りゃええから手間もかからず量が準備出来るぞい。」
確認を取ると心強い答えが返ってきた、しかしバイキング形式はいい案だな。
よし、宿泊施設を作った後は広場に机と椅子、そしてガラスの屋根を建てるとしよう。
そう思い立った俺はもう一度ミノタウロス族とケンタウロス族に資材を運ぶようお願いしに向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます