第177話 異世界転移者の能力が分かったので更なる対策を練った。

「そうですか、マーメイド族から異世界転移してきた人が剣を持っていたと……。」


「そうだ、これでほぼ【剣術】を選択していることは間違いないだろう。

 俺はイメージしやすい物をもう少し探してみる、他に何か用意する物はあるか?」


俺はマーメイド族から受けた報告をメアリーに伝える、剣術でも魔術でも対応策を考えているだろうが、どちらか分かると更に踏み込んだ作戦を考えることが出来るだろうからな。


「後は神がどんなスキルを渡したか……ですよね。

 単純な剣技のみなら対応は楽なんですがそんなわけないでしょうし……遠距離も出来る剣術と考えましょう。

 開様はドワーフ族の所へ行って全身を隠せるオレイカルコス製の防具を想像錬金術イマジンアルケミーで作ってください、あの鉱物は元々この世界に存在しないので対応策に使えます。」


「分かった、在庫をあるだけ使って極力人数分を揃えるよ。」


俺はメアリーの言う通りオレイカルコス製の防具を作りにドワーフ族の工房へ走る。


全身が隠せるものと言えばよくゲームであるような目の部分だけ一文字に隙間がある兜と鎧でいいだろうか、それくらいしか思いつかないし。


しかしメアリーは元々この世界に存在しないので対応策に使えると言っていたな、逆に言うとそれ以外は神からもらったスキルで対応出来てしまうということなのだろうか。


オスカーやシモーネも、対策がきっちりしてなければ今回の異世界転移してきた人に負ける可能性も充分にある……改めて気を引き締めないとな。




俺はドワーフ族にオレイカルコスを保管している倉庫へ案内してもらい、想像錬金術イマジンアルケミーで鎧を次々と作っていく。


もちろんエンチャント付与も忘れていない、<防御倍化>というものがあったからそれを作った全てにつけていった。


サイズに関しては前の世界で定義されていたS・M・L・LLを思い浮かべて錬成している、それでサイズ違いの鎧が出来ているから大丈夫なんだろうな。


「質も充分そうじゃな、エンチャント付与がある分ワシらが作ったものより高品質なのが悔しいが……無ければワシらの勝ちじゃの。」


後ろで見ていたドワーフ族が鎧の目利きをしてくれた、流石に即席じゃ素の性能は負ける……待てよ?


「なぁ、ここを直せばより良い物になるって場所を教えてくれないか?

 作り直すのは一瞬だし、本当にこの村と魔族領の危機なんだ……技術をタダで教えてもらうのは難しいのは知っているが――頼む!」


俺はドワーフ族にお願いする、もしそれで怪我や生存の確率が上がるならやっておきたい。


「いいぞ、村長からは衣食住と好きに鍛冶をさせてもらっておるからの……タダどころかこちらが何かを返さねばならぬ立場じゃぞ。

 兜はこの部分、鎧はこの部分を――――」


ドワーフ族から30分ほど装備の改良点を教え込んでもらい、それを踏まえて再度錬成しエンチャント付与をし直す。


少し時間がかかってしまったが仕方ない、ドワーフ族に見てもらっても「うむ、さっきよりかなりいい物になったぞい。」と合格を貰えたのでこれを量産。


この間に武器を無効化するにあたって何を作ればいいかも同時に考える、それでも失敗しない程度には鎧と兜の作成に慣れてきた。


考えた結果一番はただの塊だろうな、形も適当で大丈夫だしその後武器に転用されづらい。


試しにオレイカルコスで適当に錬成したが問題無いのも確認している、もちろんそれは兜と鎧に使って消化しているけどな。


色々試しながら作っていると、戦闘に参加する種族が続々と兜と鎧を受け取りに来た。


完成したものをドワーフ族が配ってくれていて、そこから話を聞いて取りに来てくれたらしい。


皆自分にあったサイズを持っていって試着、特に問題が無いしこれからも使いたいぐらいの物だと絶賛してくれた。


「皆は今回の戦いが怖くないのか?」


「特に怖くありませんよ、いくら神から賜ったスキルがあるといってもこの村の戦力は正直言って世界一だと自負していますし。

 それにカタリナさんから聞きましたが、ダンジュウロウさんの占星術はこの世界に存在しないものの結果は見えないのでしょう?

 なのでこの戦いの結果も教えれなかったんだと考えています、いくら神から賜ったと言えど剣術一つでこの装備を纏っている場数も練度も身体能力も上である私たちが負けるはずが無いですよ。」


ものすごい前向きな考えをしてくれていた、実際表情には一切の不安が無い。


「だが油断はしないでくれよ、俺だってその気になれば皆を肉塊にする力を持っているんだ……。

 相手がどの程度の殺意でこちらに向かってくるかも分からない、心してかかってくれ。」


「分かっています、ところで相手の生死は問うのでしょうか?」


「極力生きた上で止めてほしい、どうしても無理なら命を奪うのも仕方ないかもな……俺としてはかなり決断しづらいけど。」


2年弱で前の世界の何が変わったのかも知りたいし、同じ境遇の者として仲良くしたかったのはあるからな。


今は敵対しているが、あっちが望んでか望まずかは分からないが。


せめて対話が出来ればいいんだが恐らくは無理だろう、武士道や騎士道に則って開戦の宣言なんかをしてくれたらいいんだがそこを期待するのは駄目だ。


キュウビに乗せられたとはいえ闇討ちをしてきているからな、今回はキュウビのような頭脳は無いので戦略面ではこちらが圧倒的有利だろう。


それを期待して何とかうまく立ち回るとするか。


そんなことを考えていると、今保管しているオレイカルコスの在庫全てを使い切ってしまった。


数は余っているらしいが外に出てる人たちも居るので置いておいてほしいとのこと、それは全然構わないぞ。


「今シュテフィとミノタウロス族、それにドワーフ族とアラクネ族が本気を出してオレイカルコスを中心に採掘しておる。

 選別次第こちらに運ぶから必要になればどんどん使ってくれ――それとシュテフィから伝言じゃ。

 もし戦力の無効化が不可能、だが生かしたいならすぐにでも眷属にするから指示を出してくれとのことだ。

 一応前線には顔を出すらしい、能力が少しでも役に立つだろうと言っておったしな。」


「分かった、ありがとう。」


確かにその手もあるにはある、今回は村のためになる吸血なのでその時はお願いするとするか。


それにシュテフィの能力は目を見張るものがある、あれを戦闘に運用すれば相手はかなり戦いづらいだろう――もしかしたら一方的かもしれないけど。


だがこの世界に存在する能力なので油断は出来ない。




しばらくするとキュウビを連れてシモーネが帰って来た。


「事情は聞いた、恐らく武力を重んじる王子と大臣が結託したのだろうな。

 しかも相手が村長と同じ異世界転移者とは……私も武力を重んじる節はあったので私の責任でもある、やれることは全てやらせてもらおう。」


「皆にも伝えているが極力生かして無力化してくれよ、無理なら仕方ないけどな。」


「そうだろうと思ったよ、善処させてもらう。」


魔族領に向かった3人も帰還しており、村の主戦力が全て揃ったのでメアリーの指揮の下前線を敷いていく。


要石も村の広場に設置されており、そこには魔力の高い人たちが構えていつでも展開出来る状態だ。


ここまで重々しい雰囲気の村は初めてだな、もっと長閑に暮らしたいんだが今はそんなことを言っても仕方ない。


すると、魔族領の方角から物見に出ていたハーピー族とドラゴン族が帰ってくるのが見えた。


「人間領が攻めてきてます、人数は小隊ほど!

 少数ですが剣を持った女性が魔物を薙ぎ払いながら山越えをしています……恐らく到着は明日以降かと!」


「物見の者よ、その中に豪奢な服や鎧を着た者は居ったか?」


キュウビがハーピー族に尋ねる。


「いえ、居なかったと思います……女性以外は普通の鎧を着ていました。

 女性は見慣れない服装でしたね、強いて言えば動きやすそうではありましたが。」


ジャージとかだろうか?


「昼夜問わず進軍してくるともう少し早くなります、皆さん今日はこの前線を維持したまま過ごしてください!」


「「「「「おぉぉぉぉー!!!」」」」」


皆楽しそうだな、メアリーも不安だとは思うが顔が少し笑っているので楽しんでいる節もある気がする。


やっぱりこの村の住民は血気盛ん過ぎるな。


「後もう1つ報告があるんですが。」


ハーピー族が俺の所に来て話しかけてくる。


「どうした?」


「剣を振るっている女性含めて全員、物凄い嫌そうな顔をしていたんですよね。

 もしかしたら簡単に寝返るんじゃないですか?」


この争いに確実な勝ち筋が見えたかもしれない、俺はハーピー族と一緒にメアリーへ報告に向かった。

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