第188話 村に帰って来て人間領で得た知識や考えについて話し合いを開いた。

結構長い間人間領に滞在させてもらったが、ついさっき村に帰ってくることが出来た。


トラブルも解決したし人間領との関係も良好なまま、それに役に立ちそうな施設や技術……色々学ぶことも多い遠征だったな。


今は夕飯時なのでまずはご飯だと皆で食堂に行き、数日ぶりに村の食事と酒を楽しむ。


うん、人間領のものも美味しかったけどやっぱり村の食事が一番だな。


これは作り手も大いに影響しているかもしれない、ドワーフ族は本当に料理が好きで味の向上のために日々模索してくれている。


人間領の料理人もそうかもしれないが、恐らく試行回数ではドワーフ族のほうが多いだろうからな……なんてったって作るスピードが半端じゃないんだよな。


いつもそれに助かっているよ、急な宴会でも普通に対応してるし。


「そうだ、今回の人間領の遠征で話し合いをしたことがいくつかあるんだが、明日話し合いに参加出来るか?」


疲れてるかもしれないと声をかけたが皆快諾してくれ、食事の後に他の種族に声掛けまでしてくれるらしい。


助かるよ、俺も回れるところは回って声をかけるから。


食事を終えて他の種族の声掛けをしていると、魔族領から避難してきた人たちが見えない。


聞いてみると、俺達が人間領に出発した時点で解決するだろうという見解で早々に元の生活に戻っていったらしい。


信用してくれるのは嬉しいが、もしもの時があるからもう少し慎重に動いてもいいと思うんだけどな。


無事に声掛けも終わり、全種族参加してくれるという事なのでしっかり話し合いをしよう。


技術革命については反対が出る可能性もあるし、慎重に話し合わないとな……もし反対意見が多ければ流澪には悪いが諦めてもらうしかない。


俺としては出来ることが増えるのでやりたいのはやりたいけど。


色々考えているといつの間にか眠ってしまい、気づけば朝日もいつもより高い所まで昇っていた。


会議は朝食後と言ったのは俺なので、慌てて準備をして食堂へ向かう。


家には誰も居なかったし、起こしてくれればよかったのに。


急いで食事を終え広場へ向かうとほぼ全員集まっている、妻達に何で起こさなかったのか聞くと「疲れているかと思いまして。」と気をつかわれていた。


それは嬉しいが、自分で決めたことだし少し無理してでも行くから起こしてほしかったぞ。


それから程なくして全員が集まり話し合いが始まった。


「まずは俺から、皆人間領のトラブル対応お疲れ様。

 けが人も無く無事解決出来て良かったよ、人間領との関係も良好を維持出来ているし俺が出した要望も最優先で動いてくれるみたいだ。

 調味料やその他技術や役立つ物が手に入りやすくなる、皆の頑張りのおかげだよ。」


まずは今回の結果報告、皆何となく分かっていたことだろうが俺の口から結果を聴けて安心したのか安堵の表情が見られた。


「その後人間領に滞在させてもらって、キュウビの案内を受けつつ見回った時に教育施設を見せてもらってな。

 適性検査を経て自分に合った仕事の知識や技術を学ぶ場なんだが、これを村にも導入したいと思ってる。

 今は種族毎に仕事を割り振っているが、もしかしたらそれより向いている仕事があるかもしれないし、その可能性に気付かず過ごすのはもったいないと思ったんだが、皆はどう思う?」


俺個人としてはかなり魅力的な案だが、種族として特化しているからその仕事をしているかもしれない……というか現状は恐らくその認識だ。


だが発見は慣れや思い込みからは生まれない、別の角度から物事を進めたり考えたりしないと……そう思って俺は教育施設を推した。


「教育施設で学んでいる間、その人の仕事はどうするのですか?」


住民から質問される、質問をするという事はやってみてもいいかもしれないという事なのだろうか?


「適性検査で今の仕事が合っているならそのまま仕事に戻ってもらう、それに村の住人全員を一気にするつもりはない。

 小分けにして仕事に支障が出ないようにしてもらうつもりだ。」


俺もそのあたりは考えているので質問に返答する、流石に村の仕事を全て投げ打ってまですることではないからな。


「適性検査とは主にどのような事をするのでしょうか?」


「村で主に行っている仕事を一通り体験と、自分がどう思っているかを代表者と会話をしてもらうのが一番かな。

 そこからその人が向いている、向いてないを判断することは可能だろう……そのあたりのノウハウは人間領との交流を容易に行うことが出来るようになって仕入れていければと思っている。」


その後も色々質問をされたが、多分適切に返せていたと思う……思いたい。


結果としては賛成が多かったので、人間領からノウハウを仕入れた後試験的にしてみようという事で話が固まった。


思ったより好印象で良かったよ、皆も他の仕事に興味がある様子だったしいい機会かもしれないな。


「さて、次だが人間領には蒸気機関という人の力を必要とせず機械というものを動かす動力がある。

 それの完全上位互換を村に作り、様々なことにその動力を使って効率化を図りたいと思っている……だが魔力とも違う完全なエゴで楽をするものだ。

 だが可能性はほぼ無限にあると言っていいだろう、俺が住んでいた世界でもそういったもので様々な効率化や技術と文明の発展をしていったものだし。

 これについて皆はどう思う?」


次は地熱エネルギーの発展系の話だ、二酸化炭素の排出は非常に少ないので俺としては推したいが……このあたりはどうしても環境問題を気にする人もいるだろう。


流澪もどうしても携わりたいのか願うように手を合わせている、地熱発電の知識があれば後は作るだけだが……ドラゴン族の力だけでエネルギーを生み出せるのが余程魅力的なのだろう。


「蒸気機関は世界の命を奪うと聞きました、その機関はどうなのでしょう?」


ザスキアが険しい顔をして俺に問いかけてくる、自然を愛しているプラインエルフ族としては放っておけないところだろうな。


「蒸気機関が世界の命を奪うのは大量の石炭を消費するからだ、村で使っているような量ならそこまで問題は無いが機械を長期間動かし続ける程となると世界の命を奪うことになる。

 その点その上位互換はオスカーの熱とウーテの水を使って動力を生み出す機構だ、石炭も石油も一切使用しないから世界の命を奪うことはほぼ無いと言っていい。

 多少はあるかもしれないが、周りの自然達が有している自浄効果で相殺出来るだろうから問題無いぞ。」


ザスキアはそれを聞いて安心した表情になった、「それなら大丈夫です、便利な生活は心を豊かにすると学びましたので。」と言いそれ以上の反論はなかった。


「その機構によって私達の仕事が無くなることはありますか?」


マーメイド族がそう言ったのを皮切りに、他の種族もその不安を口にしだした。


「仕事がやりやすくなりこそすれ奪われることはないから安心してくれ。

 あくまで効率化が主な目的だ、皆の技術力が不必要になることは無いと断言するぞ。」


俺が返答すると皆「よかった……。」と安堵の声を漏らした、やっぱり大掛かりに便利になるかもしれないとなるとそのあたりは不安だよな。


だが思ったより反対意見が出ない、世界の命に関してはもっと反論があると思ったんだが。


「特に反対意見はないみたいだが、開発に取り掛かっても大丈夫か?」


俺が皆に聞いてみると「便利になって世界の命と仕事を奪わないなら問題無いです。」とのことらしい、それを聞いた流澪は「やったぁぁぁ!」と立ち上がってガッツポーズを決めた。


それを全員から注目され、顔を真っ赤にして席に座り小さくなっていく流澪……ちょっと面白かったぞ。


「……というわけで、この機構に関してはさっき興奮した流澪を主軸にダークエルフ族にもお願いしたい。

 他にこれに興味のある人が居れば参加してくれて構わないが、立候補する人はいるか?」


俺が問いかけると3人ほど名乗り出てきた、カタリナ・クズノハ・鍛冶担当のドワーフ族だ。


ドワーフ族は分かるがカタリナとクズノハは意外だ。


「村長の世界の技術と発想に興味があって、力になれないかもしれないけど自身の勉強の為ね。」


「村長の世界には魔術も妖術も無かったのじゃろ、もしかしたらそれを軸に出来ることがあるやもしれんからの。」


「部品の金型なんかを作る技術者がおらんからワシがやるぞ、試したい技術もあったしな。」


三者三様の意見だった、よろしく頼むぞ。


ここまで話したところで時間はもうお昼時だ、一旦このまま食事休憩をしてその後また話し合おうということで一旦リラックスタイム。


メアリーも話したいことがあるそうだし、今日の会議は長引きそうだ。


俺は妻達と食堂へ向かって食事を楽しんだ、メアリーが「この後は話しますよー!」と生き生きとしている、何を話すか楽しみだな。

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