第191話 人間領の土地開発の準備と、クリーンエネルギー機構開発研究の進捗確認をした。

「ダンジュウロウ様は本当に最速で動いてくださっていたのですね。

 私達が観光している間に場所の確保と書面の作成まで進めていたとは、最後にリッカさんを呼び止めたのはそれを渡していたのでしょう。」


人間領からもらえた土地の書面をメアリーに見せる、俺もここまで早く動いてくれているとは思わなくてびっくりしたよ。


「鍛錬しながら考えたのは倉庫と駐屯地だな、人間領と似た内容になってしまうが求められるまではそれでいいと思う。

 今のところ魔族領のように戦力を求められているわけではないが、何かあった時にすぐさま報告と応援に行けると助かるだろう。」


「そうですね、私もその2つで今のところはいいと思います。

 後は小規模でもいいのでお風呂があれば寝る前にさっぱり出来ますね、これは魔族領の駐屯地には無いはずなので後で作られたほうがいいかと。」


なるほどお風呂か、いつでも帰れるしと思ったが日を跨いでから交代しているしお風呂があったほうが快適だよな。


盲点だった、人間領の土地に倉庫と駐屯地を建てたら魔族領の駐屯地にもお風呂を作ろう。


ウーテはポーションを飲んで快適みたいだし、早ければそろそろ生まれるんじゃないかとも言われてる。


元気な子を産んでくれ、だけどお風呂を作るのだけは協力してほしい。


本人が無理なら日程を伸ばすけど、転移魔法陣さえ設置してしまえばいつでも行けるんだし。


「ならそのように動こうか。

 見回りがてら建築資材と遠征の準備を頼んでくる、ついでにカタリナと流澪の様子も見てくるよ。」


「そういえば流澪さん、まったく開様に好意を示さなくなりましたね……。」


メアリーが少し残念そうにつぶやく、そもそも俺は好意を向けられた気がしてないんだけど。


気付いてないだけだろうか。


「流澪の剣術はあくまで趣味の一環、本当は機械工学……蒸気機関や俺が頼んだ機構を学んでいたんだよ。

 自分の夢が叶いそうで必死なんだろう、満足するまでやらせておいたほうが本人のためじゃないか?」


「そうだったんですね、道理でリッカさんやリザードマン族より型が少し甘いと思いました。

 想像剣術イマジンソードプレイが規格外なのでそれでも充分なのでしょうが……あれで鍛えると末恐ろしいですね。」


そう言われればあの剣術をそのまま寝かせておくのは少し勿体ない気もする、時間を見て鍛錬もしろよと声をかけておくか。


メアリーは狩りに参加した後鍛錬所へ行くとのことで先に家を出た、俺も見回りと声掛けに行くとするか。




「分かりました、すぐに準備に取り掛かります。

 ドラゴン族にも声をかけておきましょう、今日のうちに出発しますか?」


いつも資材を準備して運んでくれるミノタウロス族とケンタウロス族に声をかける、相変わらず手際がいい。


「いや、出発は明日のつもりだ。

 今日は見回りをしっかりして、カタリナや流澪の様子も見ておきたいからな。

 明日朝食を食べて人間領へ向かうとしよう。」


「分かりました、ドラゴン族にもそのように伝えますね。」


ケンタウロス族はドラゴン族の居住区へ、ミノタウロス族は倉庫へそれぞれ向かっていく。


よし、これで人間領遠征の準備は大丈夫だろう――施設側の見回りが終わればカタリナと流澪の様子を見に行くとするか。




施設側をぐるっと一周回ったが特に異常は無し、印刷所も着々と準備が進んでおり数日中には本稼働が出来るそうだ。


さて、カタリナと流澪の様子を……と思ったがふと疑問が浮かぶ。


どこで機構の研究をしてるんだ?


研究施設は作ってないし、それに類似した施設は村には無い……でもカタリナも夜まで帰って来ないし流澪の姿もあれから食堂でしか見ていないし。


とりあえず心当たりのある場所から当たろうと思い、まずはクズノハの家へ。


居ない。


次はダークエルフ族の居住区……ここにも居ない。


どこに行ったんだと悩んでいると、キノコ栽培をしているダークエルフ族が見えたので声をかけることに。


「なぁ、ダークエルフ族やカタリナ、それに流澪やクズノハってどこで研究をしているんだ?」


「流澪さんの家で研究されてると言ってましたよ、今は意見の出し合いと製図に部品の拾い出しらしいですから。」


え、流澪の家に全員集合しているのか?


いくら機械の組み立てが無いとは言っても、そんな大人数入れる家を作ってないんだけど。


「ありがとう、顔を出してみるよ。」


教えてくれたお礼を言って流澪の家に向かう、一体どういう状況で研究をしているんだろうか。


「入るぞー。」


流澪の家の玄関をノックして中へ入る、するとかなりぎゅうぎゅう詰めになった状態で図面のような紙を全員で睨みながら悩んでいた。


「あ、村長。

 このタービンの部品についてなんだけど――」


「話は後で聞く、まずは研究所の確保をするぞ。

 こんな狭い場所に大人数で集まっても息が詰まっていい意見は出ないだろ……早く相談してくれたら対応したのに。」


「いいの!?」


流澪がぱぁぁっと笑顔になる、やっぱり研究所が欲しかったんじゃないか。


「ほれ見たことか、さっさと相談すれば村長なら何とかしてくれると言ったじゃろ。」


クズノハが流澪を睨みながらつぶやいた。


「そういう意見は出ていたのに流澪が断ったのか……どういうことだ?」


「いつ利益を産むか分からない企画に土地や費用を割いてもらえないと思ったのよ……。

 半分以上は私の願望みたいなものだしさ、厚かましく思われるのが嫌で……。」


「俺からも頼んだことだし、利益の事なんか考えなくていい。

 そもそもこの村の貨幣の価値は魔族領と人間領との取引に使うだけ、最悪それが途切れても村だけで自給自足が出来るようになってるから、無理に利益を出す必要は無いんだよ。」


そう説明すると流澪が膝を落として項垂れた、説明してなかったかもしれんな……すまん。


俺は全員で外へ出て、人間領で使うために用意してもらった資材の一部と、セメントを運んでもらい研究所を想像錬金術イマジンアルケミーで作る。


施設でもかなり離れた場所に作った、あまり人通りが多い場所だと何かあった時危険だからな。


一応耐火性を考えて鉄筋とセメントで作る、中の環境は悪いかもしれないけど我慢してくれ。


「やっぱり想像剣術イマジンソードプレイよりチートよね、拓志の想像錬金術イマジンアルケミーって。」


想像剣術イマジンソードプレイだって充分チートだと思うぞ?

それと、ここ最近は上がってないがこのスキルはレベルがあるから、時間がある時に使ってみるのをオススメするよ。」


「そんな説明なかったわよ……。」


俺にも無かった、安心してほしい。


俺は進捗確認と様子見だけのつもりだったんだが、そのまま研究と意見交換に参加させられた。


俺は機械工学苦手なのに……そもそも理系は全て苦手だ。


タービンなんて名前しか知らないし、回転速度とか歯車の歯の数がどうこう言われても分からない。


図面もかなり緻密に書かれているし、部品の材質や大きさまで事細かに記載されてる。


まだ機構の一部のみらしいが。


それに夥しい数の計算式、こういうのには必須なんだろうが俺はそれを見ただけで頭が痛くなってきた。


「こんなの流澪以外分からないだろ……。」


その計算式を見ながらつぶやく、この世界にはここまで数学や物理の解明は進んでないだろうし。


「何となく分かるわよ、きちんと説明してくれたし。」


「我もじゃ、しかしこの公式とやらは便利じゃの。

 ここで使うもの以外も勉強したいものじゃ。」


「色々捗るようになりそうなので、流澪さんにものすごい教わりました!」


「感覚でやってたものを数字に出してくれるのはありがたいぞ、より正確にモノ作りが出来るやもしれん。」


皆の理解力が凄かった、知識に貪欲なのってすごいんだな……俺はお手上げだ。


とにかく進捗は良い感じに進んでいそうで安心したよ、それに研究所も建てたからぎゅうぎゅう詰めになってやる必要もなくなっただろうし。


俺は引き続き頑張ってくれ、と声をかけて研究所を後にする。


たくさんの数式を見て頭が痛くなった俺はそのまま家に帰り横になる、帰った来たメアリーに「大丈夫ですか!?」とものすごい心配されたが安心してくれ。


学生時代に数学で赤点を取って、長期休みが補習で埋め尽くされたトラウマが蘇っただけだから。

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