第187話 クリーンエネルギーについて議論を重ねた。

蒸気機関施設の次に案内されたのは印刷所だった、メアリーと流澪は俺から離れてものすごいスピードで印刷室へ飛び込んでいく。


メアリーがこういう技術に興味を持つなんて珍しいな、というか前日の食事でもマスメディアの話や号外なんかに興味を持っていたし。


何か発信したいことでもあるのだろうか、メアリーが発信する内容なら皆の為になっていいことだし歓迎したい。


「村長が一番興味を持つと思ったが、まさかメアリー殿と流澪殿が真っ先に飛びつくとは。」


「俺も見てみたいぞ、活版印刷の現場を見るのなんて初めてだし。」


大掛かりな輪転機なんかを期待して印刷室に行くと、作業員が版に墨かインクかを付けて1枚1枚手押ししていた。


よく考えればこの建物は結構小さかったし、輪転機なんか入らないか……それに動かす動力も無いし。


「わぁ……昔ながらの活版印刷ね。

 ちょっと感動してるわ、オフセット印刷なんかとは違う味があるもの。」


「なるほど、これなら確かに質が一定の物が大量に作れますね。」


「準備に少し時間がかかるがな、準備さえ終わってしまえば後は早い。」


確かにこの世界じゃこれが最速の印刷方法だろう、これを機械化したらさらに革命が起きるが……問題の動力が今のところ無いからな。


蒸気機関があるが、大気汚染を懸念して使用を自粛するみたいだし。


何かクリーンなエネルギーを取得する方法はないだろうか……せめて工業用だけでも人力以外のエネルギーが使えれば一気に効率化を図れるんだがな。


だがそのあたりは魔術で何とかなりそうでもある、物を動かす魔術があればの話だが……今のところそのような魔術は見たことがない。


魔力量が非常に高いラミア族にも魔術に相談しなきゃな、魔力は休めば回復するものだからエネルギーを生み出して使うより間違いなく環境に優しいので、それが出来ればベストだし。


「開様はアレを見て感動なさらないのですか?」


メアリーが興奮しない俺の顔を覗き込んで聞いてくる。


「活版印刷は初めて見たから感動はしてるぞ、あれを更に高速化する方法を考えていたんだ。」


「なに、そんなことが可能なのか!?」


キュウビが俺の言葉に食いつく、キュウビも技術の発展とか効率化とか好きそうだし、贖罪の旅が終われば一緒に色々考えたりしたい。


「拓志、輪転機を実用化するつもり?

 するにしても動かす動力が無いわよ、せめて復水器をつけた蒸気機関くらいはないと……。」


「まさにそのことを考えてたんだよ、環境汚染もしにくいクリーンなエネルギーはないかって……太陽光・風力・水力・地熱くらいしか思いつかないが。」


メジャーなクリーンエネルギーくらいしか思いつかない俺が恥ずかしい、でも普通に暮らしてるとこれくらいしか知識が無いのが普通だよな?


「普通に考えればそのあたりよね、後はバイオマスくらいかしら?

 問題としてはバイオマス資源が物凄い量必要になることだけど……。」


バイオマスが分からなかったので流澪に教えてもらう、生ごみや廃材の材木……それに余った食物なんかがバイオマス資源になるらしい。


それを燃やすなら二酸化炭素が排出されるだろうと思い聞いてみたが、どうやら植物や生命のサイクルと同量程度の二酸化炭素しか排出されないのでクリーン化に貢献出来るそうだ。


上手く自然を循環させて、廃棄の際にエネルギーとして使わせてもらうものらしい……こんなのよく知ってるな。


「難しい話をしてますね……。」とメアリーが目を回している、メアリーの頭脳があれば原理を理解すればこれより先の事を考えれそうなので俺と一緒に流澪と勉強をしてもいいかもしれない。


「蒸気機関が分かるから水力と風力は想像がつく、だが太陽光と地熱とは何だ?」


「簡単に説明すると温かいものはその時点で何かを動かすエネルギーなんだよ、それを貯めこんだり蒸気にしたりして機械を動かし生活や工業に役立つエネルギーに変換するんだ。

 太陽光は蓄熱、地熱は地下に眠るマグマを使って蒸気を作る蒸気機関と似たものだ。」


流澪が「ちょっと違うけどニュアンスは合ってるか。」と及第点をもらえた、ふんわりした知識しかないのにでしゃばった真似をしてしまったな。


キュウビは「なるほど……。」と感心してくれている、拙い説明でも申し訳ない。


「そうか、蒸気を作るために石炭を絶対使う必要はない……温かい何かがあればそこで水を蒸発させれば。

 村長、ドラゴン族の力を借りれば半永久的に稼働する蒸気機関が作れるのではないか?」


「ちょっとそれどういうこと!?

 詳しく説明して!」


キュウビが発案するや否や流澪が話に飛びついてきた、顔が怖いから落ち着いてくれ。


だがキュウビの言う通り、ドラゴン族の力があればもしかすればもしかするな。


「ドラゴン族はそれぞれ能力を持っていてな、水は俺の妻であるウーテが自由自在に操れる……水源も無い場所から水を湧き出させることが出来るくらいには。

 後は熱を操れるドラゴン族が居れば、キュウビの言う通り地熱発電の応用で半永久的に稼働させれるものが作れるかもしれない。」


想像剣術イマジンソードプレイなんてファンタジーなスキルを貰ったけど、この世界に生きてる種族のほうがよっぽどファンタジーだわ……作れるかもじゃなく作れるじゃない。

 学生時代に永久機関を作ろうとしてた身としてはこれ以上ないくらい嬉しいわ。

 拓志、この案件私にちょうだい……それと手先が器用で製図が出来る人員も欲しいのだけど。」


永久機関なんて事実上不可能だろう……と思ったがこの世界では可能になりそうだな。


道理で蒸気機関やエネルギーについて詳しいはずだ、でも兵器にはなんで詳しくなったのか分からないけど。


趣味かな?


それより流澪のスキル名が今判明した、想像剣術イマジンソードプレイって言うんだな。


「もちろん任せる、クリーンエネルギーで効率化が図れるならそれに越したことはないからな。

流澪が欲しい人材はダークエルフ族が適任だろう、話をすれば食いついてくれると思うから帰ったら話してみるよ。

 それと人間領の蒸気機関を管理している技術士も派遣させたほうが何かと便利かもしれない、ダンジュウロウへ出した要望が通ってそこが落ち着けば申請してみる。」


「ありがとう、何年かかっても絶対成功させてみせるわ。

 あの時死のうとして正解ね、そうじゃなきゃ神様にここへ連れて来られなかっただろうし……死なせてくれなかったと恨んでたけど今初めて感謝してるわ。」


大丈夫だ、いずれ殴りたくなる日が来るから。


何が大丈夫かは分からないけど。


「人間領では真似できそうもないのが残念だ、だが村に居れば技術の発展をこの目で見れるだろうし私も早く贖罪の旅を終わらせなければな。」


「交易で技術を流すことも可能だから安心してくれ、図面をきっちり書いて試作と試運転さえ終われば後は俺の想像錬金術イマジンアルケミーで一瞬だ。

 これに関しては試作機以外無理に人力で作る必要もないし。」


「確かにドラゴン族が居なければ実現不可能、ダンジュウロウかキチジロウが上手く村と交渉してくれるのを祈るか。」


俺としては普通に譲ってもいいけどな、軍事転用されると困るからそこに関しては禁止させてもらうけど。


「さて、後は熱を操るドラゴン族がいるかどうかだが……。」


「どうした、熱ならワシがいくらでも操れるぞ。」


シモーネと仲良く帰って来たオスカーが俺の言葉に返事をする……そういえば火を吐いてたな。


「ねぇオスカーさん、何もない場所に火を起こす……もしくは熱を発生させることは可能かしら!?」


流澪がオスカーに抱き着きそうな勢いで問いかける、シモーネは大人の余裕なのか「あらあら。」と笑っている……怖くない笑顔なので夫がモテて嬉しいのかもしれない。


「村の風呂でウーテがしているような事か、確かに可能だぞ。

 何でも溶かす熱を出せばよいのか?」


何でも溶かしちゃダメだ、その一帯が壊滅してしまうだろ。


「そのあたりは調整してもらうから、でも出来るのね……村に帰ったら頑張るわよーっ!」


流澪の表情が今までで一番生き生きしている、よっぽど嬉しいんだろうな。


「流澪さん、開様のこと好きになったって言ってた時以上に嬉しそうですね……あっ。」


メアリーがぽつりと呟いた後慌てて口を塞ぐ、そんな事言ってたのか?


「さっきのは内密に……自分の口から言うって言ってましたので!」


メアリーが必死に口止めをお願いしてくる、気づかないふりをしておくから安心してくれ――誰かに好かれて嫌な気分はしないし。


キュウビも案内する場所はここで終わりだということで人間領の案内が終了。


ダンジュウロウに謁見させてもらい村に帰ると挨拶をして皆で帰路についた、村に帰ったら色々話し合わなきゃな。

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