第196話 ドラゴン族の試乗会を観察、その後キチジロウとデパートの出店について話し合った。
「すごいすごいー!」
ドラゴン族が人間領の領民数人を乗せて空を優雅に飛んでいる、それも結構な数。
数えれるだけで10人くらい飛んでるよな、乗せてもらうのを待っている領民がものすごい並んでるし。
敷地の外まで列が続いてる、最後尾が見えないほどなのはすごいな。
受付のようなところはリザードマン族、列の整理はウェアウルフ族、周りの警戒をケンタウロス族とハーピー族が受け持っているみたいだ。
「これは何をしているんだ?」
「村長が人間領の領民がドラゴン族を怖がってるから何とかしてほしいと言っていただろう。
ワシもシモーネや他の者と考えたが、トラノスケとやらがドラゴン族に乗っていた警備に役得だと漏らしたのを思い出してな。
乗ってみたい者がいるかどうか町へ聞きに行ってもらうと、そこから瞬く間に希望者が集まって来たのだ。
町中ですると混乱しそうだったので、村で管理している土地で試乗会をしようということになって今現在だな。」
オスカーから得意げに説明される、そういえばそんな事言ってた気がする……よく覚えてたし気づけたな。
自分のことでもあるから気にしながら聞いていたのだろう、一緒に居た俺は普通の会話として受け取っていたし。
かなり好評のようで、怖がっていたと聞いていた様子とは全然違う。
「一体どういうカラクリを使ったんだ?
恐怖におびえる程ドラゴン族を怖がっていたはずなのに、たった1日でここまで怖がらず背に乗るというのはすごいと思うんだけど。」
「ちょうど町の近くに魔物が現れてな、それをドラゴン族で退治して敵対関係では無いと言うのを分かってもらえたのが大きいだろう。
そこから冒険者と警備の者を乗せて町に帰り、他の種族に協力してもらいながら恐怖心を解くため興味ある町人を乗せて空の散歩をした……そこからは芋づる式に希望者が現れたというわけだ。」
なるほど、恐らくダンジュウロウから頼まれていた案件もこれで解決したと思っていいだろうな。
思ったより早く打ち解けることが出来て良かったよ、畏怖していると同時に憧れもあったんだろうな。
恐れているだけならこれだけの人が乗ろうとは思わないはずだし、人間からすれば他の種族は皆憧れでもあるけど……だって身体能力がすごいし。
俺も人間だからこそ人間の無力さは身に染みて分かっている、この世界の種族には逆立ちされても勝てない気がするし。
リッカは例外、最近化け物じみた動きをしてきているから。
「とりあえず平和的に解決出来たようで良かったよ、暗くならないうちに切り上げるんだぞ。
もし終わらないようなら明日も引き続き開催すると伝えて一度終わったほうがいい、人間領にも生活があるだろうし。
俺はちょっとキチジロウに用事があるから町に行ってくるよ。」
「村長、キチジロウさんは今上空ではしゃいでおられます。」
俺の話が聞こえていたのか、受付をしているリザードマン族から声をかけられた。
それより今キチジロウが上空に居るって言ったのか?
商人ギルドの長が何をしているんだと思ったが、そういうことが出来る平和な状況を喜ぶべきだろう。
改めてテンガイと大臣の暴走を止めることが出来て良かったと思う、もしあのままにしていたら人間領はもっと荒んでいたはずだ。
「それなら降りてくるまで待つとするか、駐屯地で待ってるから降りてきたら呼びに来てくれ。」
「うむ、そのようにしよう。」
オスカーが呼びに来てくれるそうなので俺は駐屯地で休憩、デパートやアルミニウムの作成で少し疲れているからな。
だが生命力を消費している疲れではない、単純に疲労だろう……疲れの質が違うし。
「村長、大丈夫か?」
「んはっ、どうしたんだ!?」
オスカーに呼ばれて飛び起きる、どうやら休憩しながら眠ってしまっていたらしい。
「キチジロウが降りて来たのでこちらに招いたのだが……まさか寝ているとは。
儚い命なのだし自分を労わるのだぞ、このままキチジロウを通してよいか?」
「すまん、少し疲れていただけだから安心してくれ。
通してもらっていいぞ、少し長くなるかもしれないし腰を据えて話をしたいと思っていたから。」
俺がそう言うとオスカーがキチジロウを呼んで中へ入ってきた、キチジロウは子どものように目を輝かせてオスカーを見ている。
よっぽど楽しかったのだろうか、ここまで好評なら定期的に開催してもいいかもしれないな。
俺の視線に気づくと少し顔を赤くしながら咳払いをして、いつものキチジロウに戻った。
無理に取り繕わなくていいのに。
「村長、はしたないところをお見せしました。
今回は人間領にご足労されたうえ私に話があるとか、どのような要件でしょう?」
「この間受け取った手紙についてだ、村の商店街を改修して人間領も出店出来るようにしたというお知らせに来たんだ。
交易に関してはマーメイド族からまた通達があると思う、もし出店するならそれを聞いたうえで商品を選別してきてほしいんだが……。」
「マーメイド族から聞いた時は既に入る余地が無いと言われて半ば諦めていたのですが、まさか出店出来るようになるとは!
感謝いたいします、確認次第すぐに準備させて向かわせますので何卒!」
キチジロウが俺の手を掴んで興奮気味に返事をする、男同士とはいえそこまでされると少し照れるから出来ればやめてほしい。
「では出店出来るようにスペースは確保しておく、今のところ村と魔族領と人間領で三分割して余は村で使わせてもらおうと思っているから。
それと1スペースあたり1日金貨3枚を場所代としてもらっているけど、それは大丈夫なのか?」
「その程度で村に出店させていただけるなら願ってもない話ですよ!」
かなり高い金額なのだが大丈夫なのだろうか、村への出店だけが商売じゃないんだから無理はしないでほしい。
それで財政難になるような事だけはしないでくれよ、商売のプロに限ってそんな事はないんだろうけど。
俺はキチジロウと話を終えて外で別れる、俺が小屋に入る前に試乗会の列に並び直すキチジロウが見えたけどきっと気のせいだろう。
転移魔法陣で村に帰ってデパートを見に行くと、マーメイド族や行商の人が続々と出店準備を整えていた。
俺のいない間に話し合ったのだろう、行商の人は皆2階で出店準備を進めている。
マーメイド族は1階、3階には誰も居なかった……階層ごとに種族が分かれているのは非常にわかりやすいな。
そもそもこれは俺が思いついておくべきことだった、移動用の箱と出入り口が無駄になった……かと思ったら行商の人が荷物を運ぶのに利用している。
有効活用してくれていてよかったよ。
皆に話を聞くと明日からオープンするそうだ、誰かから聞いたのか思いついたか分からないが開店特別販売なるものを数日間開催するらしい。
その噂は既に村を飛び越えて魔族領まで届いてるそうだ、明日以降は大混雑が予想されるな。
俺は倉庫に行ってポールとロープを作りデパートに運ぶことにした、さっきも見たけどこういうものがあったほうが列の整理は絶対しやすいだろうし。
そして食堂を向かっている時に、そこかしこに活版印刷で作ったビラが貼られているのに気づいた。
『未開の地の村の商店街が生まれ変わる!
その名もデパート、明日から開店!
お買い得な開店特別販売も、詳しくは村の住民まで!』
周りを見るとビラを持って何を買おうか話し合ってる魔族や住民が多数見受けられる。
一体何部刷ったんだろうな、宣伝効果としては抜群だし使い方は大正解だけど。
家に帰るとメアリーが「やっぱり告知物の大量生産は話の広がる速度が違いますね!」と嬉しそうに語っていた。
そういうのが好きなのだろうか、何かの役には立つかもしれないけど。
俺が良かったな、とメアリーの頭を撫でていると後ろからガタンッ!と大きな音が聞こえてきた。
何事かと様子を見に行くと、ウーテが苦しそうな顔で倒れていた。
「痛い痛い痛い……!」
「大丈夫か!?」
メアリーがお腹に手をやる、赤ちゃんになにかあったのだろうか?
「陣痛かもしれません、すぐに助産師さんとシモーネさんに連絡を!」
一気に家が慌しくなる、陣痛でも病気でも母子ともに無事でいてくれよ……!
俺はそう願いながら走ってシモーネのところへ駆けだしていった。
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