第197話 ウーテのお産が始まった、俺は風呂場で待機だけど。
ウーテに陣痛が来たかもしれないと助産師の下へ駆け込む。
事情を説明すると即座に準備して俺の家まで走っていってくれた、ケンタウロス族の助産師が飛び出していったのであっという間に見えなくなる。
「村長は産湯とタオルの準備を!
カール君とウルスラちゃんを見てるんだから勝手は分かるでしょ?」
「任せておけ、風呂場で待機しておく。」
それくらいしか俺には出来ないからな、後はその道のプロに任せるとしよう。
俺が風呂場へ向かっている途中にウーテが運ばれているのが見えた、苦しそうなウーテが見えて心配が込み上げてくる。
どうか母子ともに無事でありますように……前の世界と違って医療技術が発達してないからこの不安は何回目でも襲ってくるんだろうな。
俺が風呂場の前で桶を持って待機していると、シモーネがウーテの容態を伝えに来てくれた。
「今のところウーテも子どもも無事よ、それにあの痛みは陣痛ね……もうすぐ産まれると思うわ。」
「そうか、わざわざ伝えに来てくれてありがとう。
そういえば慌しさの連続で名前の相談をそこまで出来てなかったな、産まれたらしっかり相談して決めてあげなくちゃ。」
「それは大変ね、決まるまでは村の住民で仕事を対応するよう伝えるから決めてあげるといいわ。
村長の第2子だもの、誰も文句は言わないはずよ。」
そうだといいんだが、デパートとか人間領の対応とか慣れないことも多いし気が引けるんだよな。
だが子どもが大事なのは間違いない、負担をかけると思うが皆に甘えさせてもらうか。
ウーテのお産が始まって3時間程経過しただろうか、まだ産まれたという報告は入って来ない。
それどころかお産を行っている建物では慌てた様子の人達が出たり入ったりしている……それも大量のタオルを持って。
ウーテに何かあったんだろうか?
しばらくするとオスカーとクルトが呼ばれて入っていく、それを見た俺は桶を地面に放り投げて2人の所へ走り出した。
「待て待て、いくら同じドラゴン族でも男性2人がウーテのお産に立ち会うのは了承しかねるぞ。」
ちょっと怒り気味に2人を連れて行こうとする助産師を止める、俺も立ち会いたい気持ちはあるのに……何か相談があるならシモーネじゃダメなのだろうか。
「すみません、2人に能力を使ってもらわないと能力の暴走に対応出来ないんです。
シモーネさんでは抑えることは出来てもある程度水浸しになってしまって……。
あ、がっちり目隠しはしてもらうので安心してくださいね!
もし外そうものなら餓死寸前まで食事を出さないようにドワーフ族にお願いするので!」
助産師から理由を告げられて納得する、ドラゴン族のお産は大変なんだな……今までどうやってきたのだろう。
それともウーテが暴走しやすい能力なのだろうか、水って様々なところで関わっているからな。
目隠しを外した罰を聞いた2人は恐怖を感じたのかブルブルと体を震わせて「気を付けような……。」とお互い確認しあっていた。
可哀想な気もするがそこに関しては俺も許すことが出来ないので注意してくれよ。
オスカーが恐怖に震えるという大変貴重な姿を見ることが出来たし、理由が理由なので許可することに。
助産師は俺の目の前で2人にがっちりと目隠しをつける――それが終わると猿ぐつわもつけられていた。
「待て、流石に猿ぐつわはやり過ぎじゃないか?」
2人が可哀想になって助産師に聞くと「2人の声が聞こえてウーテさんが不安になっても困るでしょう?」と理由を説明された。
なるほど、もう完全に能力を使うだけのオブジェクトとして扱うつもりだな?
「2人ともすまん……協力してくれ。」
「ふごふごふご。」
なんて言ってるか分からないけど頷いてくれたので肯定の意味だと受け取ることに。
俺は2人を見送り改めて風呂場の前で待機することにした。
2人が応援に入ってさらに1時間、流石に長いな……大丈夫だろうか?
「ウーテのお産まだ終わらないの?」
ずっと処置施設を眺めていると、俺の顔を覗き込みながらカタリナが話しかけてきた。
「あぁ、結構な時間が経つがまだみたいだ。
能力が暴走しているらしく、オスカーとクルトも応援に行って抑え込んでいるんだが……。」
「それは大変そうね……でも処置施設が壊れてないということは上手く抑え込めてる証拠だと思うわよ。
もう外も暗くなってきたし最近の夜は冷えるわよ、家の中で待機したら?」
カタリナが俺の体を気づかってくれている、だが俺はここで待つことを止めるつもりはない。
「別にここで待つからといって何かになるわけでもないが、俺が待ちたいんだ。
産まれたと同時に産湯を持っていってやりたい、それが父として最初に出来る仕事だからな。
これはカタリナとの間に子どもが出来てもするつもりだし、今後授かった子ども全てにしてやりたいんだよ。」
立ち会うことも出来ず、村長としての仕事があり構ってやれる時間もそこまで取れない。
立場上仕方ないことだが、この世に産まれた最初くらいは父親として何かしてやりたいという気持ちが強い。
これはカールの時もそうだった、今後この気持ちが消えることはないんだろうな。
「そうだったのね、そんな話を聞くと無理強いは出来ないわ。
なら私は妻として毛布を持ってきてあげるとしましょうか、私との子どもの時も期待してるわよ。」
「あぁ、もちろんだ。」
カタリナはそのまま家の倉庫に向かって歩いていった、ちょっと肌寒くなってきてたから助かる。
普段は飄々としているのに、カタリナは見るとこちゃんと見ているんだよな……メアリーみたく少し真面目になればいいのに。
――と思ったが、別に今のままでもカタリナは誰かから悪い評価を受けているわけでもないし、あれがカタリナだ。
勢いで夫婦の契りを交わしたものの、今は俺だってカタリナが好きなのは事実なのでそのままでいいと思い直す。
しばらくするとカタリナが後ろから俺に毛布を掛けてくれた。
「体は壊さないようにね、それとカール君は私が迎えに行って家で見ておくから。
安心してウーテのお産を待っててあげるといいわ。」
「何から何まで済まない。」
「お産に関しては何も出来ないもの、これくらいはね?」
「ありがとう、助かるよ。」
俺はカタリナに感謝しながら奥様方の所へ向かうカタリナを見送る、早くカタリナとの間にも子どもが授かるといいんだけどな。
毛布を持ってきてもらってから更に2時間程が経過、流石に長すぎないかと思ったがウェアウルフ族から半日かかったというのも聞いているし……前の世界でも1日以上かかるお産だってあるのを知識として知っている。
焦る気持ちや心配する気持ちはあるが、助産師が何も言ってこないということは手こずりこそすれお産は通常通り行われているのだろう。
もし何か事故があれば俺に声をかけてくるはずだし。
そう思っていると処置施設から産声と歓声が聞こえて来た、産まれたか!?
「村長、村長ーっ!
産まれましたよー!」
嬉しそうな助産師の声が聞こえてくる、俺はそれを聞いて風呂場に入りお湯を持って走っていった。
「やっと産まれたか、無事でよかったよ……。」
「いやぁ、能力の暴走もあったんですがまさか双子とは思わず時間がかかってしまいました!」
……なんだって、双子!?
俺は衝撃の事実を聞いて固まってしまう、助産師は俺の手から産湯を取ってそのまま処置施設へ入っていった。
双子、双子かぁ……その結果は想定外だ。
俺は驚きと嬉しさから変な表情を浮かべながら、しばらく処置施設の前で佇んでしまっていた。
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