第176話 来たる人間領との戦いに備えるため話し合いと準備をした。

カタリナからとんでもない話を聞いたその日の晩、俺の家にオスカー・シモーネ・ラウラ・クルト・ローガー・ハインツを交えて話をすることに。


「とにかく人間領に向かっているマーメイド族はすぐさま帰還させてください!

 後は魔族領全住民の避難を、海を挟んで最初に通るのは魔族領です!

 オスカー様、それにローガーさんとハインツさんは手分けしてそれをお願いします!」


「任された。」


「任せてくれ。」


「承知しました。」


メアリーの指示で3人が即座に動き出す、大事にはしたくなかったが人命がかかっているとなるとこれは仕方ないか。


「私は何かないかしら?」


「シモーネ様はキュウビさんと連絡を取って村への一時帰還をしてもらってください……開様、よろしいですか?」


「構わないよ、緊急事態だからな。」


俺はメアリーからの質問を二つ返事で了承する、律儀だな。


「クルトさんは村の住民に警戒をしてもらってください、それと要石の起動をすぐ出来るようにマーメイド族に指示を。

 ラミア族とプラインエルフ族は要石の起動にすぐ当たれるようしばらくの間野営と、ドワーフ族にはその2種族にしっかりと食事を提供するよう指示をお願いします。」


「うん、わかったよ。」


キュウビに予言の域に達していると言われたメアリーとダンジュウロウの占星術……果たして結果はどうなるのだろうか。


俺も話を聞いた時点でこれくらいするべきだったのかもしれないが、まずは皆の意見を聞きたかったんだよな。


メアリーは即断即決で話を進めている、これは自身が臆病だと言う気質から来るものなのだろう。


「メアリー姉、私は何をすればいいです?」


「出産も終わったし索敵魔術を使っていたわよね、ダンジュウロウ様に敵意はあった?」


「なかったですよ、あったら報告してるです。」


「そうよね……なら村を混乱させるための嘘じゃなくて本当だと考えるのが妥当……。」


そうか、ラウラからダンジュウロウに敵意があると報告が無いということは本当の可能性が高いのか……そこまでは気づかなかった。


流石メアリーだと感心していると、あることに気が付く。


俺のやることがない。


鍛錬をしているとは言っても、村の住民と戦って勝てるわけがないので戦力外なのは分かるが、何もしないのは申し訳ないと思ってしまう。


俺が直接関わっているわけではないが、多少関係はしているし……何か無いだろうか。


「開様はアラクネ族にお願いして魔力量を増やす装飾品を可能な限り貰ってください、今回の重要人物は開様ですから。」


「え、俺が前線に出るのか?」


メアリーから思っても無かった一言が飛び出してきて焦ってしまう、今まで危険だからと戦闘に関わる場所にはほとんど留守番だったのに。


だがそれを聞いて嬉しくもあり怖くもなった、メアリーがそう言うなら俺にやることがある……だが俺が戦闘で迷惑をかけて誰かにケガをさせないか不安だ。


「それとリッカさんから人間領で使われている武器と、もし王族だけが知っている武器もあればその素材を聞いておいてください。

 それと確実に作れる何かを考えておいてくれれば、剣術なら恐らく完封出来ます。

 膂力が上がっているなら別ですが、膂力のみなら村の住民で抑えれるはずですし。」


確かに鍛錬所を見ても単純な力比べはしていない、しているのは戦いの技術の向上だ……それによって勝ち負けを決めている。


膂力だけならドラゴン族とミノタウロス族が2強だからだろう、それに力のみが必要な場面は意外と少ない。


「だが、魔術を選んでいたらどうするんだ?」


「要石を村の魔力総出で起動します、アストリッドさんから聞いたのですがあれは込める魔力が多ければ多いほど強くなるので。

 それにリザードマン族を助けるときにキュウビさんから幻覚が見える妖術があると聞きました、それを使えば混乱させつつ無力化することも可能でしょう。」


どちらを選んでいても俺に出番はあるということか……特に剣術なら最重要な立ち位置だ。


少し、いやかなり緊張する……うまくやれるだろうか。


とにかく今は頭に浮かべやすい物を考えておかなければ、相手は武器を持って迫ってくる……遅れは許されないからな。




話し合いも終わり各々が出来る準備をしていると、続々と魔族領から領民が避難してきていた。


緊急時ということもあり転移魔術の魔法陣を一時的に開放している、俺は避難所を居住スペースに作りそちらへ移動してもらうよう促した。


暫くはプライベートとか無いかもしれないが、今そこまで対応している余裕は無いので勘弁してほしい……何とか無事に帰せるよう最善を尽くすからな。


「村長、しばらく世話になるのじゃ。」


「魔王か、すまないなこんなやっつけな避難所で。」


避難民を誘導していると魔王から声をかけられる、トップがこんなに早く避難して大丈夫なのかとも思ったがトップだからこそだろう……魔王の代わりを出来るのは先代魔王かミハエルだけだろうし。


「いやいや、命を助けてもらったうえに避難先で雨風を凌げて食事まで提供してもらっては文句なんて一つも無いのじゃ。

 しかし話を聞いた時は何事かと思ったのじゃよ、まさか人間領がそんなことになるとはの……。」


「俺もびっくりだよ、だが俺の妻であるカタリナが信憑性のあることだと言ってたからな……もし違ったとしても人命第一に動くことは間違いじゃないと思ってる。」


「村長は大した人物じゃの、ここまで大事になって気が動転せず冷静に対応しておる。

 王の資質があるのかもしれぬぞ?」


こんな時にからかわないでくれ、ただの一般人だった俺にそんな資質があるわけがない。


それに冷静でいられるのは住民やメアリーのおかげだ、やるべきことを示してくれているから俺はそれに沿って行動しているだけ。


もし俺一人ですべてを判断して動けと言われたら、ここまでスムーズには動けないだろうからな。


「とりあえずこの避難所でしばらく対応出来るはずだ、俺は他にやることがあるからこれで。

 もしパンクしそうになればアラクネ族の所に居る、声をかけてくれ。」


「分かったのじゃ、魔族領からも微力ながら支援をしようと思っておる。

 必ず人間領の暴走を止めるのじゃぞ。」


「最善は尽くすよ、ありがとう。」


何かゲームの主人公みたいな台詞の応酬だな……だが実際異世界転移なんてしているのであながち間違いじゃないかもしれない。


同じ異世界転移してきた人が敵じゃなければもっと気軽に戦えたかもしれないんだけどな……俺が戦うわけじゃないけど。


だが補助的な立ち位置とは言え最重要に近い仕事をしなければならない、気を引き締めないとな。


俺は魔王と別れてアラクネ族の所へ行き、魔力量が上がる装飾品を出来るだけ準備してくれと伝えて受け取る。


「必要ならそのまま使ってくださって構いませんからね?」と言われたが、売り物と書かれていた棚から出してきたのが見えたので「終わったら返すよ。」と返事しておいた。


以前から付けているもので不自由はしてないし、あれから目立った疲れは一度も起こしていないからな。


これ以上魔力量を増やしても仕方ないように思う、多ければ多いほどいいんだろうけど。




避難所の様子を見に行くと次の避難民が移動してきて、避難所が窮屈になりつつあったので次の避難所を建てる。


誘導しているとドラゴン族がマーメイド族を抱えて空を飛びながらこっちに向かってきた、人間領で仕事をしていたマーメイド族を連れて帰って来てくれたんだろうか。


「村長、報告があります。

 人間領で一部の兵士が武装して軍船で出航の準備をしているそうです、そこに見慣れない服装をした女性が剣を携えていたと。」


「その情報は確かか?」


「はい、私がこの目で見ましたので間違いないです……海の中からこっそり見たり聞いたりしました。」


ドラゴン族が抱えているマーメイド族が追加で報告をしてくれた、そんな危ないことをしていたなんて……偶然かもしれないが無事でよかったよ。


だが見慣れない格好ということは俺が住んでいた世界の衣服だろう、着替えないということは動きやすいものなのだろうか?


だが相手が剣を使うという事が分かったのは大きい、メアリーに報告してどう動くか話を詰めないとな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る