第193話 人間領の将軍と話し合いをしてきた。

リザードマン族に呼ばれて人間領へ移動すると、将軍と数名の兵士が外で待っているのが見えた。


「少し怒っているような口調だった、注意してくれ。」


「分かった、少し警戒しておくよ。」


何も怒られるようなことはしてないが……もしかしたら町へ送った警備の人が歪曲した報告をしたか、将軍が勘違いをしたか。


何にせよ現状で人間領を怒らせるような事はそれしかない、一応人間領を救ったという体で動けているはずだし。


「何かしたらワシが黙らせてやるから安心するがよい。」


もしかしたら本当に悪いことをしているかもしれないから少し落ち着いてくれ、力が強いのも考え物だな。


「失礼、俺が未開の地の村の村長をしている開 拓志だ。

 住民に呼ばれたのだが、人間領の将軍が何か用だろうか?」


「お初にお目にかかる、人間領で軍の将軍を務めているトラノスケというものだ。

 先日は人間領を救ってくれたこと感謝する、だが今回は別件でこちらに来させてもらった。

 ここの警備を務めていた者が、この世の終わりのような恐怖を抱えてこちらに帰還したのだ……何をされたのだろうか?」


そんな事だろうと思ったよ、だって相当怖がってたもんな。


「様々な種族がこの先ここにやってくるから普通の人じゃ怖がらせてしまうと思ってな。

俺達が警備を請け負うついでにドラゴン族が気を利かせて帰還の際に町まで送ったんだよ、それが怖かったのかもしれない。

危害は一切加えていない、それは神に誓って断言しよう。」


俺は事情を説明、それを聞いたトラノスケは「ううむ……。」と悩んでいる様子。


他に何かあるのだろうか、それとも穴や落ち度を見つけようとしているのか……人間領とはトラブル続きだったから少しマイナス思考になってしまう。


「そうであったか……何せ警備からは怖い、怖かった等の証言しか得られなかったものでな。

 通常なら落ち着いてから改めて証言をしてもらうのだが、並々ならぬ様子だったためこうして出向いたのだ。

 しかしドラゴン族を目の前にしてそのまま背に乗せてもらうとは……畏怖の極みとは言え役得だろうに。」


トラノスケが少し羨ましそうにしている、機会があれば少し乗せて飛ぶくらいは口添えしてもいいけど。


「トラノスケとやら、そのようなことでここまで来たのか。」


オスカーが呆れた表情でトラノスケに話しかける、まぁ仕事だし仕方ないだろう……部下が心配なのも気持ちは分かるし。


「そなたは?」


「自己紹介が遅れたな、我はドラゴン族の始祖であるリムドブルムのオスカーだ。

 ドラゴン族の長をしつつ、村長が治める村へ住まわせてもらっておる。」


それを聞いたトラノスケの顔色は一気に真っ青になる、人間の姿だから気づいてなかったのだろう。


そしてすぐさま土下座の態勢になりガタガタ震え出した、どれだけドラゴン族が怖いんだ……。


「これは気づかなかったとはいえとんだご無礼を……!」


「我は何も気にしておらん、それに住まわせてもらっておると言っただろう。

 強さでは我が上だが便宜上の立場は村長が上だ、畏怖してくれるのは嬉しいがな。」


オスカーがそう言うと、トラノスケがすごい勢いで俺に視線を移してきた。


あくまで便宜上だぞ、俺はそこまですごくないから。


「とりあえず話は以上か?

 もし他に何かあるならここで聞くけど。」


「いえ、今回の訪問の要件はこれで以上です!」


土下座の姿勢をしたまま頭を下げるトラノスケ、最初にここに来た時とは態度がえらく違うな……。


トラノスケは起き上がり、俺に一礼をすると足早に去っていった。


「村長よ、人間とはあぁもドラゴン族を恐れるものなのだろうか?」


トラノスケが去った後、オスカーが俺に話しかけてくる。


「普通は怖いと思うぞ、どうあがいても勝てないだろうし。

 他の種族も怖がるだろうけど、人間は身体能力も弱いし魔力も少ないから対抗手段が無いに等しい。

 そういう事も極度に恐れる原因になっているんじゃないかな?」


「そうか、村長が特異なだけであれが人間として普通の反応なのだな。」


俺を異常みたいな言い方をしないでくれ、俺だってクルトが初めて村に来た時はかなり怖かったんだからな。


オスカーとシモーネを見た時も怖かったが、あれはクルトから事前にどんな人物かある程度情報を聞いてたからマシだっただけで。


「とにかくトラブルも無く解決して良かったよ、オスカーもわざわざついてきてくれてありがとうな。」


「これしきの事、気にせずともよい。」


俺はリザードマン族に将軍と話がついたのを伝えて村に帰ることに、駐屯地の皆には何か足りない物や不備があれば言ってくれと伝えておいた。




それから1週間、人間領へ転移魔法陣が開通したことで一番喜んでいるのはハーピー族とマーメイド族だった。


人間領の護衛へ行く際の行き帰りが格段に楽になったそうだ、そりゃそうだよな……今まで魔族領から海を越えて行ってたのが村からすぐになったんだし。


疲れてる中帰りも一瞬、ほんとに早めに開通させて良かったよ。


「村長、キチジロウさんから取引目録の更新と伝言を受け取ってきました。」


「ありがとう、目を通しておくよ。」


俺はマーメイド族から書類と手紙を受け取る、後で目を通しておくか。


それから鍛錬を終え、家に帰り書類に目を通すとびっくりした……これ人間領が出せるほとんどのものが揃ってないか?


逆に何が出せないのか聞きたくなるくらいの品揃えになっている、だって蒸気機関のノウハウとか技術者もあるし。


品物として扱っていい物ではない、このあたりはダンジュウロウから頼まれている気もするな。


もう交代したマーメイド族が言っているだろうし、その次までに何を村に仕入れるか決めておかなければ。


さて、次は手紙か……どれどれ。




内容をまとめるとドラゴン族に畏怖している者が多いので何とかしてほしいのと、人間領からも村の商店街に出店させてほしいとのことだった。


ドラゴン族に関してはオスカーやシモーネに相談するとして……俺が対応出来るのは商店街の出店だな。


だが現在商店街の店のスペースは完全に埋まってしまっている、結構な場所代をいただいてるんだがそれでも魔族領からの出店が後を絶たない状態だ。


魔族領も村も儲かっているなら全然いいんだけどな。


しかし商店街を広げるにしても土地がかなり手狭になってしまう……何かいい方法はないだろうか。


周りは多少空いているが何かあった時のために取っておきたいし、だが今この土地を使う時なのかもしれない。


「拓志、いるかしら?」


俺が商店街のことで悩んでいると、流澪が俺の家を訪ねて来た。


「珍しいな、どうしたんだ?」


「この図面の部品を一度作ってほしいのよ、模型段階だから材料は何でも構わないわ……出来れば鉱物がいいけど。

 ……どうしたの、何かに悩んでるような顔して。」


一目見て分かるくらい険しい表情になっていたか、それはすまない。


「分かった、明日にでも作りに行くよ。

 俺の悩みは商店街の増設についてだ、土地はあるにはあるが使っていいか……どう広げたら効率がいいかと悩んでる。」


「あの商店街いいわよね、ファンタジックな服がたくさんあるし私もいつか欲しいわ。

 今は稼ぐ方法がないから支給されてる服で我慢してるけど……それより増設で悩むってどういうことよ、あの土地に最大限お店を入れるならデパートみたいな形が最適解じゃないの?」


流澪に言われてハッとする、そうだデパートみたいな高層の建物にすれば土地を最大限活用できるし、足りなくなれば上に継ぎ足していけば問題無いじゃないか。


それに店舗用のスペースさえ確保しておけば、入る人が自由にレイアウトしてもいいし俺が想像錬金術イマジンアルケミーでどうにかするのも容易、なんで思いつかなかったんだ。


「ありがとう流澪、その案いただくよ。」


「拓志がいかに前の世界で買い物に行かなかったかがよーくわかったわ……。」


思わぬところでバレてしまったし、俺が思いつかなかった理由も分かった。


とにかく明日はクリーンエネルギー機構の模型部品の作成と、デパートの事を色々考えないと……いや人間領と取引する品物の相談とドラゴン族の問題もある。


「メアリー、明日話し合いを開きたいが大丈夫か?」


「急ですね、おそらく大丈夫だとは思いますが。」


よし、明日皆で話し合って決めよう。


全てを明日の自分と皆に任せて風呂に入ることにした、流澪が追いかけてきたが部品を作ってから話し合いに行くと伝えると安心して帰っていく。


やることはたくさんあるがトラブルじゃないだけ心が軽いし楽しい、明日の話し合いが楽しみだ。

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