第186話 会議の結果を聞いた後、人間領の案内の続きに出かけた。

「拓志、朝よ。」


俺を呼ぶ声で目が覚める……重たい瞼をこすりながら声のした方向を見ると流澪が部屋のカーテンを開けていた。


「おはよう、起こしに来てくれたのか。」


「……まぁそんなところよ。

 メアリーさんの許可はもらってるから安心してね。」


起こしに来るのにメアリーの許可は必要ないと思うけどな、それくらいで怒ったりはしないだろう。


それより寝間着じゃないか、そんな恰好で城の廊下を歩くのはあまり良い事ではないだろうしやめたほうがいいと思うぞ。


「俺も着替えるから流澪も着替えてきたらどうだ、そろそろ朝食だろうし。」


「着替え持ってきてるからここで着替えるわ、あっち向いてて。

 見たらビンタするから。」


「わ、わかった。」


一回り弱違う女の子が同じ部屋で着替えてると思うと変にドキドキする、妻達と比べたらスタイルは負けているが恐らく平均くらいで出る所は出ているし。


というか見られたらビンタするって、あてがわれた部屋で着替えてから来たらいいのにどうして寝間着で来たんだ。


まぁ俺が見なければいいだけの話だし別にいいけど。


向こうも俺の事は見てないだろうし着替えようか、そう思い寝間着を脱ぐと「ちょっと何脱いでるのよ!?」と流澪が叫んだ。


こっち向いてるのかよ!?




ちょっとしたトラブルがありつつも無事着替えを終えて部屋を出ると使用人が立っていた、いつからそこに立っているんだろう……ノックくらいしてくれてよかったのに。


「おはようございます、朝食の準備が整っていますので食堂までご案内します。

 この朝食はダンジュウロウ様とリッカ様、それに他の王子様や王女様もご参加されますので。」


昨日の会議の結果が出たという事だろう、人間領の王族総出で食事とは緊張するな……粗相をしないように気を付けなければ。


「食事は美味しいんだけど少し堅苦しいわね、仕方ないけど。」


「進んで首を突っ込んだのは俺達だからな、流澪は被害者で巻き込まれてるけど。

 それにテンガイと大臣がどうなったかも気になる、我慢しよう。」


食堂へ向かって歩いていると、途中メアリー達と合流した。


メアリーを見た流澪は早足でメアリーに近づいていく、そんなに仲良くなっていたのか。


「うまくいきましたか?」


「半々……かなぁ。」


メアリーが俺を見ながら悪い顔で流澪と会話している……何がうまくいったのか半々なのか怖いんだが。


「そろそろ食堂に着くから私語は慎んだほうがいいぞ、人間領は礼儀に厳しいからな。」


「「はーい。」」


二人とも間の抜けた返事を俺に返してくる、大事な場面ではきっちりしてくれると信用しているからいいけどな。


食堂に着くと既に王族の皆は席についていた、待たせてしまって申し訳ない。


俺達は軽く一礼をして用意された席に座る、ダンジュウロウが軽く挨拶すると皆が食べ始めたので俺達もいただくことに。


3分の1ほど食事を終えたところで、ダンジュウロウが口を開いた。


「食べながらでいいので聞いてもらおう。

 昨日の会議でまとまったことを報告させてもらう――」


結果、ダンジュウロウは再び王の位に着くことになり、テンガイと大臣は持っているすべての権力をはく奪、及び禁固刑となった。


年数は何と3500年、人間では到底生きれない年数……つまるところ終身刑だな。


だが通常牢獄で息を引き取るときちんと死後の処理をされるが、この場合は刑期である3500年を満了するまで死後の処理はされないらしい。


つまりは死してなお放置され牢獄に留まるらしい、腐敗臭がすごいことになりそうだ……食事中に聞く内容ではなかったが俺が教えてくれと言ったので仕方ない。


流澪もドン引きしているが、他の4人は納得した様子で食事を続けている……胆力が凄いな。


「――さて、報告は以上だ。

 未開の地の村の者達よ、人間領代表として今回の騒動を収めてくれた礼を言おう。

 この間聞いた要望は最重要事項として急ぎ進めさせてもらう、近いうちに準備を整えるのでそちらもその方向で動いてほしい。

 それと、また村を訪問させてもらおうと思っている……その時はまたよろしく頼むぞ。」


ダンジュウロウが礼を言うと他の王族も席を立ち最敬礼を俺達に向けた、本当に結果論だからそこまでしなくていいのに。


だが要望を急いで進めてくれるのは有難いな、少々危険を冒して問題を解決した甲斐があったよ。


話を終えたあたりで全員の食事が終わったので食堂を後にする、外に出るとキュウビが声をかけて来た。


「では改めて人間領を案内させてもらおう。

 少し時間がかかるかもしれんから、蒸気機関を運用している施設からでも良いか?」


「大丈夫だよ、案内よろしく頼む。」


意見を出すことは出来ないだろうが、純粋に現役の蒸気機関を見れることにワクワクしながらキュウビについていく。


オスカーとシモーネは久々に夫婦団らんをするため散策するらしい、血気盛んな夫婦だと思ったがそういう平和な部分を持っててよかったよ。


メアリーと流澪は俺に着いてくるらしいが、ああいう機械は女性が見ても面白くないと思うのは俺の偏見だろうか。


本人が見たいと言ってるし別にいいんだけど。


施設に言って中を見学すると、蒸気機関は主に工業で利用されているのが分かった……交通機関で利用されてないなら当然と言えば当然か。


施設の管理者とキュウビから改善案があるかどうか問われたが、正直なところまったくわからん。


動かしてもらってなんだが、感想としては「すっげぇ!」という小学生並みの感想しか出てこない。


実際凄い迫力で動いている、石炭を燃やしているので熱いのは当然なんだがそれが気にならないくらい興奮しているのが自分でわかる。


やっぱり男はいくつになってもこういうのが好きなんだよな。


「ねぇ、復水器はどこにあるの?」


流澪が口を開く、復水器ってなんだ?


管理者もキュウビも流澪の言葉に「はて?」というような反応で首をかしげた、俺もその一人だけど。


「待って、その反応ってことは復水器が無いってことよね?

 そりゃ蒸気機関も実用が難しいわけよ、復水器の有無で同じ石炭の消費量でも4倍程度も作業効率に差があるんだもの。」


流澪がそういうと管理者とキュウビが流澪の肩をがしっと掴んで顔を近づけた。


「その復水器とやらの仕組みなんかは分かるのでしょうか!?」


「うん、多少の知識はあるけど……説明するから離れてくれないかしら?」


「おぉ……すまなかった。」


キュウビが謝り2人とも流澪から離れる、流澪がそのまま説明に入ろうとしたが管理者が慌てて何かを取りに走った……恐らくメモだろうな。


だが流澪がそんなに機械に詳しいなんて思わなかった、攻城兵器の知識といい女の子らしい物よりそういうもののほうが好きな女の子だったのかもしれない。


最近はそういう枠も取っ払われてきていたからな、俺が勤めていた会社の先輩も日曜の朝にしている女児向けの番組を毎週見ていたし、受付の女性も日曜の特撮を毎週見ていた。


俺は疲れて寝てたけど。


戻ってきた技術者を見て流澪が蒸気機関の改良点について話しだす、2人とも必死に聞きながらメモを取っている。


「私は全くあのようなものは分からないですねぇ、開様もすごいですが流澪さんもすごいです。

 開様が居た世界は皆ものすごい知識を持っているものなんですか?」


「全員が全員じゃないよ、知らない人のほうが多いだろう。

 でも大半の人は力が無いから、加速度的に進化した文明の恩恵に預かっている。

 魔力を使ってない魔術のようなものがそこら中にあるような世界さ、問題は世界の命を貪ってるところだけど。」


恐らくこの世界があのような文明を手に入れるのは人間領次第だろう、既に蒸気機関を完成させているうえ新しい熱機関の開発をしているらしいし。


それに流澪が蒸気機関を進化させようとしている、あまり手を出すのはいただけないが、知識があるという事はそれを使用するにあたってどのような危険があるかも分かっているはずだ。


そのあたりもきちんと説明してくれれば自重して使ってくれるだろう。


「そうなのですね、自身で御しきれない力を使っていそうだということは分かりました。

 開様はそのような文明を作るおつもりはありますか?」


「今のところは無いよ、村の皆のおかげで前の世界より快適だし。

 ただ人間領はもしかしたら前の世界の文明にいつか追いつくかもしれない、危険なものがあれば知ってる限り伝えていくつもりだよ。」


「それを聞いて安心しました、私達は平和で過ごしやすい今の世界が好きなので。

 人間領の良い物は持ち帰って、村をより良い物にしましょうね!」


「そのつもりだ、まずはダンジュウロウから土地を確保してもらうところからだな。」


メアリーと話していると流澪が足早に戻ってきた、熱機関の説明にしては早すぎないか?


「大気汚染の説明をしたら使用を控える事にしたらしいわ、鍛冶程度ならともかく蒸気機関をまともに使いだしたらそれ以上だろうし懸命かな。

 ここの人間は私達が住んでた世界よりずっと賢いわよ、利便性に逃げず新しい道を模索出来るんだから。」


話し終えると流澪が俺にくっついてくる、どうしたんだ……ってメアリーまでくっつくのか!?


「おやおや村長、両手に花ではないか。」


キュウビが笑いながらからかってくる、笑ってないで止めてくれないか……?


「ではそのまま次の施設へ向かうとしよう、面白そうなのでな。」


キュウビは笑いながら案内をするため先導して歩いていってしまった……俺も2人に引っ張られながらキュウビについていく。


そういえば次はどこに行くんだろうとキュウビに問いかけても笑ったまま答えてくれなかった、一体このままどこに行くのか物凄い不安だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る