第175話 ダンジュウロウが帰った後、カタリナからとんでもないことを聞かされた。
「世話になった、是非また来ようと思うぞ。」
ダンジュウロウが人間領に帰るというので見送りをすることに。
「是非また来てくれ、次はもっと余裕を持って来る知らせを送ってくれたらとびきりの食材を用意して宴会の準備をしておくから。」
「それは楽しみだ、次はそうさせてもらうぞ。
土地の件は決まり次第手紙を送るからな……それとリッカ、最初に言った通り戻ってくるのは構わんが、ここで見た私の姿は他言無用だぞ?」
「分かっております父上、村の住民以外誰にも話さないことを神に誓います。」
「うむ、それでいい……そういえば村が崇めている神の神殿建設もいずれ依頼させてもらおう。
神殿は建てれても神の像は村長しか作れなさそうだ。」
リッカが神を崇めたいと言ってたし話があったのだろうか、神殿を見た時は軽い見学程度で終わったからそこまで興味が無いと思っていた。
「任せてくれ、その時は資材の準備だけは頼むぞ。」
「もちろんだ、そこまで世話になるわけにはいかん。
しっかり気分転換出来たし勉強になった――では、またな。」
「あぁ、また是非。」
ダンジュウロウは少し泣きそうな顔で定期便に乗り込む、そんなに帰るのが辛いのだろうか?
俺は手を振ってダンジュウロウを見送る、突然の来訪を聞いた時は不安だらけだったが良い内容の話し合いや関係の構築が出来て良かったよ。
これでより人間領と交流を深めやすくなった、向こうから手紙が届けばその内容に沿って動くとしようか。
そのためにもまずは話し合いだな、明日にでも長を集めて人間領へ出す人員割り当てを決めなければ。
次の日。
朝食を終えて話し合いをした結果、魔族領に割り当てている人員が緊急時を考慮しても過剰気味だったので少し減員して人間領へ出せるとのこと。
それに村から追加で人間領へ向かう人員を出せば充分同じ内容の物を提供出来るそうだ、ケンタウロス族の定期便は出さないみたいだけどな。
マーメイド族の話によるとそこまで道が綺麗に整備されてないらしい、車椅子での移動も少し大変みたいだ。
確かにそんな路面状態で安全に荷馬車は走らせれない、そう考えれば魔族領はきっちり整備されていてすごいと思う。
これでいつ手紙が届いても大丈夫な状態を作れた、後は交易の内容をキチジロウがどう更新してくるかだな……出来れば次の次くらいで品目が増えていると嬉しいんだけど。
決めることは決まったので俺は交易の事を考えていると、カタリナが「話し合いはこれで終了、解散して仕事に戻りましょう。」と手を叩きながら皆に告げている。
俺も仕事と鍛錬に戻らないとな、ダンジュウロウの対応をしていて鍛錬も軽めにしか出来てなかったし今日はちょっとしっかりやるとするか。
「あ、村長。
ちょっと話があるから残ってくれないかしら。」
カタリナに呼び止められる、その表情は珍しく真剣そのものだ。
「あぁ、わかった。」
俺はカタリナの表情に少し気圧されながらも返事をする、そこまで真剣な話って何だろうな……子どもが出来たとかか?
「ダンジュウロウさんから聞かされたのだけれど、あの人は占星術を扱えるらしいの……紛い物じゃなく王家の秘術として。
黙って村長を占ったらしいのだけど、遠くない未来に究極の選択をしなければならないらしいわ。」
真剣な表情だから何かと思えば占いか、女性はそういうのが好きだな。
「しかし占いなんて当たる時もあれば外れるときもあるだろ、むしろ後者のほうが多いくらいだ。
同じ秘術でも転移魔術とはかけ離れているだろう、俺も同じ人間だから分かるがそういうのが流行ったりするんだよ。」
「私だってそう考えていたわ、占い自体はプラインエルフ族だってしているものだから。
それでも当たるのは五分五分、だから私もそこまで真剣に聞き入れなかったの。
だけど信じてもらうためにと私の事を占ってもらって……悩みから次の日の事まで完全に的中させたわ。」
俺はそれを聞いてカタリナの話を真剣に聞くことにした、もしそうならそれは占星術ではなく予言だからな。
だが1つ疑問が残る。
「何故そんな能力を持っていながらキュウビの闇討ちを止めなかったんだ?
そこまで正確に占えるなら結果は見えていただろう。」
「私もそれを聞いたわ、返答は「そのほうが世界も人間領もより良い方向へ向かうことが分かっていたから黙認した。」だそうよ。
結果として村はキュウビがしている贖罪の旅のおかげで色んな種族、様々な技術が増えているし……その技術を人間領に出すこともしている。
それに生活魔術に関しては、ラミア族が居なければ人間領に生活魔術の人員を割り当てることは出来なかったから。
私の事に関しても闇討ちに関しても答えが的確、信じるに値するものだと判断したわ。」
その場に俺が居なかったから何とも言えないが、話をされた当事者のカタリナはしっかり報告してくれているだろうし信用するべきだろう。
「だが何故俺に直接言わなかったんだ、直接言えないほど深刻な選択をしなきゃならないのだろうか……だったらそれを避けて通りたい。」
「内容が内容だけに伝えれなかったらしいわ、たまたま最初に見かけた村長の妻である私に話したみたいだから。
それに避けることは出来ないと思うわよ……何故なら村長は人間領に降伏するか争わなければならないらしいから。」
なんだって?
あそこまで友好関係を築けたダンジュウロウが治める人間領と何故争わなければならないんだ、あれは演技だったのか?
カタリナの言葉を聞いて思考が混乱する、どういう状況になればそうなるのか全く分からない。
「正確に言うと、ダンジュウロウさんは人間領に帰ると子ども達と家臣にありもしない罪を着せられて捕えられるらしいの。
それを良しとしないダンジュウロウさんが邪魔なのでしょうね、そこから存在しえない力を持った者と共に世界を侵略し始めるらしいわ、村長みたいな存在しえない力は占星術にも映らないらしくて分からないと言っていたけど。」
カタリナのその言葉を聞いて思い当たることが1つある。
あの神……この世界の信仰心を増やしてやったのに恩を仇で返したな!?
俺がここに転移してくる際に【剣術】・【魔術】・【錬金術】の3つを提示してきた、そのうちの【錬金術】は俺が貰っているので残りは2つ……もしかしたらまだ渡せるリソースがあって3つからかもしれないが。
その2つないし3つの中から【剣術】か【魔術】を選んだ転移者がこの世界に新しく来るのだろう、俺の能力が占星術に映らないならそれで納得がいく。
その2つは明らかに戦う力だし、その力に溺れて現地住民が担ぎ上げて世界を侵略……といった線だろう。
余計な仕事を増やしやがって、会った時は殴るのを2発で済ませてやるつもりだったが泣き出すまで殴り続けてやる。
しかし俺の力は戦いに全く向いてない……強いて言うなら地の利と村の素材があるくらいだ。
これ以上は俺が考えても仕方のないこと、戦闘に長けた住民とメアリーの出番だろう。
「分かった、話してくれてありがとう。
だが話を大きくするわけにもいかない、ここには魔族領から村に来訪してる人だっているからな。
メアリーとウーテに相談して必要な種族の長に声をかけて、明日改めて話をしよう。」
「分かったわ、帰ったらメアリーとウーテに伝えておくわね。」
ここ最近はずっと平和だったのに、まさか同じ転移者と争うことになるなんて思いもしなかったぞ……。
とんでもない厄介ごとを聞かされたものだ……頭が痛い。
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