第178話 人間領の異世界転移者と接触することが出来た。
「報告ありがとうございます、ですがそれが勝ち筋に繋がるかは相手の出方次第ですね。」
ハーピー族と相手の表情について報告したが、俺たち2人の考えのように確実に寝返ってもらえると思ってないようだ。
「でも攻めてくるのが嫌だからそういう表情なんだろ?
相手の出方次第ってどういうことだ?」
「嫌な事にも色々ありますから、開様の言う通り別の場所に攻め入るのが嫌というのもありますが、単純にその道のりが嫌だったりキュウビさんの聞いた通り王子や大臣が遠征に来ず下の人間だけに行かせているのが嫌だったり。
どのような嫌かどうか分からないので相手の出方次第なんですよ。」
なるほど、勝ちと安全を急ぎ過ぎてそのあたりの思考が狭まっていたな……言われればメアリーの言う通りだ。
「ですがその情報は貴重な物です、しっかり戦術に組み込んで生かさせてもらいますね。
少なくとも勝率に繋がりはしますので。」
それを聞いた俺とハーピー族は顔を見合わせて笑顔になる、やっぱり報告してよかったな。
前線を敷いてから2日が経った、維持しながら寝食をしているが皆に疲れの色は無さそうで安心する。
幸い天気は良好だしここ最近は不思議と涼しくて過ごしやすいからだろうな、ケンタウロス族とアラクネ族が休むためのクッションなんかを用意して随時配ってくれているのも疲れない要因の一つだろう。
村でキャンプをしているような感覚だ、これで人間領と戦うというイベントが待ってなければ楽しいイベントで終わるんだが……そうは行かないのが悲しいところだ。
それと、これは後から聞いた話なんだが涼しいのは冷気を操れるドラゴンが上手く調整してくれてたらしい。
そんな事を出来るなら早く言ってほしかったぞ。
閑話休題。
偵察に行ってくれていたハーピー族が大慌てでこちらに向かってきているのが見えた……とうとう近くまでやって来たか。
「大変です、人間領から攻めて来た小隊が全員倒れています!」
何だって?
「人数に欠けはありましたか?」
メアリーが冷静にハーピー族へ確認を取る、それが無ければ即座に救助を送る指示をしていたところだった。
罠の可能性もあるんだよな……。
「いえ、人数に欠けはありませんでした。
一人が這いつくばって必死に移動を試みていたのは確認しました、今は一緒に偵察に行ってくれたドラゴン族が周囲の警戒と魔物の討伐をしてくれてます。」
「近くに制圧すべき種族が居ても何もしてこないのを見ると……本格的に弱ってますかね?
開様、救助の意思はありますか?」
「もちろんだ。
前線を維持したまま救助を頼む、食糧難かもしれないので一応多少の食糧も持っていってやってくれ。」
「分かりました、ではそのようにしましょう。
一応開様もそちらに向かってください、武器が目視出来た時点で念のためすべて無力化をお願いします。」
「分かった。」
俺は持っていくものがないので食糧の確認を手伝うことに、食べやすくて胃に優しい物をチョイスしておく。
それとカレーを作っているのが匂いで分かったので、小さな鍋を借りてカレーを持っていくことに。
前の世界の住民ならこの匂いで元気になれるはずだ、そうじゃなくても元気になる威力がカレーにはあるけどな。
俺は誰に護衛されて行くのか聞いてみると、メアリー・ラウラ・オスカー・シモーネ・クルト・ローガーとガッチガチの陣営だった。
しかもオスカーとシモーネ以外オレイカルコス製の防具を纏っているので厳つさが半端じゃない、怯えてまともに受け答えしてくれないなんて事態にならなければいいが。
少し不安に思いながら、オスカーの背にまたがり倒れている人間領の小隊の所へ向かった。
「あれですね……確かに倒れています。
開様、
結構離れたところで小隊が倒れているのを確認、鉄塊を思い浮かべると無事に素材が光ってくれたので
後ろの兵士の鎧も巻き添えになったけど……まあ暑いだろうしいいか。
「よし、鉄製の物は全てこの鉄塊に出来たぞ。
とりあえず武具の類はもう持ってないはずだ。」
「分かりました。
ラウラ、索敵魔術に反応は?」
「何も無いですね、気絶してると反応しないので何とも言えないですが。
もし意識があるなら敵意は無さそうです。」
敵意が無い……嫌がってた顔をしていたというのと関係があるのだろうか。
「では警戒を怠らず近づいて接触を試みましょう。
近くに着陸して、オスカー様とシモーネ様、それにローガーさんで接触をしてもらっていいでしょうか?」
オスカーとシモーネはこくりと頷き、ローガーも「引き受けた。」と余裕の返事……何も無いとは思うが気を付けてくれよ。
20mほど離れたところで着陸、そして3人は小隊へ近づき声をかけていく。
「全員生きてるかー?」
俺は離れたところから状況を確認するため話しかけた、するとローガーから「大丈夫だ、生きてる……かなり衰弱してるが。」と返事があった。
やはり空腹から来るものだったんだろうか、周りにはオークもちらほら居るし食糧には困らないはずだが……食べる習慣が無ければ倒して終わりになる。
グレーテもそれで衰弱して村に来たし、もしかしたらオークを食べるのは未開の地だけなのかもしれない。
「村長、近づいても大丈夫そうだぞ。」
オスカーから声がかかったので残りの人も小隊に近づく、肌着になっているのが兵士……この学生服の女性が異世界転移者だろう。
まさか学生だったとは、しかしなんでまたこんな女の子が剣術を選んだんだろう……魔術とかのほうがイメージに合ってるんだけどな。
まぁそれは本人に聞くとして、本当に衰弱しているのでまずは意識を覚醒させるところからだ。
「おい、大丈夫か?」
俺は昔の記憶を頼りに回復体位を取らせて声をかける、すると女の子の目がうっすらと開くのが確認出来た。
「お腹空いた……カレーの匂いがする……!?」
カレーに気付いた女の子ががばっと体を起こしたので俺は慌てて離れる、そんな元気が残ってたのか。
「この世界にカレーがあるの!?
食べさせて……って、貴方達もしかして人間領が攻め堕としてこいって命令してきた未開の地の人達?」
「やっぱりそんな命令をされてたのか、確かに俺達は未開の地の住民だ。
俺は開 拓志、未開の地の村長で君と同じ異世界転移者でもある。」
「私と同じ異世界転移者!?
そんな話人間領では全く聞いてなかったわよ、私の神からもらった剣術スキルですべてを攻め落としてこい、そうすれば地位と衣食住は一生面倒見てやるって……。」
だいたい話の筋は読めた、いきなり現れたこの女の子を不審に思い一度城に連れて行って事情を聴いたのち利用出来ると考えたんだろう……こんなことを言っちゃダンジュウロウに申し訳ないが、これを企てた王子や大臣は屑だな。
「とりあえず戦わなくて済むなら俺は戦いたくないんだが、君はどうなんだ?」
「でも剣術だけじゃ生きていけないし、これも剣道を習っていたから神からもらっただけで何も使いこなせてないわ、何か武器も無くなってるし。
それより……ほぼ極限状態なのにカレーの匂いだけ漂ってきて拷問に近いのだけれど……食べさせてくれないかしら……?」
女の子は思い出したかのように体をふらつかせる、俺は慌ててそれを支えて「食べていいぞ。」とカレーと一緒に持ってきたご飯を差し出す。
他の兵士にもカレーを振舞い、この場は一時休戦の雰囲気に。
小隊は皆カレーにがっついて話どころではなかったので、俺は一旦皆の所へ戻り状況の報告と相談をする。
「これは……また取り越し苦労ですかね?」
メアリーは肩を落とす、まぁ平和的解決が可能ならそれが一番だしそう気を落とすなって。
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